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#魔道具職人
こはる
338
742
#異世界転生
しめさば
6,417
第2話 能力は投稿履歴らしいwwwwwwwwww
村長の家は、広場の奥にあった。
古い木の扉。
低い天井。
壁にかけられた乾いた草束。
部屋の中央には、大きな丸い机がある。
ナギはその前に立っていた。
ロッカは隣。
ミレナは少し後ろで帳面を開いている。
村長は、机の向こうに座っていた。
深いしわのある顔。
静かな目。
ナギのスマホを見ても、驚きすぎない。
その落ち着きが、逆に怖かった。
「名は」
「久瀬ナギです」
「どこから来た」
「日本です」
村長は首をかしげた。
「知らぬ地だ」
「俺も、この村を知りません」
ロッカが言った。
「広場に落ちてきた。薄い板を持っている。文字が勝手に出る」
ミレナが続けた。
「その板には、転生タイムラインという文字がありました」
村長の目が少し動いた。
「転生者か」
ナギは言った。
「たぶん」
「たぶん、とは」
「俺にも分からないので」
ロッカが小さく息を吐いた。
「本当に分からないらしい」
村長は机に指を置いた。
「転生者には力が宿ることがある」
ナギはスマホを見た。
画面には、まだ次回予告が残っている。
能力は投稿履歴
ナギはつぶやいた。
「投稿履歴……」
ミレナが近づく。
「投稿履歴とは?」
「俺が元いた世界で書いたものとか、答えたものとか、見ていたものとか」
「それが力になるの?」
「画面には、そう出てる」
ロッカが眉を寄せた。
「そんな曖昧な力を信用するな」
「俺も信用してない」
その時、スマホが震えた。
能力解放を開始します。
投稿履歴を読み込み中。
大喜利回答履歴を確認中。
言葉遊び傾向を確認中。
状況変換適性あり。
ナギはスマホを両手で持った。
画面に、次々と過去の投稿らしき文字が流れる。
変なお題。
変な答え。
どうでもいい一言。
寝る前に思いついたくだらない返し。
ナギ自身も忘れていたものまで、画面に流れていた。
ロッカが横からのぞく。
「何が書いてある」
「俺の大喜利の答え」
「大喜利とは」
「変なお題に、変な答えを出す遊び」
「遊びが力になるのか」
「俺も今それを疑ってる」
画面が止まった。
能力名
大喜利リアライズ
効果
お題に対して答えた内容を、現実に近い形で発生させる。
条件
お題を立てる。
答えを出す。
その場に合うほど成功率が上がる。
注意
答えが雑すぎると、雑に発生します。
答えが危険すぎると、危険も発生します。
ナギは黙った。
ロッカも黙った。
ミレナだけが、震える手で帳面に書いている。
「大喜利リアライズ……」
村長が言った。
「試す必要がある」
ロッカがすぐに言う。
「危険です」
「小さく試す」
村長は机の上に、小さな木の杯を置いた。
「この杯を動かせるか」
ナギは杯を見る。
ただの杯。
たぶん。
いや、この世界の物だから、ただの杯かどうかも分からない。
でも、今はやるしかない。
ナギは息を吸った。
「お題」
ロッカが構える。
ミレナがペンを握る。
村長が静かに見る。
ナギは杯を見つめて言った。
「絶対に動かない杯が、急に動いた理由とは」
少し考える。
変にしすぎるな。
危なくするな。
小さく。
軽く。
ナギは答えた。
「自分の席を間違えていたことに気づいたから」
杯が、ことん、と動いた。
机の上を、ほんの少しだけ横へずれる。
そして止まった。
部屋の中が静かになる。
ミレナのペンが止まった。
ロッカの目が細くなる。
ナギは杯を見たまま言った。
「動いた」
村長がうなずく。
「動いたな」
ロッカが低く言う。
「便利だが、危険だ」
ナギも同じことを思った。
言葉が現実になる。
お題と答え。
それだけで、物が動いた。
もし大きなことを答えたら。
もし変なことを言ったら。
もし怒ったまま答えたら。
ナギはスマホを握る手に力を入れた。
画面が光る。
初回能力発動
成功。
能力安定度
低。
練習が必要です。
「練習って言われても」
ミレナが顔を上げる。
「もう一度、試してもいい?」
ロッカが言う。
「やめろ」
ミレナは少し肩をすくめる。
「小さいもので」
ロッカはナギを見る。
「お前はどうしたい」
ナギは考えた。
帰り方は分からない。
能力は勝手に解放された。
この村では、転生者は珍しくないらしい。
そして、さっき自分は子どもを助けた。
何も分からないままでも、何かは起きる。
