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「うまっ!! 何コレうまっ!!
あ、カツボーロってのまたお願いします!
それとこの麺類っていうのも一通り―――」
鬼人族の里、その長の屋敷で白装束の黒髪黒目の
女性が、次々と料理をかきこむ。
「プハーッ、あーもう!
いつの間に鬼ってこんなオイシイもの食べる
ようになってたの!?
人間なんか待ち続けたワタシがバカみたい
じゃないの!!」
彼女は鬼人族の鉱山で発見した
土蜘蛛さんで……
鬼の長であるヤマガミさんに、今後の扱いを
決めてもらおうと連れて来ていた。
「しかしよく食べるのう……
それだけでも、まともな人間ではない事は
わかるが」
「確かに妙な妖気も感じるわぁ。
人ならざる者やろうね、この方は」
長夫婦であるヤマガミさん・シャーロットさんが
呆れながらその光景を見つめる。
「シン殿は襲われたと聞きましたが―――
どうしてこの者をこちらへ?」
同行したクロウさんが私に疑問を向ける。
実際、それは敵対したという事でもあるし、
そんな者をなぜ殺さずに連れて来て、あまつさえ
ご飯まで食わせているのか……
その理由は当然聞きたいだろう。
「まあ、話し合いの余地があるのであれば、
相手の言い分も聞いた方がいいと思いまして。
それに私の住む公都『ヤマト』にも、
半人半蜘蛛の亜人の方がいるんですよ。
なので退治とかそういうのはちょっと―――」
「あー、ラウラさんね」
「同種族ではなかろうが、倒すのはちと
ためらわれるのう」
「ピュイッ」
私の後に家族……
メル、アルテリーゼ、ラッチが続けて語る。
「捕らえたのはシン殿ゆえ、それについては
異議を挟まぬが―――
土蜘蛛とやら、お主は鬼を知っておるよう
だったが、やはり先祖のいた世界からここへ
来たのか?」
とにかく話を進めようと、長が彼女に事情を
たずねると、
「あー、やっぱここ日本じゃないんだね。
まあそんな感じはしてた。
でも鬼ばっかだったから……
地獄に迷い込んだんじゃないかと思ったよ」
「えらいな言い方どすなぁ。
地獄のお料理はうまいどすか?」
皮肉だか本音だかわからない言葉が、長の妻から
返される。
「とはいえ、ワシらの鉱山で悪さをしていた事は
違いないからのう―――
鬼人族ゆえ手出しが出来なかっただけで
あろうが、もし人間が出会っていたらと
思うと」
ヤマガミさんが懸念を伝えてくるが、
「それはそうなんですが……
子供はともかく、大人ならそう簡単には
やられなかったかと。
こちらの世界には魔力がありますからね」
そこで私は土蜘蛛さんの方を向いて、
「この世界の人たちは―――
普通に火や風を使う術や、怪力になる術を
持っていますよ。
全員が陰陽師のようなものだと思って
もらえれば」
「え、何ソレ?
本物の地獄より質悪いじゃんココ……」
私はさらに話を続け、
「それにあなたは、人間を食べるのが久しぶり、
みたいな事を言ってましたけど。
あの場所というかこの世界に来てから、
人間を食べた事は?」
「う~ん……
実はいつ来たのかハッキリとは覚えて
いないんだけど。
あの洞窟? で鬼がたくさんいる場所に
来てからは、一人も食べていないよ」
その答えに私はホッとし、質問を続け、
「それで、今後人間を食べるつもりは―――」
すると彼女はブンブンと首を左右に振り、
「いやもーまったく!
今食べている物に比べれば、人間なんて
もう食えないよ!
それに人間食べるには捕まえなきゃ
いけないし、その全員が陰陽師ときた日にゃ。
割りに合わないって!」
土蜘蛛さんからその答えを引き出した私は、
今度は長夫妻に向かい、
「……という事ですけど、どうでしょうか」
二人は両目を閉じ、一方は両腕を組み、
もう一方は唇に人差し指をあてて、
「シン殿の言う、おんみょうじ? とやらが
何の事かわからんが―――
つまり魔法を使える人間は食えないと
いう事か」
「こちらとしても大人しゅうして頂けるなら、
住む事くらい許しても構わな思いますぇ」
どうやら、殺したり討伐したりするという
流れにはならないらしい。
「まあとにかく、お腹いっぱいになってから
改めて話したら?」
「今は食べる事に忙しいであろう」
「ピュウ~」
家族がそう話すと彼女はそれに応えるように、
「ホントお願いします!
