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青い海の底から、白い砂が見える。沖に行くほど青緑色に変わる海。ヒレの下にいる魚たちもゆっくりと泳いでいた。だんだん呼吸ができなくなり、視界が真っ白になる。寿命か。ゆっくりと視界がぼやけていって、意識が薄れて行った。
ハッと目を覚ますと、砂浜に居た。サメは陸上では息ができないはず。起き上がると、そこは海水浴場の砂浜だった。海水浴客が大勢いるのに、自分に注目はされていない。
「……んん???」
人の手。人の足。藍鼠色の半袖パーカー。水色の半ズボン、灰色のビーチサンダル。
「人の体……!?」
僕は驚いて周囲を見渡した。海水浴客たちは楽しそうに笑い声を上げ、波と戯れている。まるで、僕の存在には誰も気づいていないかのようだった。「どうして……?」
彼は自分の体をじっくり見つめた。藍鼠色の半袖パーカーの袖をまくり上げると、確かに人間の肌が現れた。心臓が早鐘のように打ち、頭の中が混乱していた。
「これは夢か……?」
海から遠ざかると、砂浜の近くに小さな屋台が立ち並んでいることに気づいた。カラフルなビーチパラソルの下、アイスクリームを売る店や焼きそばを作る店などが賑やかに営業している。
その中で一人の青年が目に留まった。彼は燻んだ水色のビーチタオルを肩にかけ、アイスクリームを手にしていた。目が合うと、少年はにっこりと微笑んで近づいてきた。
「大丈夫…?さっきからぼーっとしとったけど。」
僕は戸惑いながらも頷いた。
「えっと……」
青年は親しげに話しかけてきた。
「俺、碧輝。お前は?」
僕は一瞬言葉に詰まったが、深呼吸をして答えた。
「僕は……名前なんてあったかな……」
碧輝は困惑した表情を浮かべた。
「名前なかと?困ったなぁ。あ、今は大丈夫ばい。俺が助けてやるけんさ」
僕は不思議と安心感を覚え、碧輝の手を握り返した。
「ありがとう、碧輝。でも、ここがどこなのか、とか、全然わかんなくて…」
碧輝は優しく微笑んだ。
「大丈夫だって。まず休んでゆっくり話そう。ここは安全やけん、安心して。」
「まずはあんたんこと知っる人ば探さんばねぇ。なんか見覚えとかあるもんある?」
碧輝はホットドッグを僕に食べさせながら言った。ホットドッグは甘じょっぱくて美味しかった。
「……おいしい」
こんなに美味しいもの食べたことない。そう言ってさらに口に運ぶ。
「ふふ、めっちゃ口についとう。」
碧輝が僕の口についた赤いものを指で取って食べた。
「ケチャップ。美味しいでしょ。」
「…うん。美味しい」
碧輝は笑顔を見せながら、僕の様子をじっと見守っていた。彼の優しい眼差しが、少しずつ僕の不安を和らげてくれる。
「じゃあ、何か思い出せるもんはなかか、少し探してみようか?」
碧輝は提案した。
僕は周囲を見回しながら、頭を捻った。しかし、どこかで見たことがあるような光景は一つも見つからなかった。頭の中は空白で、何も思い出せない。
「何も思い出せない……どうしてだろう……」
碧輝は理解するように頷いた。
「無理に思い出そうとせんでも大丈夫ばい。ゆっくりでよかけん。」
僕はもう一度深呼吸をし、碧輝に向かって微笑んだ。
「ありがとう、いてくれて助かるよ。」
碧輝は僕の手を握り返した。
「さあ、他んところも見てみよう。もしかしたら、何か思い出すきっかけになるかもしれんけん。」
僕たちは砂浜を歩き始め、周りの景色をじっくり観察した。見知らぬ海水浴客たちが楽しげに遊んでいる様子を見ながら、僕の心には少しずつ安心感が広がっていった。
「碧輝、君は普段どこに住んでいるの?」
僕はふと尋ねた。
碧輝は笑顔を浮かべながら答えた。
「俺はこんにきに住んどーったい。海がばり好いとーけん、ようこけぇ来るっさ。」
僕は感心して頷いた。
「いいねぇ。こんな綺麗なとこに住んでるなんて羨ましい。」
碧輝は頷きながら、周りの景色を見渡した。
「うん、ここはほんなこてよか場所ばい。ばってん、君が今感じよー困惑ば解決するために、でくることは全部手伝うけん。」
僕は碧輝の言葉に感謝しながら、彼と一緒に歩き続けた。この不思議な状況に対してまだ多くの疑問が残っていたが、碧輝の存在が大きな支えとなっていた。