なら、知らないまま放っておくより、知った方がいい。
ナギはうなずいた。
「小さく試す」
ミレナは机の端に羽根を置いた。
「これなら危なくないと思う」
ロッカは短剣の柄に手を置いたまま言う。
「飛ばしすぎるな」
ナギは羽根を見た。
お題。
軽い羽根が、さらに軽くなった理由とは。
答え。
「褒められて調子に乗ったから」
羽根がふわっと浮いた。
高くはない。
机から少し浮いて、くるりと回る。
それから、ナギの手元に落ちた。
桶の声が、どこからか聞こえた気がした。
まだ桶はいない。
でも、ナギの頭の中で変な合いの手が鳴った。
褒められてえらい。
ナギは少し笑った。
ロッカが言う。
「何を笑っている」
「いや、なんでもない」
ミレナは目を輝かせている。
「すごい。お題と答えが、現象の形になる。完全に同じではなく、その場に合わせて変換されている」
「もう分析してる」
「記録係だから」
村長は立ち上がった。
「力は確認できた。だが、使い方を間違えれば村に害が出る」
ナギはうなずいた。
「分かってます」
「分かっているだけでは足りない」
村長は窓の外を見る。
広場では、まだ人々が倒れた荷台を片づけている。
「今日一日は、ロッカの監視下に置く」
ロッカがうなずいた。
ナギは言った。
「監視って言い方」
ロッカは即答した。
「監視だ」
「もっと仲間っぽい言い方ない?」
「ない」
ミレナが小さく笑った。
その時、外からまた騒ぎ声が聞こえた。
ロッカが扉へ走る。
ナギも追った。
広場では、さっき倒れた荷台の周りに人が集まっていた。
荷台の車輪が外れ、豆袋が道に散らばっている。
さらに、倒れた木箱の隙間から、小さな獣が飛び出していた。
丸い体。
長い耳。
すばしこい足。
豆をくわえて逃げ回っている。
村人が叫ぶ。
「豆食いだ!」
「また出た!」
「捕まえろ!」
豆食いと呼ばれた小さな獣は、豆袋を破っては逃げる。
子ども達は面白がっている。
大人達は困っている。
ロッカが言った。
「畑の豆を荒らす獣だ。すばしこい」
ナギは獣を見る。
かわいい。
でも、袋を破られるのは困る。
ロッカが走る。
豆食いはすぐ逃げる。
ミレナも息を切らして来た。
「ナギ、能力を」
ロッカが叫ぶ。
「危険な答えは禁止だ!」
ナギは分かっている。
豆食いを傷つけず、豆袋も守る。
小さく。
変に。
でも役立つ答え。
ナギは息を吸った。
「お題! すばしこい豆食いが、急に逃げるのをやめた理由とは!」
豆食いがぴたりと止まる。
ナギは答えた。
「豆を食べる前に、受付番号を取る制度になったから!」
広場の中央に、小さな札が現れた。
一番。
二番。
三番。
豆食い達の前に、なぜか小さな受付台まで出る。
豆食いは困惑した。
くわえていた豆を落とす。
そして、一匹が小さな札を前足で押さえた。
村人達も固まった。
ロッカが言った。
「何だこれは」
ナギは言った。
「受付番号」
「なぜ出した」
「逃げるのをやめさせたかった」
「本当にやめたな」
豆食い達は、受付台の前に並んでいる。
三匹。
五匹。
いつの間にか八匹。
ミレナが帳面に書く。
「豆食い、受付制度に従う」
ロッカは頭を押さえた。
「従うのか……」
村人のひとりが、おそるおそる豆を一粒置いた。
一番の札を持った豆食いが、それを取る。
食べる。
満足そうに座る。
次の豆食いが前へ出る。
広場に変な静けさが落ちた。
そして、誰かが笑った。
そこから、少しずつ笑いが広がった。
さっきまで困っていた大人まで、苦笑している。
ナギは胸をなで下ろした。
危険は出なかった。
でも、変な制度は出た。
スマホが震える。
能力発動
成功。
現実化範囲
小。
副作用
受付台が残ります。
ナギは目を閉じた。
「残るのか」
ロッカが低く言う。
「撤去しろ」
「どうやって」
「お前の能力だろ」
「出せても消せるか分からない」
ミレナが言った。
「お題を出してみたら?」
ナギは受付台を見る。
豆食い達は、まだ並んでいる。
意外と平和だ。
でも、このまま広場に受付台があるのも困る。
ナギは言った。
「お題! 役目を終えた受付台が、自然に片づいた理由とは!」
少し考える。
「勤務時間が終わったから」
受付台が、ぽすん、と折りたたまれた。
そして小さな板になった。
豆食い達は札を置いて、満足そうに道の端へ散っていった。
村人が豆袋を抱え直す。
誰かがナギを見た。
「転生者、便利だな」
別の誰かが言う。
「いや、変だ」
「でも助かった」
