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重力に逆らって浮遊する瓦礫に、強引に魔力の糸を繋ぎ止める。
自分の平衡感覚が死んでいるのなら、いっそ「物」の動きを自分基準にしてしまえばいい。
だが、ダイキリに視線を向けると、彼女は真っ逆さまに「昇り」続け、完全にパニックに陥っていた。
「ダイキリ! 落ち着きなさい!」
「無理ですよぉ!! どっちを向けばいいのかも分かりません……!」
彼女の魔法が揺らげば、私たちの能力も底をつく。
「なら、ダイキリはユニーク魔法を……『全自動支援』を止めないで! それさえあれば、感覚が狂っていても出力で押し通せる!」
「わ、わかりましたああ!!」
四方八方から迫る逆さまの死体たち。
「ふふふふっ!!そんなことしたって無駄なのに!」
コロナリータの嘲笑。
そして、脳をかき混ぜられるような三半規管の地獄。
私は逆さまに流れる血を拭いながら叫んだ。
「アルベルト……! 何か、手はないの!?」
その時、アルベルトの瞳の奥で、無機質な「黒い光」が、かつてないほど激しく明滅した。
「……なるほど。構造は、理解しました」
その一言が、狂気に塗れた空間に不協和音として響き渡る。
「……私に考えがあります。エカテリーナはそのまま死体を維持し動かぬよう、ダイキリは支援魔法を送り続けてください」
アルベルトの低く、地を這うような声が上から響いた。
重力も方位も攪拌されたこの極限状態において、彼の声だけが唯一、絶対的な座標を持っているかのように冷たく、鋭い。
「分かったわ……何か考えがあるのね? 任せたわよ!」
私は叫び、視界が裏返る不快感を奥歯で噛み殺した。
魔力の糸がどの方角へ伸びているのかさえ定かではない。
それでも、私はダイキリの支援によって強制的に引き上げられた魔力出力を一点に注ぎ、周囲の瓦礫と死体たちを強引に固定した。
空中、あるいは水中、あるいは虚無。
コロナリータの哄笑が、グラスの縁を叩く音のように反響して耳障りだ。
「あはは! 無駄ですよぉ、そんなに踏ん張ったって! グラスの中のチェリーがどれだけ暴れても、最後はあの方に飲み干される運命なんですから!」
逆さまの天井を軽やかに跳ねるコロナリータが、さらに魔法を重ねようと指先を突き出す。
だが、その瞬間だった。
アルベルトの瞳が、底なしの深淵を湛えた黒い光──「虚理」を暴く異形の輝きに塗り潰された。
彼はもはや、肉眼で世界を見てはいない。
この「ディストピア」を構成する歪んだレシピの
その不格好な「継ぎ目」を、神の視点から俯瞰している。
「……小瓶の口は、そこか」
アルベルトが虚空の一点を指差した。