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テラーノベルの小説コンテスト 第3回テノコン 2024年7月1日〜9月30日まで
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 飛んできた自動販売機は、必然的に俺の目の前に現れた魔女っ子にぶち当たる……ということにはならなかった。
 自動販売機が魔女っ子を押しつぶす寸前に、突然空間に魔法陣のような円形の印が浮かび上がり、ばちばちという電気が流れるような音が響いたかと思えば、次の瞬間には自動販売機が弾き返されていたのだ。
 弾き返された自動販売機は、俺の前方の斜め前辺りに路上駐車されていた車へと飛んでゆき、バンパーとフロントガラスを破壊して、そのまま車道へとごろんと転がる。

「……さすがにやばくないか?」「なんだよあれ」「きゃっ」「警察呼んだ方がいいよな」

 周囲から声が上がる。
 日常の中で起こった尋常ではない事態に、さすがの傍観者たちもただ黙って見ているわけにもいかなくなったみたいだ。

「お、おい。あんた……大丈夫か?」

 ごくりとつばを飲み込みつつ、俺は聞く。

 ……というか、今この子、なにもない空間から突然現れたような……。

「我に対するいきなりの暴挙……不躾にもほどがあるのう」

 魔女っ子は、俺に構うことなく、自らの衣服の確認をする。

「自動防御魔法を展開していなかったならば、今まさに我の命の灯火は、儚くも消え去っておったところであるぞ」

 自動防御魔法? 魔法? 

「うむ。ここが異世界……ここが『チキュー・ニッポン』か。どうやら、転送魔術は滞りなく発動したみたいじゃな。とりあえずは一安心じゃわい」

 異世界? 転送魔術?
 さっきアビゴールも『向こうの世界』みたいなことを言っていたし、ということは……ようは、この二人は異世界人?
 だったら……だったらこの魔女っ子も――

「ひいいっ! じゃあお前も、俺を殺しに!?」
「はあ?」

 眠そうな目で、小首を傾げる。

「我が、おぬしを? 笑止。むしろその逆ではあるが」

 言葉を切ると、突然魔女っ子が俺の前から姿を消す。
 魔女っ子の代わりとでもいうように、そこにはアビゴールにより突き出された槍が、まるで空間を切り裂いたようなキーンという音を残して静止している。

「ふあああ……全くせっかちじゃのう」

 いつの間にか俺の後方に移動していた魔女っ子が、気だるそうにあくびをしつつ言う。

 瞬間移動? 瞬間移動だよな!?
 やっぱり本物か……!?

「なぜにそれほどに生き急ぐ? それでは人生、疲れるじゃろうて」
「もうきやがったか。てめーあれだろ? 勇者候補者を守る、人間族の使者だろ?」
「うむ。いかにも」
「ちっ……くそが……。転移前のくそ雑魚無能力者を殺すだけの、お手軽なお仕事だと思ったのによお」

 勇者候補を守る? 人間族の使者? ……だったら!

 立ち上がると俺は、魔女っ子にすがりつく。
 そこにあるのは、いい大人が女の子にすがりつくという、なんとも情けない光景であっただろうが――ええい! そんなこと言っていられない!

「あんた、俺を守るためにきてくれたのか!? そうなんだよな!?」
「…………」

 俺の質問に魔女っ子は沈黙で応えると、すっげー面倒くさそうな目で俺を見下ろしてから手を振り払う。

 え? なに? どういうこと?

「はあ……勘違いするでない。先ほどの攻撃を防いだのは……なんというか不慮の事故のようなものじゃ」
「事故? なにを言って……」
「つまりじゃ。あれでおぬしが亡き者になってくれておったならば、我はお役御免ということで、もとの世界に帰還できたということじゃ」
「は? え? え?」

 頭が追いつかない。

 つまり、どういうことだ?
 この魔女っ子は俺を守りにきたのであって、殺しにきたわけじゃないよな?
 でも、今、確かに、さっさと死んでほしい……みたいな言葉を口にしたような。
 ……え?

