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#普通
野々さくら
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ありあ
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時は遡ること数十分前。
フロンティアビルを出た信愛たちは、昼下がりの街を並んで歩いていた。
さっきまで編集部で聞かされた話が、それぞれの頭の中で渦巻いている。
茜が大きく伸びをしながら口を開いた。
「なんか色々すごい話聞いちゃったね」
信愛も苦笑いを浮かべ、小さく頷く。
「だね・・・」
焔垂は腕を組みながら、一つずつ指を折るように整理し始めた。
「未解決事件調査隊に、御船愛子、千里眼騒動」
そして、最後に重く付け加える。
「それから天縁教団・・・」
朝陽はため息を漏らした。
「なんかがすごい規模の話でしたね」
さくらも驚きを隠せない様子で言う。
「てか、あの霊貴冥孤が宗教団体の幹部だったとはね」
信愛は静かに頷いた。
「それ、私も驚いたよ」
茜は空を見上げながら呟く。
「ただの詐欺師じゃなかったんだね」
少し考え込んだ信愛は、思い出したように口を開く。
「でも朝陽くんが言ってたけど
確かアメリカで精神分析を勉強してて
博士号取ってたんだったよね?」
焔垂は「あっ」と声を漏らした。
「ああ、そういやそうだったよな」
朝陽は難しい表情になる。
「尚のこと疑問ですよね、詐欺師やってた
時点でなんで?って疑問でしたけど
次は教団の幹部ですからね
なんか更に訳がわからなくなりましたよ」
信愛も複雑そうに目を伏せる。
「確かにそうだよね」
しばらく沈黙が続いた。
だが茜は空気を変えるように明るく笑う。
「まぁ、そこは馬場さんと編集長さんが
調べてくれるって言うし。プロに任せようよ」
信愛も笑顔を取り戻す。
「そうだね・・・」
茜は両手を合わせる。
「てな訳で、お腹すいたからご飯食べ行こ〜♬」
「だね、私もお腹すいた」
さくらが思い出したように尋ねる。
「確かお釣りの五千円そのまま貰ったんだよね?」
信愛が頷く。
「うん」
「って事は一人千円か」
朝陽が提案した。
「マ◯クとか行きます?」
「いいね!賛成!」
茜は即答する。
焔垂は指折り計算しながら笑った。
「千円使えるなら、セットと単品
ひとつくらい余裕でいけそうだな」
信愛も嬉しそうに微笑む。
「ならマ◯クに──」
その時だった。
一同が歩き出そうとした瞬間、黒塗りのワンボックスカーが静かに目の前へ停車した。
ブレーキ音だけが、妙に耳へ残る。
ドアが開き、中から複数の男たちが無言で降りてくる。
誰一人として表情を変えない。
そのうちの一人が、真っ直ぐ信愛たちへ視線を向け、ゆっくりと歩み寄ってきた。
信愛は胸の奥がざわつくのを感じる。
(なに?あの人たち・・・)
男は信愛の前で立ち止まり、丁寧な口調で口を開いた。
「白縫信愛様でございますね?」
「え!?」
突然、自分の名前を呼ばれた信愛は目を見開く。
「な、なんで私の名前を?」
見知らぬ男に本名を知られている。
その事実だけで、背筋を冷たいものが走った。
茜が信愛を庇うように一歩前へ出る。
「なに?アンタら!」
男は表情を崩さないまま、淡々と言葉を続ける。
「大切なお話がございます
『白縫様のみ』お乗りください」
その一言に、周囲の空気が一瞬で張り詰めた。
信愛は一歩、また一歩と後ずさった。
その細い肩は小刻みに震え、恐怖に引き攣った表情が隠せない。
そんな信愛を庇うように、朝陽が男たちの前へ立ちはだかった。
「信愛先輩?乗っちゃダメですよ」
その声には、普段の穏やかさはなかった。
「絶対怪しいです!」
さくらもすぐに続く。
「そうだよ信愛!」
信愛は不安そうに皆の顔を見回し、小さく頷いた。
「う、うん・・・」
焔垂は男たちを鋭く睨みつける。
「お前ら誰だ!」
男は眉一つ動かさず、淡々と答えた。
「我々が『必要』としているのは
白縫信愛様のみです」
「ひ、必要?ど、どういう意味ですか?」
信愛は思わず聞き返す。
男は姿勢を正して信愛に向き直ると、事務的な口調のまま続けた。
「詳しくは着いてからご説明させて頂きます
『教祖様』がお待ちです。さあ、我々と共に」
その一言で、信愛の表情が凍り付いた。
「きょ、教祖様って──」
