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橙色な非常灯しか点いていない広い食料品売場。広さとしてはテニスコート3枚分はあるだろうか?。背の高い商品棚の隙間から漏れ出す斜光が揺れて見えるのは恐怖心からの錯覚か?。恐らく14歳の時に突き付けられたあのクソ親父との最終決戦の時よりも緊張している。これは負ければ即死のガチバトルなのだから無理もないが、さっきから手汗が止まらない…
「………………(暗いな。…背の高い棚のせいで余計に影ができてる…)」
『ウ…………ウ…ウ……』
「………(さっきは分からなかったけど…奴等…なにか喋ってるのか?。しかし目が慣れていても…真っ黒な相手じゃどうしても後手になるし…)」
『ウ……アア…ウ。アアア……』
「!?。(近い!?。でもどこだ!?。)」
俺は惣菜コーナーに一番近い商品棚の側にいた。橙色な淡い照明の下にその商品棚が影を落として死角が多い。俺は背中を壁につけるようにして横ばいに進む。身を低くしたままで。…あの黒影が近くに居ることは解っていても、どうしても位置を絞れないでいる。緊張からか口がカラカラだ…
『………アアア。…アア!…アアアッ!』
「!?。(くそっ!?。まさかコイツら…知恵があるのかっ!?)」
それは突然だった。背後から微かに聞こえた風切音に俺は素早く前へと半身を翻す。左頬を僅かに掠めた痛み。睨み上げる先にはあの細い人型のシルエットがあった。グルリと回り込んだ二つの目玉が、勝ち誇るように俺を見下ろしている。深い中腰になっている俺は、両手の包丁で身構えた。
俺は物心ついた頃からあのクソ親父に、『人の壊し方』を刷り込まれている。もっともあの野心家は、己の闘術を継承させる為に俺を孤児院から引き取ったのだ。他にも三人ほどいたらしいのだが俺は誰も覚えていない。毎日強いられる鍛錬と戦闘。お陰で人並みな青春さえも送れなかった。
『アアアッ!!。ガァアアッ!。………ア?。アガアアアー?!』
「ふっ!?。(ん?思ったより軽い斬撃だな。…しかも…鈍い…)」
真上から降ろされた長い腕を、俺は両手の包丁で受け止める。その腕にザックリと食い込んだ包丁の刃。真っ黒い液体がビシャッと噴き出す。どうやら骨で止まっているらしいが、これで破壊できることは確認できた。あとは一撃でも倒せるであろうヤツの急所を探りたい。そして今のところ警戒するのはこの長い腕の先にある爪だけだと思う。他にあるかもだけど…
『イッ!?イイイイイー!?。アッ!アッ!アーー!?』
「へぇ。お前でも痛みを感じるのかぁ。おーおー右腕がブラブラだぞ?。(攻撃に特化した身体なのか?凄く脆い気がする。しかもこんなに痛がるなんて。…これなら俺でも倒せるかも。…なら急所は…あそこだな?)」
黒い液体が吹き出した腕を引くと、とても痛そうに身を屈めた黒影。全身を震わせて悶絶しているように見えた。その瞬間、ホールの灯りが点される。一気に広がった視界に不思議と緊張が解けた。俺は容赦なく、目前の黒影の首に包丁を突き立てる。ザクリと入った切っ先を横に振り抜いた。
俺が知る闘術での人体急所は大きく三つ。金的と喉と目潰しだ。ひとつでも決まれば敵対者は動けなくなる。通常、目を傷つけられれば戦闘力は一時的でも十分の一に落ちるとされているし、喉を潰され呼吸が止まれば一分と持たない。もっとも、金的は女性に通用しないのであしからず。そもそもクソ親父の編み出した一虎流闘術は卑劣極まる極悪の拳。情けない…
『グギッ!?。…………』
「うっ!?。…臭いな。(…死んだのか?いきなり溶けだしたし…)」
