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「海の向こうの大陸からはるばる鬼人族の里へ
ようこそ……
ワシが鬼人族の長、ヤマガミと申す」
「ヤマガミの妻、シャーロットといいます。
どうぞよろしゅうに」
「あー、やっぱり家は落ち着くなー」
親子三人―――
パチャママさんは母親のシャーロットさんの
膝の上に座って、こちら側と対峙する。
彼女のお父さんを落ち着かせた後……
集落の中央にある、彼らの実家であろう屋敷に
通された。
その家は完全に和風のそれで畳まであり―――
久しぶりの感触に懐かしさを覚え、思わず手で
撫でまわす。
「やはり外国の人間には珍しいか。
それは『タタミ』というものでのう。
鬼人族の先祖は別の世界からやって来たという
言い伝えがあってな。
それで他の国々とは一線を画す文化となって
いるようだ」
そこで同席していた鬼人族三人組、クロウさん・
シシマルさん・ツバキさんが、
「……長、お人払いを」
「内密の話がありますゆえ」
「シン様のお身上について話す事があります」
それを聞いたシャーロットさんが、周囲に視線を
一回りさせた後、
「そうどすなぁ。
お前たち、ちょっと席を外しておくれ」
その言葉に、護衛としていた数名の鬼人族が
頭を下げ、次々と退室していく。
室内にいるのは、私とメル、アルテリーゼ、
ラッチにフィリシュタさん―――
鬼人族側はパチャママさん、ヤマガミさん、
シャーロットさん……
それにあの三人組が残っていた。
「人払いをするほどの事があるのか」
ヤマガミさんが座り直し、真面目な表情となる。
「あー、そこの4人にはもう伝えて
あるんだけど」
「ちと我が夫は特殊な事情があってのう」
「ピュウゥウ~」
家族からも補足が入り、
「まっ、こことの関係も考えれば―――
話しておかないといけない事だろうしね」
最後にフィリシュタさんが口を開き、改めて
自分の事情を説明する事にした。
「シン殿が、ワシらの先祖と同じ世界から
来たとは……!」
長がその大きな体を揺らし、両腕を組んで
目を閉じる。
「シン様がいた公都『ヤマト』では―――
味噌や醤油が普通に使われておりました。
他にも豆腐、油揚げ、天ぷらに納豆に
ウドンやソバなど、似ているだけ、と
するには余りにも……」
「諸外国と比べても、食事文化が非常に
高いですし、それに異質です。
また巨大な銭湯を有し、生活習慣も非常に
似通っておりました」
クロウさんとシシマルさんが、実体験を元に
報告し、
「おそらく、鬼人族の先祖から―――
2・300年は経過している時代から
来たのではないかと。
ただ私は料理人ではないので、再現にちょっと
難があったといいますか」
「我らもそこは気になりました。
醤油や味噌があり、鬼人族の料理もいくつか
ありましたが……
その調理方法がやや粗かった印象があります。
無理やり、そういう形にしたと言いますか」
私の言葉に続き、ツバキさんが鬼人族としての
見解を口にする。
「あー! でもねでもね、他にもオイシイ料理が
いっぱいあったんだよー!
お酒もいろんな種類があったしー」
パチャママさんが母親の膝に乗りながら
顔を上げて話しかけ、
「……そういえばパチャママ?
ドラセナ連邦の連中に捕まったと、手紙には
ありましたなぁ。
しかしあんたがそんなヘマをするとは、
ウチは思いまへんのですが。
いったい、何がありましたん?」
母親であるシャーロットさんの言葉に、彼女は
凍ったように硬直する。
そういえばパチャママさんは……
相手から奪ったお酒を飲んで寝ているうちに
捕らえられたと言っていたっけ……
「あの、彼女は他に捕まっていた亜人たちを
人質に取られてしまったんですよ。
この事は、彼女を保護した時に一緒にいた
人たちからも聞いております」
「女性や子供たちもいたしねー」
「見殺しには出来なかったのであろう」
「ピュイ」
私と家族が釈明すると、父であるヤマガミさんが
パチャママさんを抱きしめ、
「パチャママは優しい子だからのう!!
