テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
瑠璃マリコ
3,757
#ファンタジー
芙月みひろ
210
#ハッピーエンド
Tubling
291
#極道
鷹槻れん/鷹槻うなの

19,669
周囲の好奇の眼差しに耐えられず、ずっと両手で顔を覆っていた。
恥ずかしいからというのも勿論あるけれど、自分の血で騎士様を汚さないようにという気持ちもあった。
騎士団の本舎に到着すると、抱き抱えられたまま医務室へと案内される。
「歩けます、大丈夫です」と伝えても、結局下ろしてはくれなかった。 騎士様と触れ合っている部分だけでなく、身体中が火照っている。
これは、お姫様抱っこではない、そう、きっと、騎士様にとっては日常の仕事の一部の出来事なだけ。
荷物を運んでいるのと同じくらいの感覚なんだわ。
だから、何も意識することなんてない。こんなに照れていたら、騎士様に失礼になる。
分かってはいるのだけど、こんなにも男性と密接したのが初めてだから、どうしても意識してしまう。
一人であわあわと百面相をしているうちに、ベッドに辿りついていた。そして、ゆっくりと丁寧にベッドに腰掛けさせてくれた。
「あの……。」
お礼を伝えようと騎士様に呼びかけたけれど、控えていた医師がカーテンを引く音でかき消されてしまった。
騎士様は、静かに退室する。
「何も心配いりませんからね、怪我の手当てをさせてくださいね」
一人取り残され、心細くなっていた私に、女性の医師が、優しい言葉をかけてくれる。
手際よく手当てをしてくれたので、あっという間だった。 診察を終えたのを見計らったかのように、扉がノックされる。
「失礼する。終わったか?」
先程の騎士様が入室してくると、医師は騎士様と共に入口付近へと移動した。
「グレッグ様、はい。傷口は消毒して手当てを致しました。お顔の怪我なので、傷痕が残らないといいのですが、心配ですね。それと気になることが──」
周囲に聞こえないように、医師は声を落とす。そして一礼して退室した。
騎士様は、私の視線に気づくと、ベッドまで近づいてくる。
「少し話を聞きたいが、気分は大丈夫か?」
「は、はい。先程はありがとうございました。」
私の返事を聞くと、ベッド脇にあった椅子を少し離れた位置に移動してからゆっくりと腰かける。
私を怖がらせないようにしているんだわ。 一人の女性として接してくれたことが、嬉しい。
外の世界では、ダンさんやルイーザさん以外にも、お客様や、医師の先生や騎士様まで、私を一人の人間として扱ってくれる。
何気ない仕草や、言葉から人となりを知ることができる。騎士様は、見ず知らずの私にまで丁寧に接してくれる。
義姉から所有物のように言われた現場を見たにも関わらず。
この方は、誠実な方だ。
「私は、治安部隊のグレッグだ。ちょうど、巡回中だったんだ。通りがかって良かった。怪我をする前に駆けつけられなくて、すまない。」
「いえっ、騎士様に謝られるようなことではありません! 本当に助かりました。」
ベッドに腰掛けたまま、私は騎士様へ頭を下げる。
「顔を上げてくれ、君は被害者なんだ。痛むだろう、横になっていても大丈夫だ。
一つ尋ねるが、先程のあのご令嬢は、ノーマン伯爵の……アンジェリカ嬢ではないか?」
「⁉︎」
義姉は、一応貴族令嬢。白昼堂々、顔を晒していたもの。素性が知られるのは、仕方のないことだわ。
私は、黙ってうなずいた。
「やはりそうか。あまりいい噂を聞かないからな。君は、あの家に勤めているのか?」
私は、ふるふると首を左右に振る。
私の反応を見て、騎士様はけ怪訝な顔をする。
予想に反する答えだったので、騎士様は少し言い淀む。
「そうか、違うのか。その……。単刀直入に不躾なことを聞く。日常的に、誰かに暴力を振るわれているのではないか?
先程の診察時に、腕の痣が見えた、と医師が言っていた。」
私はハッとして、自身の腕を見る。 袖が少し捲れていて、腕の痣が見えていた。慌てて袖を整えて痣を隠した。
「これは、この痣は、その……。」
なんでもないんです、と誤魔化すように騎士様を見つめる。
真摯な眼差しを向けられて、瞳が揺れる。
「これは……あの、その……。」
本当のことが、言えなかった。 言えば、私があの邸から逃げてきたことがバレてしまう。
あそこへ戻るなんていや。
でも、黙って逃げてきたのは罪に問われるのかな……。
父や義姉から暴力を振るわれていた。でも、それは全部私が悪いからだと言われていた。
暴力を受けていたことを知られたくない。
視線を逸らして、ぎゅっと手に力が入る。無意識にベッドのシーツを掴んでいた。
「実は、あの家で理不尽な扱いを受けたという声が多数届いているんだ。今までも、暴力を受けた少年や、逃げ出した者などを保護したことがある。それで━━」
暴力を受けた少年? ジャック? ジャックなの?
「あの、その少年のお話は、いつ頃のことでしょうか?」
話を遮ったにも関わらず、騎士様は気にせずに答えてくれる。
「少年? 保護した少年のことか?」
「はい。その少年の名前は、ジャックではありませんか ?」
「ジャック? さぁ、どうだろう……。なにぶん、私が入隊する以前のことだから、名前までは……。」
「そうですか……。」
ジャックが、無事に逃げることができたのではないかと、淡い期待が膨らんだ。
「気になるのなら、調べておこう。」
「ありがとうございます。よろしくお願いします。」
ジャックが、どこかで元気にすごしているかもしれない。その可能性があることが知れただけでも、充分だった。
でも、同時に自分が巻きこんで苦しめてしまったという罪悪感ものしかかる。
「話を戻すが、もし、君も助けが必要なら、こちらで保護することができる。どうだろうか?」
「保護?」
「あぁ。こちらの紹介で新たな働き口を紹介したり、何かしら手助けはできる。」
「私は、今は、働いている所でとても良くしていただいてます。なので、大丈夫です!あの、そろそろ帰らないと。」
立ち上がろうとする私を、引き留めるように騎士様は言葉を続ける。
「失礼だが、働いている所とは?何かを強要されたりしていないか?」
私が暴力を受けているのではないか、と思われているのだ。
ダンさんやルイーザさんは、とても優しいのに。 誤解されていることに、無性に腹が立った。
「ダンさんにも、ルイーザさんにも、とても親切にしていただいてます!」
思わず強い口調で言い切ってしまった。
「いや、すまない。怒らせてしまったな。 君は、案外芯の強い方なのだな。あの宿屋に勤めているのか? 確かに、あそこなら安心だ。」
つい 興奮してしまい、大声を出してしまった。今頃になって恥ずかしくなり、赤面する。
そんな私の様子を、気に留めるでもなく、騎士様は「送っていこう」と声をかけてくれる。
「いえ、大丈夫です。」
「いや、怪我人を一人で帰らせる訳にいかない。それでは、行こうか。」
そこまで言われると、断れない。
結局、騎士様に送ってもらうことにした。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!