こんなご馳走初めては初めてなんだけど、
それ以前、まともなご飯自体チョー
久しぶりなの!」
それを聞いた周囲は苦笑し……
結局、彼女の食事が一段落してから、
再度話し合う事となった。
「しかし、ワシから見ても普通の人間にしか
見えないのだが……
土蜘蛛、というのか?
その姿から変化するという事か?」
小一時間ほどして―――
長夫婦と娘、私たち家族、フィリシュタさん、
そして例の公都まで来た事のある三名の鬼人族
だけを残した広間で、土蜘蛛さんの件についての
話が再開された。
「あ、そうなんだけどね。
なんつーか今は変身そのものが出来なく
なっているのよ。
こんな事、今まで無かったんだけど……」
彼女は不思議そうに両の自分の手の平を
見つめる。
「えーと、それは私の能力によるものです。
変身そのものを『無効化』させたので―――
今、元に戻しますね」
そして私は彼女に向かい、
「この世界では、亜人や人外が化けたりするのは
・・・・・
当たり前だ。
……これで、もう変化出来ると思います」
土蜘蛛さんはしばらくきょとんとしていたが、
気を取り直したのか正座から立ち上がり、
「ぬ……!!」
「あれまぁ」
「みぎゃっ!?」
ヤマガミさんとシャーロットさん、そして
パチャママさんが驚きの声を上げる中、
部屋の中央に、胴体だけで三・四メートルは
あろうかという大蜘蛛が現れ、鬼人族の忍者
三人組も身構える。
「おー、結構大きいね」
「大きさだけなら、アラクネのラウラを
二回り上回るくらいか?」
「ピュピュ~」
人外や変化には免疫があるのか、家族は
いたって冷静に受け流し、
「アンタらの街、何でもいるものなあ。
今さらこれくらいじゃ驚かないか」
公都『ヤマト』の状況を知っている
フィリシュタさんも、達観した口調で続く。
その後土蜘蛛さんは人間の姿にまた変化し、
「いやたまげたね……
もう敵対するつもりはないけどさ。
こんな能力まであるなんて」
「で、あの―――
出来れば土蜘蛛さんには、出来るだけ人間の
姿でいて頂ければと」
「うん。人間の姿の方が少しの食事で
腹いっぱいになるしね。
そうさせてもらうわぁ」
軽く十人前は食べたであろう彼女の食欲を
思い出し、私は苦笑いした。
「……それで、ヤマガミさん。
例の件、承諾して頂けますでしょうか」
一応、土蜘蛛さんを別の部屋に待機させた後、
『ゲート』について長に話を切り出す。
「おう。長年の懸念がこうもあっさりと
解決されたのだ。
誰も文句は言わないであろう」
「ただ公に出来る事やあらしまへんさかい……
この屋敷の最奥に作ってくれしまへん?」
シャーロットさんの提案で、設置場所を長の
屋敷内に作る事に決まり、
「シン様たちは、この後どうするのー?」
パチャママさんの質問に、
「交易出来そうな品々を見せてもらえたらなー、
っていうのと」
「それと、こちらにも料理人を派遣して
もらえると助かる。
ツバキ殿1人が来ただけで―――
あれだけの影響があったからのう」
「ピュピュウ~」
私の代わりに、家族がこちらへ来た目的を
説明する。
「そうか。では海へ行ってみたらどうだろう?
海産物も我が鬼人族は取り扱っておるでな。
現地へ行ってその目で見てくればよかろう」
「確か小豆やもち米もご所望どしたなぁ?
