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「なあ、やたらめったら、琵琶法師が出て来ないか?って、ことはだ、全部繋がっている、いや、こりゃあ、同じ、話、じゃねぇのか?」
「新《あらた》、同じ話って?」
「つまりだな、紗奈《さな》や、俺らみてぇに、ぐるぐる回ってんだよ」
ちょっと、新殿!それは!と、常春《つねはる》は、叫び、続きを喋るのももどかしいとばかりに、何か書き始めた。
「琵琶法師、香、荷物、姫君、入内……」
「兄様、それは?」
「ああ、琵琶法師と関連する事。書き出してみているんだ」
琵琶法師中心に、考えてみれば、隠れている何かが、分かるかもしれないと、常春は、言った。
「そうだなぁ、屋敷をどうこうしようとしているのも、琵琶法師一味だろうから、そうか、急げばまわれってやつか?」
「確かに、常春様と、新殿の言う通りですね」
と、橘も、常春の書き付けを覗き見ながら、ぬけているものがあるような……と、首をかしげた。
「守恵子《もりえこ》様!」
「うわっ!上野様!びっくりさせないでくださいよ!守恵子様は、猫の相談に、頑張られておりますよ?」
「……じゃが、お前が、ここにおるということは、言葉が、わからんと、いうことじゃないのか?」
「わー!髭モジャ様!さすが!」
「そういえば、守恵子様と、守満《もりみつ》様に、一の姫猫が、怒っていたとか、タマ言ってたな?」
「そうなんです、常春様!お姉さん方猫も、守近様が、いなくなって、なんだか、文句を言い始めたし」
タマの一言に、皆、はっとする。
何か、忘れていたような、もの、を、思い出したのだ。
「守近様よ!!新!守近様宛の荷物が、増えてるんでしょ?」
おお、と、新は、返事をした。
「だけどね、紗奈、お前も、分かっているはず。この、屋敷に、荷物は、入って来ていない」
「ええ、兄貴様。確かに、日常使いの物は、動いています。でも、新が、言っているほど、増えては、いない」
「やはり、琵琶法師じゃな!」
「では、守近様のお名を語って?」
「女房さん、それが、そうでもないようでなぁ」
と、新が、渋い顔をする。
「荷の受け取りに、ここの家令《しつじ》が、現れて、受け取りの印を押しやがる。当然、今までと、同じもので、偽物でもない。俺らも、長い付き合いだ、それくらいは、見抜ける」
「じゃあ、家令が、勝手に?」
「紗奈よ、お前、二条の一体にある御屋敷って、わかるか?」
「え?新も、都のこと位知ってるでしょ?」
若い衆が、荷物を目的地まで運んでいるので、正確な事が、分からないのだと新は、言った。引き渡しの書き付けには、確かに、守近の、大納言家宛になっているが、都大路に入ったら、家令が、行き先を、いきなり変更するのだそうだ。
「だからよお、俺は、ここ、だと、思っていたんだが、まさか、行き先が、変わってるとは、知らなかったんだ」
ちょっとまって、と、紗奈は、思いだそうとしている。
新も、一緒に、心当たりを探っている。
「あの辺は、わりと、御屋敷があるのよね……うーんと……」
「紗奈!内大臣様だよ!」
常春が、叫んだ。
「えー!守近様宛の荷物が、内大臣様の御屋敷に?!」
「新殿、それは、贈答の荷物とは、異なるのですね?」
橘が、新に確める。
時に、遠国から珍しい品々を、取り寄せ、そのまま、荷受け場から、贈答品として、相手先へ運ぶ事がある。概ね、取り寄せた、荷主側の屋敷の家令が立会い、運びこむのだ。
守近の荷物も、それではないかと、橘は、確かめたのだった。
「ああ、そう思いたい所だが、不思議と、定期的に、動いてんだよ」
「では、何らかの事情がある、ということですか」
荷物は、やはり、守近宛のもので、それを、内大臣の所へ、運び混んでいる。目的あっての事なのだろうが、それにしても、何故、内大臣なのか。
「やはり、守近様も、この件に……」
橘の囁きに、皆、声が出なかった。
が──。
「タマ!守近様は、いないって、言ったよな!」
「え?急に、タマ?」
「ハッキリしろ!」
常春が、タマを叱咤した。
「もう、怒らなくても、いいでしょ!そうですよ!守近様は、表の様子を見に行ったのです。ワイワイ騒がしいからって」
それは……!もしかして!
常春は、いきなり駆け出し、調理場《くりや》から出て行った。
「おいおい、何が、あるんだよ?!」
「あー、もう!兄様!琵琶法師との繋がりをみつけようとしているのにっ!!」
皆の非難を背に浴びながら、常春は、晴康《はるやす》の元へ向かった。
晴康が、待っているのは……きっと。守近に違いない。
邪魔、に、なる、書き付けを、守近が手にする事を、晴康は、読んでいたのだ。
二人きりにして良いのか、と、常春の気は急いた。