「ふうん……ああ分かった分かった」

 納得したように、アビゴールが相槌を打つ。

「てめーあれだろ? イビサだろ? ヴァレンティーヌ家の」
「うむ……まあ、そうだが?」
「やっぱしな! 聞いてるぜ。能力を失いつつある零落した魔術師一族だって。その眠そうな目、やる気のない雰囲気、なによりも歳の割りにちんちくりんな体つき! 噂通りのだめっぷりだぜ」
「ち、ちんちくりんは関係ないじゃろうて!」
「となるとさっきの防御魔法だって、あらかじめ付与されていたところを見ると、他の誰かに施してもらったものなんだろ? 自分じゃあできねえだろうからさ!」

 イビサと呼ばれた女の子が、ぐぬぬ……みたいな顔をする。

 え? じゃあマジなの? 能力を失いつつあるって。ようは、魔法が使えないって。

「ああうるさいうるさい! とにかく我はなにもせん! こやつを殺したいのならばさっさとすればよかろうて! 我はきたくてきたわけではないわい!」
「はっ。なんかよく分かんねえけど、殺していいんならそうさせてもらうよ」

 嘘……だろ?
 普通こういう時、空から落ちてきた女の子は、悪から主人公を守ってくれるもんじゃあないのか?
 全力で守って、職務をまっとうするもんじゃあないのか?
 あんたが……イビサが守ってくれないのなら、一体俺は、誰に助けてもらえばいいんだ?
 ああっ!

「じゃあ遠慮なく」

 アビゴールが、槍を振り上げる。

「今度こそ、死ねや!」
「うわああああああああっ!」
「なにをしている!!」

 女の子の動きをとめたのは、背後から発せられた、男の人の声だ。
 とっさに俺は声の主へ振り向くと、そこには白のシャツに紺色のベストを着用した、二人の警官の姿があった。

 け、警察官! なんと頼もしい!
 やっぱり善良なる都民を守るのは、警官なんだな!
 しっかりと税金を払っているかいがあったってもんだ!

「そこの女! 武器を下ろせ!」
「なんだてめーら?」
「早く武器を下ろすんだ!」
「ああ……俺っちの世界で言う、騎士みたいなもんか? 治安維持に従事する」
「聞こえないのか!? 武器を下ろして、手を頭の上にのせろ!」
「正直、殺しちまってもいいんだけど……」

 アビゴールが『殺し』という言葉を使った瞬間、警官の一人が銃を引き抜き、構える。
 それを見た野次馬たちから、ざわっという声が上がる。

「言うことが聞けないのか!? 武器を下ろせ! 手を頭の上にのせろ!」

 銃を構える警察官。まだ引き金に指はそえられていないが、その表情からは本気の気迫がじりじりと伝わってくる。

 た、助かった……?
 なんといっても警察だ。
 拳銃だ!
 日本の警察を敵に回したら、さすがの異世界人だって退かざるを得ないだろう。

 心の中で安堵の吐息をはきまくっているそんな俺を尻目に、アビゴールがにやりとまたもや口角を上げてほくそ笑む。

「せっかくだから、鈴木友作くんにはもっと絶望してから死んでもらおうかな」

 ぞっとした。
 背筋に悪寒が走った。
 これはやばいと、細胞の一つひとつから警告が発せられた。

「武器を下ろせ! 頭の上に手をのせて、その場に伏せろ! できないというのなら――」

 アビゴールが警官に対して手をかざすと、なにがあったのか、銃を構えた方の警官が突然黙り込む。
 不審に思ったのか無線機に呼びかけていたもう一人の警官が歩み寄るも、やはりというかなんというか、そちらも突然動きをとめて無線機のマイクを手から落とす。

「てめーらは……」

 アビゴールが、人差し指でくるりと、空に円を描く。

「俺っちの下僕だろ?」
「「……はい」」

 ……え?