無関係の者たちでも、見捨る事など
出来るはずがない!!
それでこそ、ワシとシャーロットの
娘じゃああー!!」
それを見ていた奥さんの方は、やれやれ、
というようにため息をつき、
「……まったく。まあウチも無事帰って来て
くれた事ですし、無粋な事は言いまへん。
そういう事にしておいてあげますぇ」
と、微笑みながお茶に手を付ける。
「あと、ここからが本題なのですが」
私が話を切り出すと、長一家がそろってこちらに
注目し、
「?? どういう事だ?
シン殿は我らの先祖と同じ世界から来た、
という事は聞いたが」
「何か他に―――
それ以上のお話があると」
鬼人族のご両親が不審そうに聞き返す。
「ええ、まあ……
私がこの世界に来たのはつい最近なんです。
それで、その時に妙な力を身に付けて
おりまして」
そこで私は、神様とやらから授かった、
自分の能力について説明し始めた。
「『自身が異常と認識するものは全て無効化
出来る』と―――」
「恐ろしい能力もあったものどすなぁ。
たまりまへんぇ……」
長夫婦が、呆れたように感想を述べる。
「本当にこの人の能力は質が悪いよー
魔力に関わる事は全部無効化されるし」
エルフのような外見のフィリシュタさんが、
自分がやられた時の事を思い出したのか、
遠い目をしながら話し、
「魔力ではなく、鬼としての『怪力』も
封じられました」
「鬼の存在自体、シン様のいた世界では
伝説、伝承の類であったらしく」
実際に私と対戦した二人が体験として語る。
「うむ……それで―――
その無敵ともいえる能力をワシらに明かして、
どうするつもりだ?」
「あ、はい。
一応、向こうの大陸各国……
そしてランドルフ帝国の上層部はこの事を
知っているんですが、
こちらでも私のその能力は秘密にしておいて
欲しくて」
「……んっ?」
長である大柄な鬼人族から、拍子抜けしたような
声が帰ってくる。
「あの、この能力はとても強力です。
それで刺客を送り込まれた事もありましたし。
それに悪用しようという連中が出てこないとも
限りません。
なので、秘密にして頂きたいのです」
そこで長夫婦は顔を見合わせる。
おかしいな、何か変な事を言っただろうか?
「秘密にしなければならない―――
そりゃまあ、そうだろうが。
では明かさない方が良かったのではないか?」
「これから友好関係を結ぼうとする相手に、
それは不誠実です。
それに料理や文化を見れば、同じ世界から
来た者だと気付く人は出てくるでしょう。
それなら最初から上層部の方には、
明かしておいた方がいいと思いまして」
それを聞いたヤマガミさんは両腕を組んで
天井を見上げ、シャーロットさんは頭が痛そうに
こめかみを押さえる。
それを見たメルとアルテリーゼが、
「あー、シンは争いごとが苦手っていうか、
そういうのは全力で回避するタイプだから」
「シンがその力を使うのは襲われた時か、
理不尽な目にあいそうになった時しかない。
警戒などするだけ無駄ぞ?」
そこで鬼人族の長が大きく息を吐いて、
「それで友好関係を結んだとして―――
何を望むのだ?」
「取り敢えず料理ですね。
やはり男料理という事もあって、それに
知識も中途半端でしたから……
全然再現出来ていなかったと、ツバキさんの
料理を見て思い知らされました。
後こちらでは―――
小豆やもち米、かつお節といった食材が
あるとか。
他、交易して頂けるものであればぜひ……!
もちろん、こちらからもご用意してあります。
ボーロやラーメン、調味料もマヨネーズや
メープルシロップ―――
それに砂糖の原料となる作物も持ってきて
いますので」
するとパチャママさんが片手を挙げて、
「はいはーい!
あちき、ボーロが食べたいです!
