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由天。
55話 市場の帰り道
朝と昼のあいだ。
市場。
同じ入口。
同じ石床。
朝は、
声が低い。
箱を置く音。
水を流す音。
手が早い。
昼に近づくと、
声が混ざる。
呼び止める声。
笑い声。
足取りがゆっくりになる。
リカは、
布袋を抱えて歩いている。
肩より少し下の髪。
前髪は目にかからない。
制服の上に、
薄手の上着。
母は、
少し前を歩く。
背筋はまっすぐ。
袖は肘まで。
歩幅は一定。
魚屋の前。
台の上に、
今朝の魚。
濡れた皮膚が、
淡く光る。
母が指で示す。
リカがうなずく。
包む。
結ぶ。
布袋に入る。
帰り道。
同じ道。
同じ曲がり角。
でも、
空気が違う。
朝より、
匂いが残る。
人の数も増える。
さっき通った場所なのに、
少し遠い。
リカは思う。
同じ場所でも、
時間で顔が変わる。
母は、
何も言わない。
歩く速さを変えない。
家が近づく。
布袋が少し重い。
今日は、
魚の日。
それだけで、
道の見え方が違った。
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