テラーノベル
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「今日からご主人様の女嫌いを治します」
腕を組んでこちらを見下ろしているこの黒目の美青年はエドマンド・ハリントン=スミス。コツコツと片足でリズムを刻んでいる。こういう時の彼は本当に譲らない。元貴族の傲慢さがのぞいている。
「無知は恐怖を生みます。では知ればいいのです」
そう言ってこちらを指差す。ご主人様に対して指差とは。不敬な。友人とは言え、こちらは雇い主だと言うのに。
そんな俺の思考を知ったか知らずか、エドマンドは続ける。
「私がご令嬢役をやらせていただきます。ご主人様はそれに慣れてください」
ごほん、と大きな咳払い。エドモンドの目が柔らかくなり、口はやわく弧を描いている。黒い瞳に写っているのは紛れもなく俺自身で、その事実が俺を変な気持ちにさせる。
「ご主人様…♡本日の舞踏の相手はいらして?♡よければ私と踊りませんこと?♡」
いつもより高めの声。あまりの違和感に、俺は目を瞬かせた。それが面白かったのか、美青年は口元に手を当て、ふっと小さく吹き出した。
「…失礼w」
素で面白がっている。この肩を震わせている男に1発お見舞いしてやりたい。女嫌いとは言え、踊ったことがないとは言っていない。
「素敵なご提案、感謝いたします。ぜひ一曲踊りましょう」
手を差し出す。流石に彼も予想外だったのだろう。豆鉄砲を食らったような顔をしている。可憐な淑女(彼は男だが)を導くのも紳士の役目。
「…お手を」
自分で言った手前、断れないのだろう。ゆっくりと手を伸ばしてきた。俺はそれを合意とみなす。
ゆっくりと背中に手を回し支える。エドマンドの手が俺の肩にいく。
主人とメイド。音楽はない。
不安なのだろう。女性として踊るのが。自分から誘ったくせに。エドマンドは初めて経験することに弱い。
俺は導く。彼が踊れるように。不安を消せるように。目が合う。すぐ逸らす。
……照れている。
「お上手ですね」
そう呟いたのはどちらだったか。
まだ踊っていたいと思ったのはきっと気のせいだと思う
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