俺の足元に倒れ込んだクロカゲの全身がブツブツと沸騰を始めた。酷い腐敗臭を放ったあとに地面に染み入るように消える。そこに残された淡い青色の結晶体を拾い上げてみた。大きさは小指ほどだが中に輝きが見える。その不気味に例え難い鈍い輝きは、宝石の様にも、蟲の蠢きにも見えた…
「獅子君?大丈夫だったみたいね?。さすがはあたしの旦那様だわ♡」
「ごめんなさい、明かりをつけたのわたしなの。あ…邪魔だったかな?。(誰が旦那さまよ?誰が!。それはレオくんが決めることでしょう?)」
「いや、お陰で助かったよ。…シャッターの外の奴らが襲ってくるかと思ったけど無反応だったし。…あいつら、物の動きに反応するのかもな?」
調理室の銀色な扉を盾にしながら、顔だけを出しているリンとすずめ。俺は簡単に話すと二人に戻るように促した。ついでに売り場の全体を見て回るつもりだ。あのクロカゲは痛みに弱く、攻撃に脆いことも解ったからにはビビってばかりもいられない。…先ずは安全の確保だ。安心させたい。
「お疲れ様♪獅子くん。は〜い、お姉ちゃんがパフパフしてあげるぅ♡。んあん♡。もっと強く来てぇ♡。ほらぁ?久しぶりなんだしぃ♡あん♡」
「んむぐくっ?。ぷは。…こらこらリン。すずめの前じゃだめだってば。んー。相変わらずぷりんってしてるよなぁ。でも不意打ちはダメだろ?」
懐かしさ溢れるリンねぇのお戯れ。生でヤラれたこともあるのでブラジャーがあるだけ助かった。生肌でむちっと押し付けられた時には、そのまま動きたくなくなるくらいに気持ちいい。堪らずその括れを抱きよせてしまったくらいだ。二年前の俺は無防備で、好き放題にされていた気もする。
「え〜?。そー言ーながらぁ〜♡自分から身を屈めてたじゃないの〜♡」
「そ!?それは。……パ…パブロフの犬…的に?……つい。」
「…………。(このエロ姉ぇ〜!レオくんに快感を求めるなぁーーーっ!)」
ようやく少しだけ安心できるようになった。クロカゲの戦闘能力は素人並み、しかし殺傷力の高い凶器を持っているのは確かだ。あの長い爪で胴や頭を突かれたら致命傷になるのは確実だと言える。ただ振り回されたら好機だろう。腹や胸に一発でも喰らわせてやるだけで動かなくなるからだ。
食料品売り場を徘徊していた残りの三匹を排除して、あの結晶体を回収した。スケルトン・シャッターも全部確認したし、籠城の準備は完成できたと思う。しかしいつまでも立て籠もっているわけにもいかない。脱出できるのなら何とかして出たい。俺は良くてもすずめは困っている筈なのだ。
「……だめね。ヒットしない。…もしかしたらココだけなのかしら?」
「う〜ん。でも駅の外でも煙が出てたってレオ君が言ってたし…」
「誰もアップしてないのも不自然ね。もし出来ないのだとしたら。いえ逆に…誰かが閲覧や検索を止めているとか。隣の国みたいな情報の操作や隠蔽だとしたら…あり得ない話じゃなくなるわ。…全く出ないのは変だし…」
あたしの旦那さまがこの後のウッフン♡な時間の為に、備え付けなユニットバスのシャワーで肌を磨いている間に、あたしはすずめちゃんとパソコンを開いてみた。レオちゃんやすずめちゃんが言うような惨劇が行われているのなら何らかのアップがあってもおかしくないのに、今のところ何ひとつ当たらない。どころか、リア充自慢な投稿ばかりで…結構ムカつく。
「人を襲い食べる黒い影。その検索や関係するアップだけがザックリと削除されているとしたら、そこまでする理由がきっとあるはずですよね?。しかも規模が決して小さくはない。…リンさんの言う通りだとしたら…」
「う〜ん。閲覧できないことの辻褄は合うけどそれだけよねぇ。外部の干渉を拒絶させて何がしたいのって事になるし、ここに住む人達は全員が見殺しにされているって事にもなるわ?。そして誰が、なんの為にってなるし。…ねぇ?すずめちゃん。確認だけど…人がたくさん殺されたのよね?」