嫌な予感が頭をよぎる。
「も、もしかして・・天縁教団!?」
男は静かに頷いた。
「左様でございます」
その返答を聞いた朝陽は目を見開く。
「なんで天縁教団が信愛先輩を・・・」
誰も答えられない。
信愛もまた、その場に立ち尽くしたまま動けなかった。
男は一歩前へ出る。
「我々は白縫様を連れて来れれば
他の人間はどうしようと構わない」
その冷たい言葉が、街の喧騒とは裏腹に重く響く。
さらに男は感情のない声で続けた。
「教祖様より・・そう仰せつかっております
この言葉の意味が、お分かりですね?」
信愛は唇を震わせながら男を見つめた。
「わ、私が従わなかったら──」
一度言葉を飲み込み、震える声で続ける。
「友達に何かするつもり・・って事ですか?」
男は静かに口角を上げた。
「理解が早くて助かります」
そして車のドアへ手を向ける。
「さあ、どうぞ・・こちらへ・・・」
信愛は俯き、拳を強く握り締めた。
長い沈黙が流れる。
やがて意を決したように顔を上げる。
「わ、私が大人しく着いて行けば
本当に友達には何もしないんですね?」
男は即座に答えた。
「勿論でございます」
その言葉を聞いた焔垂が怒鳴る。
「おい!何考えてんだ!」
茜も首を横に振った。
「そうだよ信愛!こんな
ヤツらの言う事信用すんの?」
信愛は悲しそうに微笑み、小さく頭を下げた。
「ごめん・・・みんな」
朝陽は必死に叫ぶ。
「先輩!ダメですって!」
しかし男は穏やかな口調を崩さない。
「ご安心ください白縫様は我々にとって
大切なお客様・・手荒な真似は致しません」
その言葉に焔垂は怒りを露わにした。
「急に押しかけて来てる
時点で十分手荒だろーが!」
さくらも信愛の前へ進み出る。
「そうよ!大切な友達をアンタら
なんかに渡す訳無いでしょ!?」
4人は信愛を守るように横一列に並び、男たちの前へ立ちはだかった。
朝陽は一歩も引かず、男を真っ直ぐ見据える。
「絶対に連れて行かせません!」
男は小さく息を吐き、残念そうに目を伏せた。
「そうですか・・・」
一瞬の静寂。
男はゆっくりと顔を上げる。
「でしたら致し方ありませんね・・・」
その右手が、ゆっくりと上着の内側へ伸びた。
次の瞬間、男は懐から拳銃を取り出した。
黒く鈍い光を放つ銃口が、ゆっくりとこちらへ向けられる。
その瞬間、信愛の思考は真っ白になった。
(じゅ、銃!?)
喉が張り付き、呼吸が浅くなる。
焔垂も目の前の現実を受け入れられず、顔を引きつらせた。
「銃とかまじかよ・・・」
足元から力が抜け、膝が小さく震える。
誰もが言葉を失う中、信愛だけが震える声を絞り出した。
「ま、待ってください!」
男たちの視線が一斉に信愛へ向く。
「つ、着いて行きますから!」
唇を噛み締めながら、必死に続ける。
「だから友達には・・・」
その言葉を聞いた茜は青ざめた。
「の、信愛・・・」
男は満足そうに頷き、ワンボックスカーのドアを開ける。
「さあ、お乗りください」
信愛はゆっくりと頷いた。
「は、はい・・・」
まるで足枷でも付けられたかのように重い足取りで、一歩、また一歩と車へ近付いていく。
その背中を見つめながら、さくらは叫んだ。
「信愛!待ってて!絶対に助けるから!」
信愛は振り返らない。
ただ小さく呟くだけだった。
「みんな・・・」
焔垂は男たちを鋭く睨みつける。
「お前ら!白縫さんに何かしやがったら──」
拳を強く握り締める。
「只じゃおかねーからな!」
男は穏やかな笑みを浮かべたまま、淡々と答えた。
「ご安心ください、用が済めば
五体満足でお返しすると約束します」
その言葉が本当かどうかなど、誰にも分からない。
しかし焔垂たちはそれを信じるしか道がなかった。
信愛は目を閉じ、小さく息を吸い、意を決したように車へ乗り込んだ。
勢いよくドアが閉まる。
次の瞬間、ワンボックスカーはタイヤを鳴らしながら走り去っていった。
コメント
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読了しました。このエピソード、めちゃくちゃ緊張感がすごかったです…! 信愛ちゃんが“友達を守るため”に自ら車に乗る決断をしたところ、胸がぎゅっとなりました。朝陽くんの「乗っちゃダメですよ」って、普段の穏やかさが消えた口調も印象的で、みんなの絆がひしひしと伝わってきました。焔垂さんの「只じゃおかねー」の台詞も、怒りと切なさが混ざってて…。次が気になります!