内陸で取れるものはこちらで選別して
おきますゆえ。
料理人も募っときましょう」
「よろしくお願いします」
そこで、翌日海まで行く手配をしてもらい、
それまでは、こちらが持ってきた農作物の
詳しい紹介や栽培方法について費やす事に
なった。
「うわぁ……これはすごい。
牡蠣や海苔も養殖しているとは聞いて
いましたけど。
干しアワビにみりん干し、干し昆布、
かつお節―――
寒天まであるなんて……!」
鬼人族が漁業を営む漁村まで案内された私は、
まるで江戸時代にタイムスリップしてきたような
光景と、そこで扱っている海産物に息を飲む。
「我らも、公都『ヤマト』の料理を見させて
頂きましたが―――」
「むしろこれらの物が無いのに驚きました。
これでどうやって成り立っているのだろうと」
港まで案内人として来たシシマルさんと
ツバキさんが、率直に感想を述べる。
そうなんだよなあ……
ちゃんと料理を覚えてきた人間にとっては、
醤油も味噌もあるのに、出汁の元となる
かつお節も昆布も無いとくれば。
頭をかかえても仕方ないだろう。
干した海藻というか昆布もどきはあったけど、
あくまでも『近い何か』だろうしな。
「まーまー、今回はその足りない物を
補完する意味でも」
「それに、見た事も無い料理も多かったで
あろう?
シンなら、ここの物を使ってまた新たな
料理を作ってくれると思うぞ」
メルとアルテリーゼが私を擁護するように話す。
ちなみにラッチは鬼人族の長の屋敷預かりだ。
パチャママさんを始め、すっかり女性陣の
人気者になっているし。
「そういえば―――
子供はともかく、大人の方にちらほら
獣人や普通の人間の方も見えましたけど」
「ああ、外から来た配偶者の方ですね。
近隣の村や町から、嫁や婿に来た方々です」
「まあ血縁を結んで、いざという時のために
守ってもらいたいという事情もあるので
しょうが」
なるほど。確かに鬼人族は普通の人間よりは
強いだろうし、魔力に頼らなくても怪力が
基本能力として備わっている。
さらに長年の混血で、魔法を使えるように
なっているのだ。
鬼に金棒ならぬ魔法―――
たいていの事なら、彼らがいれば解決するに
違いない。
すると鬼人族二人はやや困ったように
笑いながら、
「ただ、一つ言わせて頂ければ……
外から結婚相手を迎える場合、双方の母親の
許可を必要としています」
「これは嫁でも婿でも同様です。
何でも一時、イケニエや人身御供のように
女子供が送られてくる事があったそうで……
百年くらい前から、まずは家族ぐるみで
付き合ってみて、お互い合意の元で―――
という事になっています」
無理強いはしないという事か。
それを聞いた妻たちは、
「何かずいぶんと平和的なんだね」
「まあシンと同じ世界から来た者じゃ。
大人しい性質なのであろう」
そう言ってうなずきながら納得する。
確かに鬼というのは、日本でいう化け物・
妖の代表格のような存在だが……
時代によってはその性質が異なる。
初期、平安時代や奈良時代であれば、
それこそ問答無用・血なまぐさい伝承が
いくつもあるが―――
時が経つにつれ、人間に騙されたり
やり込められたり、協力したり頼みごとを
持って来るなど、コミカルな役回りも
目立つようになってくる。
それを考えると、彼らの先祖はかなり後期に
やって来た鬼という事になる。
そもそもそれなりに文化的な生活を営んで
いるのだから……
狂暴性はかなり薄れているのだろう。
「じゃあシン様、どうしますか?」
「そうですね。
一通り持って帰りたいのですが―――
新しい料理も試してみたいので、
台所とか借りられますか?」
「わかりました。
少々お待ちを」
こうして、シシマルさんとツバキさん、
鬼人族の協力の元……
新作料理、もとい地球での料理を再現する
事にした。
「え? え? こ、これはいったい!?」
「天ぷらとはまったく違う食感……!
