あぁ、こんなもんなんだ。 と 思った。
血の繋がりも、5年という歳月も。
こんなにあっさりと、まるでハナから無かったかのように捨ててしまえる。
そんなもんなのか、家族って。
そんな程度だったのか、俺の存在は。
幼い頃、何もかもが煩わしかった。
どこからともなく寄ってくるくねくねしたオンナノコっていうものも。
馬鹿同士ツルんで暴力振るえば何とかなると思ってる脳味噌の足りてないショーネンたちも。
目に写る全てが、滑稽で面倒臭くて如何でもいいものばかり。
そりゃそうだ。
周りにあるモノどころか、自分自身でさえどうでも良かったんだから。
あの日の焼却炉。
頭を押さえられ、徐々に目前に迫ってくる燃え盛った炎をどこか冷めた気分で見詰めながら、本気で思った。
こんな自分、このまま跡形もなく消えて終えれば良いのに。
そんな時に響いたのが、あのがさつで、横暴で、デリカシーなんて欠片も無い声だった。
その声は一瞬にして僕を救って。
一瞬にして、かけがえの無いものになった。
5人で切り盛りするバー、そのキッチン内。
オーブンの赤い光で、こんがりと焼かれていくチキンの香草焼きを眺めながら、柔太朗はシェイカーを振るのを止め、傍らにいた仁人に呼び掛ける。
「…じんちゃん」
「あん?どした」
仁人はバーカウンターの上にまな板を置き、手早くキュウリを刻んでいる最中だ。
「俺さ、正直仁ちゃん以外どうでもいいんだよね」
するりと口からこぼれた言葉は、間違いもなく本心。
「…どーでもいい?」
「うん。仁ちゃんがいてくれたら、他はもうなにもいらない」
キュウリをこれでもかと言うくらい刻んでいた仁人が、やっと手を止めて柔太朗の顔を見上げる。
「そらまた…たいそうな口説き文句ですこと」
仁人はまじまじと柔太朗の整った顔を見詰め、右肘でぐいぐいと彼の脇腹をつつく。
「色男がそんなこと簡単に言ったらダメなんじゃねえの?誰でもかれでもお前に落ちんだろ」
「だれでも…」
小さく呟き、柔太朗は仁人の右手を素早く掴むと、その甲にキスをした。
「……仁ちゃんも、俺に 落ちてくれる?」
そんじょそこらのご婦人が相手ならば、目にハートマークを浮かべたまま失神して仕舞いそうな微笑み。悩殺スマイル。
…しかし、相手は仁人。
「落ちるかァ」
ぺしんッ と音を立てて、柔太朗の手はあえなく振り払われる。
「…残念」
「残念でしたねぇ柔太朗く~ん、俺オトそうとするなんて100年早いわ」
「えー…俺、100年も待てないよ」
「ははっ、じゃあお前が俺におちたらいいじゃん」
「…………それは無理。」
あぁ、こんなもんなんだ。 と 思った。
血の繋がりも、5年という歳月も。
あんなにあっさりと、まるでハナから無かったかのように捨ててしまえたのに。
忘れてしまえたのに。
…それなのに、今 はどうだろう。
貴方に落ちるなんて 無理な話だ。
だってこれ以上、
どうやって貴方に堕ちれば良いというの?
コメント
3件
やばいもうほんとにすきっすやばいYJ好きなんですけどもうやばい想像しただけで倒れそうめちゃくちゃ妄想膨らみますありがとうございます大好きです