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第12話 言い伝えの友情
30日。夏祭りの日がやってきた。
梨柚は、お母さんに買ってもらった星空のような群青色の浴衣を着た。肩まで切った髪に髪飾りをつける。家を出る前、梨柚はふぅーっと深呼吸をした。そして思いっきりドアを開ける。
「わわっ?!」
何かにぶつかった。おでこを擦りながら顔を上げると、そこにはなんと栲が立っていた。
「え!栲?!なんでいるの?!」
「あー、えーっとぉ」
栲は恥ずかしそうに続けた。
「早く会いたくて….。前家教えてもらったし、来ちゃった….」
ごにょごにょと言う栲に、梨柚は思わず吹き出してしまった。
「えっ、ちょ、何笑ってんだよ!」
「ふふっ、なんでもないよっ?」
2人は並んで歩いていった。
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「ちょっとぉー、もうちょい寄らないと映らないでしょー!」
パシャッ
澪那は、恋歌と女子何人かと、櫻葉祭りに来ていた。少し蒸し暑い夜に、汗をかく。
「れーなっ!ツーショ撮ろ!」
恋歌が後ろからカメラをかまえる。
「ちょっと、急すぎーw」
そう言いながらも、ポーズをとる。
「ねねー、わたあめ買いに行かない?」
誰かがそう提案して、みんなでわたあめの屋台を探すことになった。
澪那は歩きながら、元親友の事を考えていた。
(友達と祭りに来れば友情が深まる、ねぇ)
それは櫻葉町に伝わる、櫻葉祭りの言い伝えだ。
もちろん、澪那の頭の中には梨柚がいる。
でも、親友を裏切った自分は、友達を名乗る権利は無い。自分が悪いとわかっているのに、誘ったら来てくれたかな、とか、誘われないかな、と、澪那はずっと期待していた。でも、もちろん、そんなことは起こらなかった。
と、その時。
「あっ…..」
恋歌が声をあげた。視線は人混みの奥に注がれている。澪那が視線を追うと、そこには……
梨柚と栲が、笑い合いながら歩いていた。2人きりで。
澪那は恋歌の顔を見た。
恋歌は、怒りと悲しさの混じった、複雑な表情をしていた。