それにかけてあるタレは、公都『ヤマト』の
ものですね!?」
鬼人族の男女が、出された料理を食しながら
目を丸くして驚く。
「ほろ苦さとソースの甘さが絡まって―――
これは新たな美味!」
「貝などもう食べ飽きたと思っていたが、
これは何とも言えぬ……!」
メルとアルテリーゼも、食べながら絶賛する。
新しく作った料理とはそう、カキフライだ。
そしてそれにタルタルソースをつけたもの。
牡蠣にパン粉を付けて油で揚げる。
ただそれだけの料理だが、中に熱々の
牡蠣の身が入ったそれは―――
嚙みちぎると肉汁ならぬ貝汁があふれ出す。
その苦みとタルタルソースがかけ合わさると、
極上の一品となり、
「こ、こんな食べ方があったのか……!」
「生で食べるのが一番うまいと思っていたが、
揚げた牡蠣がこうまでうまくなるとは」
「白飯と一緒だといくらでも食べられる!
た、たまらん!」
この港で働く他の鬼人族の方々にも試食して
もらったが、おおよそ好評のようだ。
しかしやはり生食もあるのか。
今の日本だと、きちんと処理されたもの以外は
ご法度だけど。
「そういえばシン様―――
刺身はダメなんでしたっけ?」
「ええ、食べたいとは思っているんですけどね。
生は寄生虫が怖いので……」
シシマルさんの問いに私が答えると、
「キセイチュウ? あー、虫の事か。
確かに他の亜人や人間は食わんなぁ」
「俺ら以外は、当たるととんでもない事に
なるからなぁ、アレは」
他の鬼人族たちの話から察するに―――
『鬼人族以外は生で食べるとヤバい』という
認識は一応あるようだ。
そして当然、自分たちが食べて平気なものに
対策なんて考えているはずもなく……
よく『昔は辛子やワサビ、醤油で殺菌していた』
なんて人がいるけど、それだけで寄生虫は絶対
殺せない。
近年、冷凍技術が発達し長時間冷凍が可能に
なって、ようやく生でも食べられるように
なったのだから。
ちなみに家庭用冷蔵庫で凍らせる程度では
無理で、それこそマイナス20~30度まで
下げる必要があるのだという。
だから氷魔法で―――というのも避けてきた。
どれだけのマイナス温度になっているか計測出来ない
のと、不確定な方法として広まるのを防ぐという
理由もあったので……
「まあパックさんがいるから体ぶっ壊す覚悟で
自己責任でって手も無きにしも非ず……」
「おーい、シン。
またどっかにいっちゃってる?」
「そんなに魚、生で食べたいものなのか?」
私が思考の海に沈んでいるところ、
妻二人の言葉で正気に戻る。
「あ、ああ、ごめん。
しかし、出来れば養殖技術も持ち帰り
たいなあ。
料理人だけじゃなく、技術者も何人か……」
「そこは長のご許可があれば、大丈夫だと
思われますが」
「何せシン様からは貝や川魚の養殖技術も
頂いておりますゆえ、反対はされないかと」
シシマルさんとツバキさんが、カキフライを
頬張りながら答える。
基本的に出せる技術・情報は全て出すという
スタンスだからな。
それにここは別大陸、ビジネス的に競争相手に
なる可能性がほとんどないというのもある。
ならば良い交易相手として発展してもらおう。
そこまで考えていると―――
急に場がざわつき始めた。
何やら鬼人族たちが耳打ちで情報共有している
みたいだけど……
「?? 何かあったのですか?」
そこで同行してきた鬼人族の男女が、確認しに
他の鬼人族にたずねる。
シシマルさんとツバキさんが仲間から何やら
伝えられると、血相を変えて戻って来て、
「ここから離れた場所にある海岸沿いの集落で、
何人かが行方不明になったとか」
「おそらくドラセナ連邦の奴隷狩りかと―――
それで鬼人族に助けを求めて来ているようで」
私はメル・アルテリーゼと視線を交わす。
「おけ。行こっか」
「ちょうどよい腹ごなしじゃて」
すると彼らは焦って、
「い、いえ!
鬼人族だけで何とかなると思います!」
「シン様に来て頂くほどの事では―――」
遠慮する二人に私は首を左右に振り、
「お2人も知っての通り、ドラセナ連邦とは
もう関わっているんですよ。
それに今後、鬼人族たちと友好を結ぶつもりで
あれば、助太刀は当然かと」
それを聞いた他の鬼人族たちは、
私や妻たちを見て、
「気持ちはありがてぇが……
大丈夫なのか?」
「とんでもない魔法を使えでもするのか?
