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大切にされたことがない。
だから、大切にすることもできない。
バー、ザ・ファイブ。
今日は2人以外、午前中は全員がどこかへ出払っていて。
カウンターでは、仁ちゃんがみんなの為に昼食を作っていた。
日課である自主トレの休憩中、ミルクを飲み干した後、ぼーっとカウンターで作業を続ける彼を眺める。
仁ちゃんの料理はとても美味しくて好きだ。
いつも態度は乱暴なくせに、料理を作るときの彼の手は、とても器用に 繊細に動く。
だからもしかしたら、作り出される料理の方が、本来の仁ちゃんを表しているのかもしれない。
そんなことを考えながら唐突に。 本当に、唐突に思ったんだ。
そんな彼を 壊したいなぁ、って
「親から捨てられたんやろ、仁ちゃんって」
一瞬、仁人の動きが止まる。
そんな様子も無視し、舜太はにこにこしながら言葉を続けた。
「捨てられるってどんな気分やった?」
「…あ?」
「いや、でも赤ちゃんのころやったらしいから、仁ちゃんはなんも覚えてへんのかぁ」
仁人は持っていた包丁をシンクに放り投げ、無表情のまま舜太を睨み付ける。
「いつも明るくて楽しそうで、悩みごとなんかなんにもないって顔してるよね」
舜太は笑顔のまま、仁人のいるカウンターへ歩み寄り、彼の正面へ立つ。
「でもほんまは心のどっかで、捨てられんのを嫌われんのを。他の誰より怖がってる」
「やから人の顔色伺って、嫌われんように仮面かぶって、色んな自分演じてみせて」
「そんで結局、ホンマの自分はどれなのか、 自分でも解らへんくなってる」
ガシャンッ と大きな音を立てて、酒瓶が床に落ち、粉々に散らばる。
「…黙れ。」
舜太の胸ぐらを、カウンターから身を乗り出して掴み、仁人は低く唸るような声を絞り出す。
「───…かわいそーな仁ちゃん」
それもものともせず、舜太はにこにこと笑いながら仁人の頬に手を伸ばし、触れた。
「俺がなぐさめたげよっか?」
重苦しい沈黙。
仁人の感情を逆撫でするように、依然として にこにこ 笑い続ける舜太。
「…………はっ、だっさ!」
舜太の胸ぐらを掴んでいた手を、仁人は乱暴に離す。
「何がダサいってなぁ、図星さされて動揺してる俺がいっちばんダセェわ。」
「…え」
笑い顔のまま、固まる。
仁ちゃんの声からは、俺に向けられた怒りも憎しみも感じられなくて。
…殴るんじゃ、ないんや。
予想外の仁ちゃんの反応に、一気に狼狽する。
「でもお前もさぁ。そんな顔してそんなこと言うなよ」
「そ、んな顔ってどんな…」
「なんかまるで、傷つけてくれーって言ってるみたいなカオ。」
「…っ!」
舜太の顔に張り付いていた、仮面が引きつる。
…なんで。
俺、アンタ傷つけたんやで。
アンタだって傷ついてるやん。
握り締めた拳がカタカタと震えてる。
ほら、やっぱりショックやったんやろ、俺からあんなこと言われて。
見損なったらいいんさ、俺みたいな奴。
そんで嫌いになったらいい。
アンタに酷いこと言った、俺なんか。
俺のことなんて
俺との関わりなんて、壊して、なかったことにしてしまえば良いんだ
だって、
…そうしてくれんと。
「ざんねんでした〜、そう簡単に仲間のこと嫌いなったりしないから、俺」
「…なん、で」
まるで、気持ちを見透かされたように。
今度は反対に図星をさされ、笑顔の仮面なんてどこか遠くへぶっ飛んだ。
そんな舜太をちらりと見て、仁人はうーんと考え込みながら、がしがしと頭をかく。
「なんかさぁ~。気のせいだとは思う。思うんだけど、どっか似てる気がすんだよなぁ、お前と俺って」
「!」
「だから、俺にあんなこと言いながらさ、舜太にだってダメージあったんじゃないの?」
「自分で自分の首閉めるようなもんだろ。なんでそんなしんどいことするん?」
「俺はさ…いや俺達は、か。さっきも言ったけど、そう簡単にお前のこと嫌いになったりするような、そんな薄っぺらい関係じゃないだろ」
腰に手をあて、さも当然だと言わんばかりの態度。
…なんなんその顔。ドヤ顔ですか?
てゆうか酷いこと言われたの覚えてへんのかなこのひと?
そういえばどっかぬけてるとこあるもんなぁ。
そこもまた可愛いなぁとも思うんやけど。
…キライになったりしないって、ほんとかなぁ。
俺みたいなのがこの人のそばにいて、ほんとにええのかなぁ。
まだふんぞりかえってはる。ほんとナニサマなんやろ。
でも
なんか、めっちゃうれしいなぁ。
「…………ご め」
声が 、震える。
「ん?」
「ごめ、んな。じんちゃん、」
「おう、───もういいよ。」
舜太が、恐る恐る逸らしていた視線を仁人に向けると、仁人はその視線をしっかりと合わせて、いつものように にこりと笑いかける。
その笑顔を見た途端、舜太はみるみるうちに目に涙をため、ボロボロと子どものように声を上げて泣き出した。
「ごめ…ごめんなざぁ~~~~い ッ !!」
「あ”ーもぉ~、泣くなよおまえ~!」
わんわんと泣きじゃくる舜太の頭を、がさつにわしゃわしゃと撫でながら。
仁人は、ほんとしょうがねぇヤツだなと、笑う。
大切にされたことなんてない。
だから、人から大切にされた時、自分がどうしたらいいのかも解らない。
大好きだけど離れたくないけど。
いつかまた、嫌われるかも知れない。
いらないと、言われてしまうかも知れない。
それがただ怖かった。
怖くて怖くて、仕方なかった。
だから逃げたくなって逃げた。
でも逃げてみたって、追っかけてきた。
だからもういい。
逃げないで、ちゃんと迎え撃ってやろう。
(俺の愛は重いんだから、覚悟しといてよね)
end.
「………迎え撃ったらダメなんじゃね?」
「じゃあ叩きのめす?」
「もっとダメだわ。」