テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
56話 考えない石
午前。
1900スポット。
ウイング小学校。
理科室。
机は黒ずんだ木。
表面に細かい傷。
椅子の脚は鉄。
床に薄い線が伸びている。
前の黒板。
文字は大きく、
簡単な図。
丸と線だけ。
先生が立っている。
背は高くない。
袖をまくり、
指先が見える。
「もう一度、言います」
声は静か。
強くはない。
「石は、考えません」
黒板を、
指で軽く叩く。
「反応するだけです」
机の上。
小さな石。
形は不揃い。
光らない。
動かない。
リカは、
椅子にまっすぐ座る。
髪は肩まで。
制服の襟はきちんと整っている。
手は膝の上。
「条件がそろうと、反応する」
「そろわなければ、何も起きない」
誰かがノートをめくる。
紙の音。
「考えるのは、人です」
「選ぶのも、人です」
先生は、
一人ずつを見る。
「石に任せません」
「間違えても、石のせいにしません」
リカは、
胸の奥が、
少しゆるむ。
考えなくていい石。
決めない石。
黙っている石。
それは、
怖くなかった。
前の席の子。
短い髪。
背中が小さく動く。
隣の子。
鉛筆を持ち替える。
音はしない。
先生は、
最後に言う。
130
由天。
「だから、安心してください」
「責任は、ここにあります」
胸を、
軽く叩く。
リカは、
うなずく。
理由は、
うまく言えない。
でも、
石が考えない世界は、
ちゃんと人がいる世界だと思えた。
チャイムの代わりの音。
短く、一定。
授業は終わる。
リカは、
立ち上がりながら、
机の上の石を見る。
何も言わない。
何も決めない。
ただ、そこにある。
それが、
少し、
好きだった。