「だったら、おれっちの言うことを素直にきくな?」
「「……もちろんです」」

 二人の警官が俺を振り返る。
 俺は二人の警官のその光を失ったぼんやりとした目を見て、確信する。
 魔術的な力かなにかで操られていると。

「やれ」

 ――パンッ……。

 銃声が鳴り響く。それから間もなくしてあがった、きゃあああという野次馬からの女の人の悲鳴も。

 幸運にも、銃弾は俺の体をかすめただけで当たることはなかったが、精神にはぽっかりと風穴をあけた。

「うわああああああああっ!」

 叫ぶと同時に俺は立ち上がる。
 そして間髪を容れずに一目散に、とにかく前へ前へと走り出す。
 なりふりなんて構っていられない。
 だってこれは現実で、正気を失った警官が、おそらくは今も、銃口を俺へと向けて、狙っているのだから。


「はあ……はあ……はあ……はあ……ゲホゲホッ……ガハッ……はあ……」

 何年ぶりだよ? ……こんなに全速力で走ったのは。

 俺は膝についていた手を離すと、上体を上げて周りへと視線を巡らせる。

 どこかの公園。なんか見覚えがあるようなないような……。

 とにかくがむしゃらに走ってきたものだから、自分が今どこにいるのかよく分からない。

「……でも、ここまでくれば……多分……」
「多分、なんだ?」

 俺の言葉を引き継ぐようにして、誰かが質問の言葉を口にする。
 俺は心の中ではあはあと荒い呼吸を繰り返しつつ、そっと、声のした方へと顔を向ける。
 赤いタコを模したすべり台の天辺に、月光に照らされて漆黒のシルエットとなった、ドレスを身にまとった女の子の姿があった。
 もちろん手には、その華奢な体には不釣り合いの大きくて重そうな槍が握られている。

「なん……で」
「なんでって、ばっかじゃねえの? 俺っちから逃げられるわけねえじゃん。てめーがどんだけその体を酷使したって、俺っちには魔術が使えるんだからよお」

 反則だろ! チートだろ! ドーピングだろ!
 じゃあなんだ!? 俺は初めから負けが決まっていたとでもいうのか!?

「まあそういうことだから、おとなしく死んでくれや」

 アビゴールがしゅたっと飛び上がる。
 おそらくは魔術とかで身体を強化しているのだろう。
 跳躍力は半端なくて、俺の頭の遥か上を飛び越えて背後へと音もなく舞い降りる。

 ああ……今度こそだめだ。俺死んだ。絶対に死んだ。
 ここで逃げたって、また同じことの繰り返しだ。
 努力や精神論じゃあ、絶対に超えられないものがこの世には存在するんだ。

「じゃあ今度こそ」

 アビゴールが、槍を振り上げる。

「サ、ヨ、ウ、ナ、ラッ!!」

 目を閉じた。
 目の前が真っ暗になった。
 死んだと思った。
 でも痛みはなかった。
 いや、痛みどころではない。
 槍が体に突き刺さる際に生じるだろう衝撃とか、出血と共に命が地面へと流れ落ちる絶望感とか、なんかそういったものも一切なかった。

 あれ? もしかして俺……まだ死んでない?

 恐る恐る目を開けると、目の前には、絵に描いたような魔法使いの格好をした女の子、イビサの姿があった。

「え? え? なんで?」
「ちっ……」

 舌打ちをしたアビゴールが、イビサへと苦々しい顔を向ける。

「またてめーかよ。一体なにしにきやがった。やっぱり気が変わって、この愚鈍野郎を助けにきたのか?」
「勘違いするでない。我はただ、事実の確認にきただけじゃ」
「事実の確認だー?」
「いかにも。勇者候補である友作が確かに死んだというのを、我のこの眼でしかと見届けなければならん。そしてその事実を報告書にまとめて、お上へと提出せねばならん。ここまでして初めて、我は職務をまっとうしたということで、この任から解放されるというわけじゃ」

 イビサの言葉を聞き、俺はひどく落胆する。
 ……正直、もしかしたら気が変わってやっぱり助けにきてくれた!? なんて淡い期待を抱いてしまったから。

 ちくしょー……いつもそうだ。いつだってそうだ。
 期待させるだけさせといて、最後には絶対に突き落とすんだ。
 だったら初めっから期待なんかさせるなっつーの。初めっから……。

 そんな俺の落胆する姿を横目にしつつ、アビゴールがにやりと不敵な笑みを浮かべる。

「事実確認ねえ……いいよいいよ、いくらでもしやがれってんだ。今すぐにこいつをぶっ殺して、その事実確認とやらを存分にさせてやるからよおっ!」

 アビゴールが吠える。
 目を血走らせて、槍の柄を力強く握り締めて。
 しかしイビサは興奮を露わにするそんなアビゴールとは正反対に、どこまでも落ち着いた口調で言う。