それと担々麵もー!!」
それにすでに公都『ヤマト』で料理を堪能した
三人も続き、
「あれは反則でした……」
「料理のためだけでも、交易する価値は
あるかと」
「少しは覚えてきましたので、作るのであれば
お手伝いいたします」
やる気満々のツバキさんを見て妻二人も、
「ま、とにかく食べてもらいましょーよ」
「うむ。我とメルっちも手伝うでな。
シャーロット殿、ラッチを頼めるか?」
ドラゴンの子供を差し出された長の妻は、
目を白黒させ、
「では、台所をお借りしてもよろしいで
しょうか。
それとなるべく多くの人に食べてもらって、
感想を聞いてみたいので、里のみなさんにも
食べて頂きたいのですが」
私の要請を受け、長夫婦は困ったように互いの
顔に視線を行き来させ、
「わ、わかった。
里のみんなにはワシから声をかけておこう」
「どうぞよろしゅうに……」
そこで私たちは、屋敷の台所へ向かった。
「な、何だこのウドンともソバとも異なる
食感は!?」
「熱い、辛い!
でも止まりまへん!
お米をこんなに美味しく感じたのは、
久しぶりどすぇ……!」
小一時間ほどして、屋敷の大広間で料理を
披露する事にしたのだが、
ヤマガミさんは担々麺を、シャーロットさんは
ボーロを夢中になって頬ばり、
「あー、これこれ!
いくらでもお腹に入るー!」
二人の間で、パチャママさんも母親と同じく
ボーロ―――
つまりカレーライスをかきこむ。
鬼人族たちは大食漢と聞いたので……
まずは自分が先に料理を作り、その後
メルとアルテリーゼに台所を任せて
休憩&様子を見に来たのだが、
「こ、この肉の揚げ物はいったい―――
どうやったらこんなにサクサクした感じに
なるのだ!?」
「こちらの魚のほぐし身もたまらん!
調味料次第で、こうもうまくなるとは!」
あっちの鬼人族が食べているのは、チキンカツと
ツナマヨだな。
天ぷらはあるものの、パン粉で揚げる調理法は
初めてだろうし。
「このすぱげってぃ? ていうのおいしー!」
「ねー、まだこのころっけっていうのあるー?」
「お母さん、今度このはんばーぐっていうの
作ってー!」
向こうでは子供たちが思い思いの物を食べて
いるが、おおよそ好評のようだ。
しかしこうして見ると、明らかに鬼の特徴を
備えている鬼人族に交じって……
普通の人間や獣人らしき姿もちらほら見える。
ただそれは大人に限っての事で―――
子供の鬼人族はみんな鬼っ子という感じだ。
そして大人の鬼人族たちは大半は辛い系のものを
好んで食べているようだが……
その中でも群を抜いているのは、
「……カーッ!!
これ、麦酒だろ!?」
「こっちのモノとは全然違う!
しかも飲みやすい!」
「どぶろくや濁り酒とはまた異なった
味わいだ!」
お酒もいくつか持ち込んだのだが、
よく冷やしたビールはあちこちでガブ飲み
されていた。
基本的にこのビールは、この世界にあった
エールを『蒸留』して濃縮させたもので、
さらにそこに炭酸を後から混ぜる事で、
現代の地球のものに近いビールを再現している。
「シン!
ボーロ、二十人前上がったよ!」
「チャーハンも三十人前追加じゃ!」
メルとアルテリーゼが料理と共に慌ただしく
入って来て、
「お疲れ!
じゃあ次は私が変わるから、適当に
2人も食べていてくれ」
そこで妻たちとバトンタッチし、再び
台所へ向かおうとしたが、
「あれ? シン、ラッチはどこ?」
「姿が見当たらぬが……」
二人の問いに私はあるところを指差す。
その先は―――
「や~ん♪
ラッチちゃん、あ~ん♪」
「ドラゴンの赤ちゃんがこんなに可愛いなんて、
思いもしませんでしたわ~♪」
「ほら、こっちのギョーザも食べて♪」
そこには鬼人族の女性たちでハーレム状態と
なったラッチが、いろいろ食べさせてもらって
いて……
メルとアルテリーゼはそれを見て、やれやれ、
というようにため息をつくと、私はそれを
見届けて台所へ向かった。
「おっしゃあぁああ!!
