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医療刑務所の集中治療室
無機質な機械音が響く中で
直樹のバイタルグラフは、まるで暴落する株価チャートのように下降を続けていた。
数字という概念を失った彼の脳が、最期に認識したのは、死という名の「強制決済」だった。
私は、最後の手続きとして、彼の枕元に立った。
意識が混濁する直樹が、微かに目を開ける。
その焦点の合わない瞳に、私は胸ポケットから出した「父の万年筆」をかざした。
「……直樹。あなたが最期に見たかったのは、私の絶望? それとも、あなたが奪い損ねたこの土地の土?」
直樹の唇が震え、声にならない音が漏れる。
「し……お……り……っ、かね…は……」
「お金なら、もう一円も残っていないわ。……あなたが隠した海外口座も、ハゲタカとの契約も、すべて私が『清算』したから」
私は彼の耳元で、静かに、そして残酷に囁いた。
「あなたの人生の総決算は、マイナスよ。…あなたが壊したものの重さに、あなたの命一つでは到底足りない。……でも安心して。あなたの残した『負債』は、私たちが未来という利益で、すべて上書きしてあげる」
直樹の心拍計が、長く引き伸ばされた音を立て始めた。
彼が最期に見た幻影は、かつて彼が嘲笑った
父と私が笑い合う一円の価値もない「幸せな日常」だったのかもしれない。
直樹という名の、10年に及ぶ巨大な不良債権。
それが今、一秒の残高も残さず、この世から消滅した。
同時刻。ルーツ・ガーデンでは、陽太と子供たちが、一円募金で買い集めた「ある種」を庭に植えていた。
それは、父が一番好きだった、数年後に美しい花を咲かせる常緑樹の種だった。
「ママ! 植え終わったよ。……この木が大きくなる頃には、僕、ママを助けられるくらい大きくなってるかな?」
「ふふ、かもね」
駆け寄ってきた陽太の泥だらけの手を、私は自分の手で包み込んだ。
直樹の死という「終焉」と、陽太が植えた種という「始まり」。
私の帳簿の上で、過去と未来が、一円の狂いもなく入れ替わった瞬間だった。
【残り23日】
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