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客引きの声、値引き交渉の声。パンの良い香りが鼻をくすぐり…
「すみません、こちらのお肉をいただけますか」
俺の完璧な前振りを邪魔したこのやけにメイド服が似合う美青年はエドマンド・ハリントン=スミスという。値引き交渉もせず、さっさと買おうとするあたり貴族だなぁ、と思う。お金に執着がないわけではないのだろうが、彼は圧倒てきにタイムパフォーマンスを気にする。
今にも、私の1分はそこらの人間どもの1分とは違いますぅ〜!(誇張)とか言い出しそうな顔をしている。
「何か失礼なことを考えていませんか」
おっ、当たり〜と言いかけてやめた。怒らせたっていい事はない。彼は拗ねると面倒なのだ。過去の俺が証明している。
「そう言えば、最近スイーツショップが出来たらしいな。興味ある?」
エドマンドの顔が変わる。足が止まる。
「それを早く言いなさい。どこですか。案内しなさい」
口調に貴族が溢れ出ている。メイドが命令口調なのはいかがなものか。
いやしかし。エドマンドは本当にスイーツが好きだ。クッキー、チョコレート、ケーキにマフィン。全てエドマンドの大好物だ。
中世のスイーツキングといったところか。
そんなしょうもないことを考えながら、エドマンドをスイーツショップに案内する。
彼の足並みは軽く、今にもスキップをし始めそうだ。
「いらっしゃいませ」
カランコロン、と音を立てるドアと迎え入れる声。そしてかおる、いちごの甘い香り。
ショウウィンドウに宝石のようなスイーツが並ぶ。どのスイーツも他店舗なら主役を張れるほどの出来栄えだ。
元貴族のエドマンドからしてもこの宝石たちは魅力的なようで、いつものツンとした顔を保てているようで保てていない。
元貴族サマのお気に召したのは季節限定のイチゴのタルトだった。花のように並べられたイチゴが誘惑的な匂いと共に視覚、嗅覚を刺激する。
「すみません、これくだーー」
エドマンドの動きが止まった。彼の目から光が消える。
「いえ、こちらのプリンタルトをひとつください」
……何があったんだ。
「イチゴのやついいの?」
「今日はプリンの気分なんです」
絶対嘘だろ。あんなに食べたいって顔してたのに。
俺はイチゴタルトに目を向けて納得した。
高い。あまりにも高い。周りの宝石と比べても三倍以上はする。
俺はため息を吐いて言った。
「すみません、イチゴタルトください」
エドマンドの目が見開かれる。正気ですか?の目。高いのは事実だが、買えないというわけではない。俺としては専属メイドが午後から拗ね散らかして紅茶の質が落ちるのが嫌。
……そういうことにしておく。