次はいねーかあ!?」
「では俺と一手、お願いいたす!」
一通り宴会のようになった食事会が終わり、
デザートも出て一段落した後、
屋敷の中庭でなぜかフィリシュタさんが、
腹ごなしと言って、鬼人族たちを相手に
武器無しの『手合わせ』を始め―――
また鬼人族の若い連中も、男女問わず
彼女に挑み……
それを縁側で観戦する流れになって
しまっていた。
「あの女人、強いのう。
魔力・魔法もそうだが……
戦い方に年季が入っておる」
「彼女は魔界王です。
少なくとも300年以上の時を生きて
おりますので」
「普段ならそないあほうな、というところ
ですが―――
シン殿のおっしゃる事、もう驚きも
しませんぇ。
その魔界王を連れて来たという事は、
何か理由があるんやおまへんか?」
さすがにトップの妻であるだけあって、
シャーロットさんは鋭い。
「まあそれは、落ち着いてから話しましょう」
これも人に知られるのをはばかられる事なので、
取り敢えず彼女の『手合わせ』が終わるのを
待つことにした。
「どの地にも一瞬で行ける―――
『ゲート』だと?」
また人払いをしてもらい、事情を知る四人組と
共に、鬼人族の長夫婦にその事について話す。
「実は……
我々はランドルフ帝国のティエラ王女様の
助けを得て、直接海の向こうの大陸へと
渡ったのです」
「帰りは船で帰って来ましたが、そのおかげで
パチャママ様と早く合流出来ました」
クロウさんとシシマルさんが帝国で『ゲート』を
使った件について説明し、
「途中、魔界という場所を挟みますが―――
そこにおられるフィリシュタ様の許可を
得れば、安全に通過出来ます。
敵対勢力がそこを通り抜けるのは、まず
不可能かと」
ツバキさんが二人から引き継いで詳しく語る。
「ランドルフ帝国は、その『ゲート』の設置に
反対はせぇへんかったのやろか」
シャーロットさんがもっともな疑問を
口にするが、
「まあ、事後承諾に近い形ではあった
けどねー」
「友好関係さえ結んでおれば、これ以上はない
確実な脱出路になるからのう」
「ピューイ」
半ばなし崩しに帝国に認めさせたような
ものだが、すでに作られたとみるや、
あっさりとそれを利用する方針に転換した。
そこはさすがに帝国……
そしてマームード皇帝陛下といったところか。
それを聞いていた鬼人族の長―――
ヤマガミさんは両腕を組んで考え込んで
いたが、
「最近、ドラセナ連邦が周辺の村や集落を
襲っているという話は入っておった。
いざという時……
そんな脱出方法があるのは確かにありがたい。
だがワシも一族の長だ。
昨日今日会ったばかりの相手の提案に、
おいそれと首を縦に振る事は出来ん」
まあ、それが普通の対応だろう。
それに、そんなに簡単に相手の求めに応じて
いたら―――
内外に甘く見られてしまうという事情もある。
いわゆる舐められる・舐められないという
レベルの話であるが、そこは結構重要なのだ。
ましてや、揉めている相手がいる状態では……
「別にシン殿を疑っているわけでは
ないのだがな。
それにシン殿がその気なら、交渉どころか
有無を言わさずこちらを従わせるだけの
力があるわけだし。
それに『ゲート』の件はどちらにしろ、
大っぴらには出来ん」
「いざちゅう時、勝手にそないな物を作って
いたのかと、非難される事も考えられるん
どすえ。
そこはまた、交易する利とは違うたものが
求められるんどす」
まあそれはシャーロットさんの言う通りだ。
商売的な利益と、軍事・安全保障的な利点とは
また異なる。
「交易以外に、何かもう一つパンチが欲しい
ところだねー」
「それならば、パチャママ様を助けた事で
達成されているのでは」
メルの言葉にクロウさんが答えるが、
「ワシが恩義に感じて返すのならばいいが、
『ゲート』は公に出来る事ではないしのう」
そういう考え方もあるのか……
確かに、身内を助けられて恩を返すのは
当然であり自然だが―――
『ゲート』は極秘にしてくれと言っている以上、
それは目に見える形で通す事は出来ない。
そこで全員が考え込む中、
「なー、何か困っている事ないの?