「まあ待つのじゃ」
「はあ?」
「少々我に時間をくれぬか? その後はこやつを煮るなり焼くなり好きにして構わぬから」

 アビゴールの返事を待たずして、イビサは肩越しに顔を向けるとそのままくるりと俺へと体を向けて、小首を傾げる。
 ある物を差し出しながら。

「ときに友作よ。この美味であり、見た目も麗しい食べ物は一体なんというのじゃ?」
「食べ物?」

 イビサの手元に目をやると、そこには先ほどコンビニで買った、『めがこく』とのタイアップ商品『エンジェラお手製 果物たっぷりホイッププリンアラモード』が置かれていた。
 蓋の開けられた状態で、すでに半分ほど食べられた跡があるという惨状で。

「あっ……エンジェラたんのプリン……」

 俺は自分の手を、右、左という順で見る。

「そっか……無我夢中だったから、いつの間にか……」
「プリン、というのか? 単刀直入に言ってこれは、非常に美味であるのう」

 プリン……俺のプリン……俺のエンジェラたん……。

 俺はイビサの手に持たれたプリンへと震える手をのばす。
 死ぬ前に、最後に、エンジェラたんが俺のために作ってくれたプリンを食べようと。くだらないし、退屈な人生だったけど、最後の最後に、心のそこから愛してやまなかったヒロインのプリンを食べる。きっとこれは救いなんだ……と、自己完結しながら。

「ぷっはー! やはり美味じゃわい! こんなうまいもの、我は初めて食したぞ!」

 からになったプラスチックの容器に、至極ご満悦なイビサの破顔。
 最後の救いを今まさに奪われた俺は、思わず大粒の涙を流して男泣きしてしまう。

「ぐすっ……ああぁ……ひっく……」
「はあ? なにも泣くことはないであろう。幼子でもあるまいに」
「……ち、ちなみに……からあげ弁当の方は?」
「からあげ? 弁当の方はここにくる前に食したぞ。あちらも美味であった」
「ああぁ……ぐすん……おえっ」

 大人げない俺の涙にほとほと呆れ果てたのか、イビサは「はあ」とため息をつくと、そのかわいらしい顔に見るからに面倒くさそうな色を浮かべる。

「それともう一つ……いやむしろ、こちらの方が少々気になったのじゃが」

 一歩二歩と近づくと、イビサが俺の顔の前にからになったプリンの容器を突き出す。
 俺は手で涙を拭ってから、焦点を合わせるように目を細めてイビサの指がさし示す『それ』を見つめる。
 それ……というのは、容器の側面にプリントされた、『めがこく』のヒロイン、エンジェラたんのキャラ絵だった。

「……エ、エンジェラたん……?」
「エンジェラタン? この者の名前か?」
「たんはいらない。エンジェラ・エフォロス・セルフィウム。『めがこく』に出てくるヒロインだよ」
「ヒロイン? ではそれは小説かなにかなのか?」
「うん。原作はネット小説。そこから色々とメディア展開して」

 ……なんだ? もしかして興味があるのか?

 俺は思ったことをそのまま口にしてみる。

「もしかして、そういうのに興味があったりする?」
「うむ? ……まあ。このようなタッチの絵を初めて見たし、なによりも、かわい……」

 なにかを取り繕うように、イビサがこほんこほんと咳をする。
 喉の調子が整ったのか、その後にすぐに先ほどよりも若干だが声の調子を上げて言う。

「なによりとても興味深い絵じゃからのう。新しい文化として、是非とも我の世界に持ち帰れたらなあと、そのように思ったのじゃ」

 オタク文化に国境はない……かわいいは正義……今まさに、本当に本当の意味で証明されたのだと俺は悟る。

「して、こういった物は一体どこにいけば購入することができるのだ?」
「ええと……そうだなー……」

 近くの本屋で買えるか? でも小さい本屋だとあるかどうか。
 となると秋葉原? いや今だと中野とかか?
 少なくとも通販をすすめても、異世界人であるイビサに今すぐにそのシステムを理解させるのは難しいだろうし……。