でなけりゃ、ケガするだけだぞ」
まあさえない中年男の私と、とても戦闘員には
見えない女性二人だからなあ。
そう思われても仕方がないけど。
と、そこでアルテリーゼがドラゴンの姿となる。
「は?」
「へ?」
そんな彼女の姿を、鬼人族たちはポカンとして
見上げる。
あー、この漁村に来た時は人間の姿だった
からなあ。
混乱させてしまうからと、ここまでは馬車に
乗せてもらったんだっけ。
「我を妻とするような男と―――
さらにその男を夫とするような人間ぞ?
少しは役に立つと思うが」
アルテリーゼがドラゴンの姿のまま話しかける。
「救出に向かう鬼人族の方々は、まず馬車に
乗ってください。
その後、馬車を彼女に固定して飛んで
もらいますから」
それを聞いてシシマルさん・ツバキさんが、
「早く乗れ!」
「案内する人も乗せてください!」
そして鬼人族たちを中心とした救出部隊一行は、
文字通り現場へ『飛んで』行く事になった。
「す、すごい……!
本当に空を飛んでいる……」
獣人族であろう青年が、馬車の荷台から外を
見ながら、驚きの声を上げる。
「それより、海岸沿いの村で行方不明者が
出たと聞きましたけど。
相手は、どこから来たのかわかりますか?」
その問いに彼は首を振って否定し、
「連中の狙いは奴隷の確保―――
人さらい、ですからね。
おそらくはとこか目立たないところに
船を停泊させ、密かに上陸し……
それから集落を襲ってきたのかと」
「襲われたんですか!?」
人さらいが目的なら、目立ち過ぎるとも
思うのだが、
「連中、海賊の末裔を自称していますからね」
「いきなり襲い掛かり、混乱させ―――
逃げ遅れた、もしくははぐれた者から捕まえて
いくのでしょう」
何とも荒っぽいやり方だが……
しかし、この世界ではリスクが高い方法だ。
もし攻撃能力の高い魔法を使う人がいたら
どうするつもりなのだろうか。
やはり何か、ドラセナ連邦は『特殊な』戦い方を
しているように思える。
「いきなり乗り込んで来たんですか?」
「いえ、火矢が何十本も降り注いで来たんです。
それで火事が起こり、水魔法で消し止めると
同時に集落の者を外へ避難させたら、
そこを……」
それを聞いていた鬼人族の部隊は、
「あー、ドラセナのやり方だな」
「連中、やたら性能のいい弓でも持ってんのか、
どこから飛んできたのかわからないくらい、
遠くから放ってきやがるんだよ。
おかげで俺たちが現場に着く頃にゃ、すでに
手遅れって事も多いんだが」
しかし今回は飛んで駆けつけている。
少なくとも時間ロスは最も少ないだろう。
「奴隷を確保していたら―――
沖に向かって逃げる事が考えられるな。
アルテリーゼ!
海岸に近付いたら、船の存在に注意してくれ」
『わかったぞ!』
伝声管で彼女に指示を伝えると、集落へ向かって
飛び続けた。
『シン! 船を見つけたぞ!』
海岸が見えてくると同時に、アルテリーゼから
発見報告が入り……
その声に鬼人族や案内人の獣人が外をのぞく。
「! あれは――――
ドラセナ連邦の船!」
「獣人を何人か乗せているみてぇだ。
アレで『当たり』だろう」
標的が見つかった、と思うと同時に、
『ぬっ!?』
彼女の驚く声と共に、馬車が大きく空中で傾く。
「どうしたの、アルちゃん!」
『矢が飛んで来たのだ!
ここまで届くものなのか!?
まるでケンタウロス族の魔法弓じゃ!』
そういえばケンタウロス族とゴタゴタが
あった時、弓矢の攻撃を受けた事があったけど。
(■187話 はじめての けんたうろす参照)
それに匹敵する何者かがいるという事か?
「いったん連中の近くを低空飛行してくれ!
まずは『抵抗魔法』で動きを止める!
その後、鬼人族たちと一緒に降りる!
アルテリーゼは私たちを降ろしたら、
海の方へ飛んでくれ」
『なるほど。
逃走阻止と挟み撃ちにするのじゃな?』
私の意図を察した彼女は、速度を上げて
船へと突っ込み始めた。
「何だありゃ!?