今ならシンがいるから、たいていの事は
解決出来ちゃうよ?」
フィリシュタさんが空気をクラッシュする。
「フィリシュタ……
今は真面目な話をしておるのだがのう」
ドラゴンの方の妻がそれを注意するが、
「目に見える功績があればいいんでしょ?
それがあれば、いざという時―――
『あの時の礼として受け入れた』って
言う事が出来れば。
シンがいるうちに、何とかしておきたい
事ってここにはないの?」
私とて万能ではないのだけど……
まるで便利な道具を紹介するかのような
フィリシュタさんの提案に、鬼人族たちは
話し合い始め、
「……実は、ワシら鬼人族はある鉱山を
所持しておる。
だがそこは、昔から妙な噂が立っておる
場所でもあってのう。
それを解決出来たのなら―――
ほとんどの者は納得するだろう。
頼めるだろうか、シン殿」
私がうなずくと、家族も一緒に頭を下げ……
その鉱山へ向かう事となった。
「しかし、鬼人族であれば―――
モンスターや怪物がいても、何とか
なるのでは?」
翌日、メルとアルテリーゼを連れて……
クロウさんに道案内を頼み、鉱山へ行く途中、
彼に世間話の一環として話しかける。
「そうですね。たいていの怪物であれば
敵ではないのですが。
ただ鉱山の中だとそうそう暴れるわけにも
いきませんし―――
何より、つかみどころの無い相手ですと」
「そういえば、どんな姿をしているとか
わかってないの?」
メルが聞き返すとクロウさんは申し訳
なさそうに、
「は、はい。
何でもいきなり人間の美しい女性が
現れ……
『何でこんなところに?』と思っていると、
いつの間にか縛り上げられてしまっている
ようです。
力づくで解けない糸ではないので、
これといった実害は出ていないのですが、
みんな気味悪がっているようで。
まあ昔から噂されているだけですので、
私自身、半信半疑ではあるのですが」
うーん……何か聞いた覚えがあるな。
美人、糸、縛り上げる……
まあ鬼だからそれだけで済んでいるん
だろうけど。
「どうしたのだ、シン。
何ぞ思い当たる事でも?」
「あー、いや……
もしかしたらそれも、昔話に出てくる
怪物かも、と思って」
私がアルテリーゼにそう答えるとクロウさんが、
「おお!
そういう事でしたら、すぐに解決出来そう
ですね!」
と、表情が明るくなり―――
とにかく私たちは、その鉱山へと急いだ。
「ここですか、意外と近かったですね」
「はい。それと―――
奇妙な噂があるので、鉱山で働く者たちは
本当に最低限、採掘の時しか入らないのです。
ただ方々には明かりのための魔導具が
取り付けられています。
なので通行するのに支障はないかと」
鬼人族の里から一時間ほど歩くと……
その鉱山入口に到着した。
なるほどクロウさんの言う通り、中はそれなりに
明るく感じる。
「中は広いですが、迷うほどではないと
思います。
それにところどころ、案内板もありますので」
「じゃあ二手に分かれようか。
クロウさんは鬼人族だけど……
失礼ですが、お一人で怪物と出会ったら
戦えますか?」
そこで彼は頭をかいて、
「人間よりは強いと思いますが―――
潜入調査専門なので。
鬼人族の中では結構弱い方かと。
まあ相手の怪物次第だと思います」
「それなら、アルテリーゼを同行させた方が
良さそうですね。
では私はメルと一緒に探索します」
「りょー」
「わかったぞ」
こうして私たちは二手に分かれ……
鉱山内を調査する事にした。
「う~ん。
これといって異常は無いね」
「美人さんが出るって言ってたけど……
お、お、オバケじゃないでしょうねえ?」
奥まで歩いていると、メルが急に怯えだす。
そういえばアルテリーゼも確か、そっち系は
苦手だったっけ。
「でも糸? で縛るとか言ってたし、
そっちは物理系だと思うんだよなあ」
「そういえばシン、昔話に出てくる怪物かもって
言ってたけど、それってどういう」
と、彼女とやり取りしていると、
「……人間、か?」
不意に話しかけられ、そちらに視線を向ける。
そこには魔導具の明かりに照らされた、
白装束の和風の着物に、黒髪ロングの
日本美人が立っていて、
「ででで、出たー!!」
しがみつくメルを落ち着かせるようにして、
和風美人に話しかける。
「えっと……人間ですけど。
あなたはこんなところで何を?