「秋葉原とか中野とかまでいけば、間違いなく買えると思う」
「して、その街にはどうやっていけばいい?」
「ええと……電車とか使えないよね? となると、どうやって説明すれば……」
「地図はないのか?」
「地図? 俺んちならグーグルマップとかをプリントアウトできなくはないけど」
「決まりじゃ。では今から友作の家へと向かうぞ」
「え? マジでくんの……?」

 正直……あんまり人を入れたくないんだよなー。
 大切なアニメグッズがたくさんあるし、聖域に誰も踏み込ませたくないっていうか……。

 ちらりと、俺のすぐ目の前でしげしげとエンジェラたんに視線を注ぐイビサを見る。

 ……でもよく考えてもみろ。
 これはチャンスなんじゃあないか?
 ここでイビサを俺の自宅に案内すれば、とりあえずこの窮地から脱することができる。
 さらにいえば、イビサを部屋に連れ込んでお世辞の一つでも言えば、もしかしたら異世界についてなにより俺が今一体どのような状況にいるのかについて、色々と話を聞き出せるかもしれない。
 話を聞き出せれば、たとえイビサが俺のことを守ってくれないにしても、なにがしかの解決策を導き出せるかもしれない。
 少なくとも、今なにもせずに、なにも行動せずに、がたがたと震えて恐怖に目をつむっているよりかは生存確率が上がるのは間違いないはずだ。

 よし、だったら――

「分かった。じゃあ案内するよ」
「それでよい」
「つかなげーよ!」

 腕を組み、苛立たしげに指をとんとんするアビゴールが話に割り入る。

「一体いつまで待たせんだよ! なげえ!」
「おおすまぬな。ちょうど今済んだところじゃ」
「じゃあもういいな? 約束通り、そのちんかす野郎を煮るなり焼くなりさせてもらうぜ」
「いや」

 目を伏せたイビサが、アビゴールへと手をかざしてから小さく首を横に振る。

「すまぬがそれもしばし待ってくれ」
「は? てめー……一体なにを」
「話の流れというやつでのう。ちょっと今から友作の家へとゆくことになったのじゃ」
「あっ? どういうことだ?」

 イビサの言葉にアビゴールから表情が消える。
 代わりに表に現れたのは、冷たい真顔とその奥に蠢く憎悪だ。

「結局その無能を守んのか? さっきさっさと殺せっていったよな!?」
「うむ。殺せというのは変わっておらぬ。だがしばし待て。我の好奇心を満たすためにはどうしても必要なことなのじゃ」
「ふざっけんな! 知らねーよ! そんなのはてめーの都合だろうが!」

 投げやりに頭を振ると、アビゴールが眉間にしわを寄せてイビサを睨む。

「あーあー分かったよ。だったらもう面倒くせーから、てめーもろとも勇者候補者をぶっ殺してやんよ。それで終いだ!」
「ちなみにじゃが、一つ訂正させてくれ」

 イビサはどこからともなく杖を顕現させると、ブラスバンドのようにくるりと一周回してから前方に構える。

「おぬしは先ほど我に対して魔法が使えないみたいなことを言ったであろう。あれは完全なる間違いじゃ」
「はあ?」
「魔力を失いつつあるが、完全には失っておらぬ。つまりは今も現役じゃわい」

 杖の先についた紫色の石が、突如として強い光を発し始める。

「大地に生きる火の精霊プロメンティーネクローフェスよ、その古の叡智をもって、我ら矮小なる生者に、いくばくかの聖光を賜りたまえ……」

 おお! これが世に言う魔術詠唱! かっけーっす!

「ギガンティック・ワァーフェアー!!」

 杖の石に収斂した光が、まるで光線のように夜空の一点を貫く。
 すると、巨大な魔法陣のようなものが頭上のなにもない空間に投影される。
 魔法陣はゆっくりと反時計回りに回っており、中心には星型……ようは五芒星が、こちらは時計回りで回っている。

 すごいと思った。
 きれいだと思った。
 ずっと見ていたいとも思った。
 でもそんな思いは、五芒星の中心から出てきた、まるで太陽のように大きな火の玉により完全にかき消された。

 え? えええ?
 ちょっ……火の玉でかくね!?
 あれが落ちて爆発したら、この辺り一帯がただじゃ済まなくね?
 つか大事件じゃね?

オタク文化を守るためなら、彼女は魔王だって殺せます

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