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朝、ルーツ・ガーデンの正門に黒塗りの車が数台乗り付けられた
降りてきたのは、海外ファンドの日本代理人を務める冷徹な弁護士たちだった。
「詩織さん。直樹被告が結んだ契約に基づき、この土地の所有権は本日をもって我々に移転しました。一週間以内に立ち退きを完了させてください。さもなければ、強制執行に移ります」
彼らが突きつけたのは、直樹が私の筆跡を完璧に模倣して偽造した連帯保証契約書だった。
ハゲタカたちは、直樹の悪意という「毒」を法的な正当性へと変換し
私たちの居場所を丸ごと飲み込もうとしている。
「……一円の狂いもない偽造ね。直樹らしい、卑劣な置き土産だわ」
私は震える陽太の手を握りしめ、代理人を真っ向から見据えた。
「ですが、この契約には致命的な『計算違い』があります。……山崎さん、例のものを」
私が呼び寄せたのは、かつて父が救った町工場の元職人たちや
土地の歴史を誰よりも知る地元の長老たちだった。
彼らは、直樹が偽造した書類の「日付」に注目していた。
「この契約が結ばれたとされる日、この土地は『一円の信託』という特殊な登記がなされていました」
「……父は、もしもの時に備え、この土地を商売の道具にできないよう、地域の子供たちのための『共有財産』として一円で信託していたんです」
「この登記を解除するには、受益者である地域住民全員の同意が必要…直樹の独断での契約は、法的に一円の効力も持ちません」
代理人たちの顔が、初めて困惑に歪んだ。
父が遺したのは金ではなく、地域の人々との「一円の絆」だった。
その絆という名の見えない防壁が、最新の金融工学を駆使したハゲタカたちの牙を跳ね返したのだ。
「…お引き取りください。あなたたちの不当な請求によって生じた、わが社の精神的損失と業務妨害の損害……後ほど請求書を送らせていただきます」
彼らが逃げるように去った後、私は父の万年筆を胸に、深く息を吐いた。
直樹が遺した呪いは、父が遺した「誠実さ」という盾によって、完全に粉砕された。
その夜
医療刑務所の直樹の枕元で、心電図の音が不規則に乱れ始めた。
数字を失い、思考を失った彼の身体が
自分の仕掛けた最後の罠が破られたことを本能で察知したかのように、激しく痙攣していた。
【残り24日】
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