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「じつはね、佐紀子。これは、山村様のご依頼なんだよ」
「……山村様の……?」
「うちの人が、なんとか、佐紀子、お前の縁談をまとめようと、あれこれ手を尽くしていてねぇ」
破談になりかけの佐紀子の縁談話を、どうにかしようと野口家側が総出で動いているという。
ひとまず、相手である、山村家のご機嫌伺いに徹しているが、先方から、とある相談を受けたらしい。
「山村様は、銀行の頭取だろう?その、繋がりというかね、取引先から、話を受けているらしいんだよ」
「おば様、それは、私の話ですか?それとも、月子さんの?」
佐紀子が、おばへ問うた。
佐紀子に持ち込まれた縁談相手は、銀行の頭取の三男で、西条家へ婿に入ることを承諾してくれていた。
西条家としても、銀行家と縁続きになれば、今後、商い上で何かと便宜がはかれる。
それを見越してか、是が非でもと、前に出てきたのが、野口のおばだった。
亡き満と、おばは、姉弟の関係。それを利用して、野口家は、西条家へ、度々、小口の借金を申し入れていた。
縁者ということもあり、断りきれずで、ずるずると、西条家は、野口家へ資金援助を行う、と、言えば聞こえは良いが、結局、野口家にたかられている状態だった。
そして、満が、亡くなり、若い佐紀子一人では、切り盛りは無理だろうと、野口家が、口を出し始める。
今回の佐紀子の縁談話も、野口家側が、いきなり持ち込んで来たものだった。
さすがに、佐紀子も、腰が重かったが、銀行家の子息と聞いて、縁談を受ける事にした。
本業である、材木商は、まずまずの儲けがでており、問題はなかった。しかし、その他の投資が、ここのところ、不安定な動きを見せており、幾ばくか損失が出始めていた。
投資とはそうゆうもので、山もあれば、谷もある。何より、時世に左右されやすい。
佐紀子にも、それは、分かっていた。そして、もし損失が補えなくなった時、資金調達の要になり得ると、今回の縁談を受けたのだ。
ところが、月子の母の病が知れてしまう。
見合いの日の騒ぎを受け、山村家は、月子達親子の事を調べたのだ。
これでは、息子は病を移されるのではないか。佐紀子も、実は、病持ちではないのかと、いぶかしんだ先方から、破談の話が持ち上がる。
その為、これ以上ない好条件の婿養子を逃してはならないとばかりに、野口家が裏で動いているという具合だった。
「ああ、山村様は、月子を、と言われている訳じゃなくてね……」
ここだけの話とばかりに、野口のおばは、声を潜めると佐紀子へ顔を近づけた。
「どうやら、嫁探しに必死になっている男爵家があるようで、誰か適当な娘はいないかと、回り回って、山村様の所へ話が来たようなんだよ」
「ですが、おば様、仮にも男爵家なら……」
「そうなんだよ。そこだよ。つまり、それだけ、訳ありってことなんだろうねぇ。で、だよ、佐紀子。うちに、ちょうど娘がいるだろう?」
そこまで言うと、野口のおばは、意地悪く目を細め、月子をちらりと見た。