鬼人族ではないですよね?」
すると彼女は半泣きになって、
「そーなのよ!!
ここ、何で鬼しかいないの!?
捕まえても簡単に逃げられるわ、
そのうち、鬼すらあんまりここに近寄らなく
なっちゃうし……
おかげでお弁当を失敬する事も出来なく
なったし、いつもお腹ぺこぺこなのよ!!」
何やら苦労してそうだけど、それをこちらに
言われても……と思っていると、
「……ん?」
いつの間にかメルごと、私は白い糸に
立ったままグルグル巻きにされていて、
「やっと普通の人間が来たわよ……!
もう本当にありがとう!
そして最初に言っておくわ、頂きます!
ちゃんと味わって食べますから!
ていうか人間食べるのに、何でこんなに
四苦八苦しなければならないのよおぉ!!」
鬼人族の里の鉱山だからなあ、ここ。
確かに何人か普通の人間も混ざっていたけど……
鉱山には力仕事で鬼しか来ないだろうし、
そういう意味では、人間を捕食する化け物に
取っては最悪の場所だろう。
そしておそらく彼女は―――
『土蜘蛛』と呼ばれる妖怪だ。
美しい女性に化け、人間を誘い……
洞窟の奥を住処としていた大きな蜘蛛の化け物。
いつの時代からいるかわからないけど、
鬼の先祖の異世界転移に巻き込まれたか、
それともそのしばらく後から来たのか。
私がいろいろと頭の中で検証していると、
「そういえばお2人さんはご夫婦ですかぁ?
男女そろってこんなところに来るなんて。
いえワタシとしては大変嬉しゅうございます
けどね。
あ、1人先に食べてもちゃんと後から
もう1人同じところに送ってあげますので
そこはご心配なく―――」
食べる気満々のところ悪いけど、私はつぶやく。
「生物由来で、このように大きな、そして
人間を拘束出来るほどの糸を作るなんて、
・・・・・
あり得ない」
そしてメルに目配せすると、
「おーい、シン。もう大丈夫?
やっちゃっていい?」
「うん。もう切れると思うから」
そこで人間の妻が力を込めると、ぶちぶちと
体に巻かれた糸が切れ始め……
「え? えっ? 何?
も、もしかしてあなたたちも鬼だったの!?」
目を白黒させて和服の女性は驚く。
多分これから逃げようとするだろうから、
また私はつぶやき―――
「人間の姿から別の姿に変わる、
もしくは別の生き物に変身するなんて、
・・・・・
あり得ない」
そこで彼女はこちらに背を向けるが、
そのまま転んで、
「あっあれ!? 何で!? どうして!?
は、早く蜘蛛の姿にならないと……」
さらにそこへクロウさんとアルテリーゼが
駆けつけてきて、
「どうしました、シン様!」
「こっちで何やら大きな声がしたような……!
む!?」
二人がそこで目撃したのは―――
立っている私たちと、
その前でうつ伏せに倒れ、上半身を両手で起こす
白装束の女性の姿だった。