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「……し、知りません……」
私は頑なに顔を背け、タラタラと冷や汗を流す。
「あんなに凄い速さでパッと横を向いたのは、俺を認識したからだよね?」
涼さんは私の耳を摘まみ、サワサワと親指で撫でてくる。
「ひっ……、ぅ……うぅ……、も、黙秘を貫きます……」
「ふぅん……?」
彼はわざとらしく言うと体を離す。
チラッと盗み見すると、涼さんは腕を組んで半眼になって微笑んでいた。
私はジリ……、ジリ……、と足を動かして横へ逃げようとする。
――と、涼さんは屈んだかと思うと私を抱き上げ、例のベッドみたいなソファに連れて行った。
「んっ」
ボフッと乱暴に横たえられた……と思いきや、力を加減してくれたのか全然痛くない。
「さて、どうしようかな」
涼さんは帰ってきたままのスーツ姿で、見せつけるようにネクタイをほどきながら笑う。
「俺が贈ったワンピース、着てくれてありがとう」
「……あ、ありがとうございます……」
涼さんがこの日のためにプレゼントしてくれたのは、ランバンのネイビーのレースワンピースだ。
変わったデザインという訳ではなく、結婚式とかにも普通に着ていけそうな物なので、それほど悪目立ちする事なくパーティーに参加できた。
ただ、目ざとい綾子さんたちには『ワンピースを着るの珍しいわね』と言われたけど……。
「俺は出資者だから、脱がせる権利があるよね?」
「えっ」
私は目をまん丸に見開き、両手で胸元を隠し膝を合わせる。
すると涼さんは嬉しそうに目を細め、私の耳に髪の毛を掛けて、大ぶりなパールのピアスをチャラッと弄った。
「ん……っ」
耳元をくすぐられるのは弱く、私は首を竦めてやり過ごそうとする。
「遠くから見てたけど、みんな恵ちゃんに注目してたよ」
「そんな事、ある訳ないじゃないですか」
「いいや、俺は観察力があるから、間違いない」
「涼さんが凄い人なのは分かってますけど、時々レーダーがぶっ壊れてそうです。思い込みは駄目ですよ」
「いや、会社の人に『あの子、俺の婚約者』って言ったら『美人ですね』って言ってたから間違いない」
「ちょおっ!? いつから婚約……っ、えっ!? 会社の人!? 美人っ!?」
情報量の多さについていけず、私はワタワタと焦る。
「会社の役員ぐらい、いいでしょ」
「それって、お父さんまで情報がいきません?」
固まったまま尋ねると、涼さんは少し考えてから「かもね」とニコッと笑う。
「~~~~っ」
私は横を向くとズリズリと彼の体の下から這い出て逃げようとするが、「こら、逃げない」と捕らえられてしまった。
「そのうち家族に会ってもらう予定だけど、家族の前でもプイッとされると困るかなぁ……」
「し……、しませんよ……」
「ふぅん? ……じゃあ、一プイにつき一キスね」
妙な条件を突きつけられ、私は苦虫をかみつぶしたような顔になる。
「恵ちゃんは白とかアイボリーも似合うけど、こういう引き締めカラーも似合うよね」
彼は私の脛に手を当て、ススス……とスカートを捲ってくる。
「ウ……ッ、おっ、お褒めに与りっ、コウエイッ」
私は緊張のあまり、眉間に皺を寄せて鼻の頭にも皺を寄せ、それでも必死に笑ってみせる。
「うーん……、愛情表現が分からないワンコみたいだね。こういう時は愛くるしい顔をして、素直に『嬉しい』って言えばいいんだよ」
涼さんは私を見つめて妖しく笑い、下唇を親指の腹でなぞってくる。
誰からこんないやらしい仕草を習ったんだこの人は。
全身からいやらしオーラが吹き出て、このだだっ広いリビングダイニングがピンクに染まってそうだ。
「ウゥ……ッ、ウーッ」
素直に喜べと言われても、こんな美形に押し倒されていやらしい体勢になり、プリプリとお尻を振って喜べる訳がない。
「……参ったな……。どうやったら手懐けられるんだろう、この子……。やっぱりおやつかな」
涼さんは嘆息混じりに言い、「ん?」と私の目を覗き込みつつ頭を撫でてきた。
「こういう事をしたら、もっと怒るかな?」
彼は首元からスルリとネクタイをとると、それで私の両手首を緩く縛った。