ランドルフ帝国のワイバーン部隊か!?」
「い、いや……
ありゃドラゴンだ!
どうしてこんなところに」
船上や船の周囲では騒ぎまくっているようだ。
まあいきなり空からの急襲を受ければそうも
なるか。
彼らの混乱をよそに、目測だが私は範囲を
指定する。
「自分の10メートル以内にいる対象を
抜かして、半径50メートルの範囲に
対し、これから『無効化』を宣言。
魔力や魔法など、
・・・・・
あり得ない」
そう小声でつぶやいた後、船の上空を通過する。
そしてその後、近場で着陸してもらい―――
アルテリーゼは再び空へと舞い上がり、海上を
警戒。
私たちは鬼人族たちと陸路、海岸にある船へ
向かう事になった。
「何か、ずいぶんと足場が悪いねー」
ドラセナ連邦の船を目指す私たちは、
まるで泥沼のようなぬかるみのある地面に、
苦労させられていた。
「そういや、ドラセナの連中を追いかける時は、
いっつもこんな感じだな」
「海の近くだし―――
こんな沼地は無いはずなんだが」
鬼人族たちも足を取られながら、何とか先を
進む。
「?? ドラセナ連邦とやり合う時、
こういう事がよく起きると?」
私の質問に救出部隊の一人が振り向いて、
「ああ。内陸だったり森の中だったりと、
人さらいするには場所は選ばないんだろうが。
なぜか水で地面がぬかるんでいる時が
多いんだよ」
それを聞いた私は頭の中で分析する。
先ほど、アルテリーゼに向けられた矢といい、
どうやらドラセナ連邦の戦法というか、やり方の
種明かしが見えてきた感じだ。
そうこうするうちに……
ようやく目的の船が見えてきた。
「おい! さっさと出航しろよ!!
何してんだ!!」
「風魔法が使えねぇんだよ!
帆は張れているんだが……!」
「くそっ!
このままじゃ追い付かれちまうぞ!!」
自分たちの異常事態に困惑している彼らの前に、
私たちは姿を現す。
「げっ、き、鬼人族……!」
「な、何の用だ?」
そこで救出部隊である彼らの一人が、
ドラセナ連邦であろう船乗りたちに近付き、
「ちょっと船の中見させてもらえねぇかなあ?
近くの集落が誰かに襲われてよ。
そんで何人か行方不明になってんだわ」
身長二メートル近い鬼に見下ろされ、彼らは
後ずさるも、
「な、何の証拠があって」
「俺たちはただ船の具合が悪かったんで、
一時的に接岸していただけだ。
何も疑われる事など―――」
そう言う連中の前に、道案内してきた獣人族の
青年が出て、
「ウチの集落の者なら匂いでわかる。
だから船の中を見せてくれ。
もし間違いだったらいくらでも詫びよう」
そこで彼らは顔を見合わせる。
「いや、そりゃ……」
「俺たちの一存じゃ決められねぇ」
そこへ船主らしき、責任者のような男が
降りて来て、
「中を見せてやれ。
その代わり、もし何も無かったら―――
それなりの物はもらうがね」
「キャ、キャプテン!?」
船乗りたちは明らかに動揺した表情を見せるが、
その男は彼らに近付いて、
「(奴隷どもは隠蔽で隠してある。
万が一を考えてそれを使えるヤツを連れて
来ていたが、役に立つ時が来るとはな。
いくら獣人族の嗅覚が鋭いと言っても、
姿かたちが見えなければどうにもなるまい。
ここは逆手に取って見せた後、詫びとして
何か要求した方がいいだろう)」
「(そ、そうだったんですかい)」
「(さすがキャプテン、俺たちとは頭が違う)」
そうして彼らは自信満々に鬼人族たちを船内へと
案内した。
彼らの不幸は、すでにシンが魔法・魔力を無効化
していた事と……
さらにその手段はシンに取って経験済みだった
事で―――
(■12話 はじめての いんぺい参照)
さらわれた人たちはすぐに見つかり、
それを盾に、船からあらゆる金目の物が
鬼人族たちによって持ち去られる事となった。