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Side 黒
初めてなんじゃないかと思うほどの、すごい剣幕。
こんな怖い顔のジェシーを俺は見たことがない。
座って肩を縮こめる俺を、背の高い彼が見下ろしてくるものだから威圧感がすごい。
なぜこんなことになったかというと、ほとんど自業自得だ。
前にみんなで仕事をしたとき、テレビ局のエレベーターがたまたま壊れていて階段を使わなければいけなかった。
たったの2階分上っただけなのに、俺は息を切らし膝に手をつく始末。
そんなことは今までになかったから、5人に心配され、特にジェシーには「病院行っとけ」と忠告されたのだ。
そしてダンスの練習をしていたときにも胸が苦しくなり、倒れる寸前だったというのがさっきまでの出来事。
今、「だから病院行ったほうがいいって言っただろ」と怒られている。めったに怒らない温厚な彼のことだから、なおさら怖い。
「マネージャーさんに言って休みもらった。その日に予約取るから」
そう言うと、やっと納得した顔になった。
「わかった。…結果、ちゃんと話せよ」
強く言ったものの、ジェシーの表情はどこか怯えている。
俺だってわかっている。きちんと受診したほうがいいのは。
でも怖いんだ。もし病気だと宣告されたら。
みんなに迷惑をかけるし、活動もどうすればいいかわからない。
もういっそ、全部やめてしまえば……。
心の中で揺れ続ける思考を断ち切るように頭を振った。
重い足取りで病院から帰った日の夜、まず最初に電話したのはジェシーだった。
ほかの人――樹や高地のほうがしっかりしているけれど、彼なら何でも話せる気がして。
少しの呼び出し音のあと、いつもの調子で話しかけてきた。
「もしもーし、どうしたー?」
「ふふ……あのさ、検査結果」
抑えきれなかった笑いを漏らしながら、なるべく明るく言ってみる。
「ああ、どうだった」
相手もそんなに暗い声色ではないことに、ほっと安心した。
「なんか、肺高血圧症っていうらしい」
何でもないことのようにあしらいながらも、胸中ではどう打ち明けようか迷っている。
「……でも」
電話の向こうでは押し黙っているのか、珍しく相槌もない。
「音楽活動、厳しいかもって言われたんだよね」
やはり静かだ。少しの沈黙ののち、
「それでも続けろって俺が言ったら、北斗怒る?」
ううん、と首を振る。「怒りはしないけど……お医者さんに怒られるかも」
「そっか。だけど俺はやってほしい。それに北斗だって辞めたくないんでしょ?」
核心をつかれて、うっと言葉に詰まる。
「…やっぱり。じゃあやればいいじゃん。だって厳しい”かも”でしょ。できるかどうかなんて、やってみないとわかんない」
それがきっとダメなんだよ、と吐息をつく。
「やってみて倒れたら本末転倒だし」
「大丈夫だって。とりあえずみんなにも話しておくから。俺らがいれば大丈夫」
いつになく強いジェシーの口調に、その本気度がうかがえる。
みんなと一緒にいたい。だからやらないと。
自分とメンバーを信じよう、と思った。
続く