「はい。…この食料品売り場に来るまでに…吐き気がするほど見ました…」
事務所の中はなかなかに快適なのよ。事務用のデスクが四つにノードパソコンが3台。壁には液晶テレビが壁掛けにされていて、その正面にはオーソドックスな茶色いソファーセットが、クリスタルなローテーブルを囲んでいる。六畳ほどの仮眠室にはWサイズのマットがあって給湯室やロッカールーム、そしてユニットバスタイプの浴室まであるし…トイレも綺麗♪
籠城を決め込むならベストな場所だよね。でも、いつかはココも使えなくなる日が必ず来ちゃうから、休憩ポイント程度に考えておくほうが現実的なのかも。テレビはどのチャンネルもカラーテストしか映らないし、インターネットも繋がらないサイトが多くなったみたい。とにかくここから出るにしても何かしらの情報を掴まないと先に進めないよね。困ったなぁ…
「あたしは人の殺されるところを見てないのよね。でも、確かにクロカゲは存在した。獅子くんのジャケットも裂かれてたし。う〜ん…解んない…」
「…こっちも開かなくなりました。ホントにお手上げですねぇ。」
何のヒントもないまま似た様なページを幾つも巡るうちに本気で嫌気が差してくる。あたしはこんな画面を見ているよりも、上質な紙で作られた本物の本のページをわくわくしながら捲るほうが好きなのよ。世の中が便利になるのはいーけど、そのぶん悪意や無責任や嘘の拡散だって加速する。
あの世界を狂わせたパンデミックがいい例でしょう?。未知の病原体を世界中に拡げたのは人間の技術なのよ?。それは情報も同じ。パソコンやスマホから垂れ流されている真偽不明で残酷な誹謗中傷。そして今のこの国にはどれだけ正確な情報があるのかしら?。もう信用してないけどね。
「お?パソコンあったんだ。…って。…ど、どうしたんだよ二人とも…」
「…れ、レオくん。…うっ、上になにか着て。慣れてないのよ、わたし…」
「きゃあ♡。二年前より美味しそうに仕上がってるぅ♡。あ〜ん獅子♡。仮眠室でイチャイチャしよお?。混浴を我慢したんだからご褒美はぁ?」
「こらこらリン。あ、シャワー空いたぞ?。湯船もあるから、良かったらすずめも入って来るといいよ。…こらぁリ〜ン?。…触りすぎだってば。」
な!なっ!?なんて破廉恥なっ!?。このエロ姉っ!なんでそこまでデキるのよっ!。脚を絡ませてるからパンツ丸見えだしっ!。塾にいたバカップルだってそこまでしなかったわよっ!。恥ずかしくないのっ!?女の子なのよっ?男の子から求めてもらえるまで我慢するコトでしょうっ!?。
でも、その奔放さはやっぱり羨ましい。わたしがもしもリンさんと同じ事をしたら、レオくんは受け入れてくれるのかしら。あんな風に優しく受け止めてくれるのかしら?。でも見ている限り!レオくんから手は伸ばしてないんだし!やっぱりやり過ぎよねっ!?。とにかくエロ姉は危険よっ!
「……リ、リンさんも一緒に入りましょう。…さぁ行きますよっ!?」
「え?。あ。ちょっとすずめちゃん?。あたしは後でいいから…ね?」
「ダメです!一緒に入らないとお湯が勿体ないでしょ!。(このタイミングで二人っきりにしたら…きっとレオくんが汚されちゃう!。それだけは絶対に許さないんだからぁ!。レオくんの独占は重罪なんだからね!)」
こんな時だからこそ風紀やルールは必要だと思うのっ!。どれだけ親しくて特別な関係を持つ姉弟だとしてもっ!超えてはならない線とゆう物があるのよ!。とにかく!わたしの眼の前での淫らな行為は慎んで貰わなくちゃわたしが我慢できなくなっちゃう!。わたしだってレオくんに甘えたいんだからねっ!?もしも求めてくれたなら…許しちゃうんだからねっ!?それくらいの覚悟は3年前からしてあるんだから!。エロ姉なんかに負けないんだからねっ!。…もう!モヤモヤしてきたじゃないっ!。バカっ!