「豆食いが並んだぞ」
「見たか、あれ」
ざわめきが広がる。
警戒だけではない。
笑い。
驚き。
少しの期待。
ナギは居心地悪く立っていた。
ロッカが横に来る。
「力は使える」
「褒めてる?」
「事実だ」
「ありがとう」
「だが、危険だ」
「それも事実」
ロッカは短剣から手を離した。
「なら、使う前に考えろ」
ナギはうなずいた。
「うん」
ミレナが近づき、息を整える。
「今の能力、かなり重要よ。投稿履歴が能力になるなら、これから来る転生者も、それぞれ過去に投稿した内容が力になる可能性がある」
ナギはスマホを見る。
転生タイムラインは静かだ。
でも、画面の奥で何かが動いている気がする。
「俺だけじゃないのか」
ミレナはうなずく。
「たぶん」
ロッカが言う。
「次が来る前に、分かることをまとめる」
村長も広場へ出てきていた。
「転生者ナギ」
ナギは振り向く。
「はい」
「お前の力は、村の害にも守りにもなる」
「はい」
「この村にいる間、勝手な大きな力の使用を禁じる」
「分かりました」
「小さな力は、ロッカかミレナの確認を取れ」
ロッカが言う。
「俺が止める」
ミレナが言う。
「私が記録する」
ナギはふたりを見た。
止める人。
記録する人。
その二人がいるのは、少しだけ心強かった。
その時、スマホが震えた。
転生タイムラインが開く。
能力は投稿履歴
投稿内容が能力になることを知る。
主人公は大喜利で答えたそのままの状況を現実にできる能力だった。
コメント欄が流れ始める。
大喜利能力きた!
受付番号で豆食い止めるの笑った。
危ないけど便利。
ナギ、使い方気をつけて。
ロッカの監視助かる。
ミレナ記録してるのいい。
ナギは画面を見つめた。
「また投稿されてる」
ロッカが近づく。
「見せろ」
ナギはスマホを少し傾ける。
ロッカはコメントを読んで眉を寄せた。
「俺の監視が評価されている」
ミレナが笑う。
「よかったじゃない」
「よくない」
ナギは少しだけ笑った。
この世界に飛ばされたことは、まったくよくない。
帰り方も分からない。
能力も危ない。
でも、豆食いが並んだ光景だけは、少し笑えた。
ナギはスマホを閉じる。
今度は閉じられた。
広場には、豆袋を直す村人達がいる。
遠くで子ども達が、豆食いの真似をして並んでいる。
ロッカがそれを見て、またため息をついた。
「妙な文化を増やすな」
「俺のせいかな」
「お前のせいだ」
ミレナが帳面に書く。
「大喜利能力、村文化へ影響あり」
「そこまで書く?」
「書くわ」
ナギは空気を吸った。
知らない村の匂い。
まだ怖い。
まだ落ち着かない。
でも、少しだけ足元が見えた。
この世界で、自分が何をできるのか。
何をしてはいけないのか。
その輪郭が、ほんの少しだけ分かった。
スマホがまた震える。
次の投稿を準備中。
投稿傾向
変な物ドラマー
身近な物を叩く
魔物撃退
ナギは画面を見て、口を開けた。
「次、ドラマー?」
ロッカが言う。
「どらまーとは何だ」
ナギは少し考えた。
「叩いて音を出す人」
ロッカは広場の道具を見た。
木箱。
鍋。
杯。
豆袋。
「この村、叩ける物だらけだな」
ナギは嫌な予感がした。
ミレナは目を輝かせている。
「次の記録も大変そう」
ナギはスマホを握った。
転生タイムラインは、また次の誰かを連れてこようとしている。
投稿内容が能力になる。
なら、次に来る誰かの投稿履歴も、この世界を変える。
ナギは広場を見る。
ロッカが止める。
ミレナが記録する。
村人達が遠巻きに見ている。
豆食いが一匹、道の端でまだ受付札をくわえていた。
ナギは小さく笑った。
「まず、あの札を返してもらうか」
ロッカは言った。
「お前が出したんだから、お前が片づけろ」
「はい」
ナギは豆食いの前にしゃがんだ。
「お題。受付札を返したくない豆食いが、なぜ返したのか」
豆食いがナギを見る。
ナギは答えた。
「次回来店ポイントがつくと思ったから」
豆食いは札を置いた。
そして、何かを期待する顔で待った。
ナギは黙った。
ロッカが言う。
「責任を取れ」
ナギは豆を一粒置いた。
豆食いは満足そうに食べて、走っていった。
ミレナがまた書く。
「豆食い、再来店の可能性あり」
ナギは頭を抱えた。
「やらかしたかもしれない」
ロッカが言った。
「もう分かっただろ」
「何が」
「お前の答えは、後を引く」
ナギはうなずいた。
大喜利は、その場で笑って終わるものだと思っていた。
でもここでは、答えが現実になる。
そして、現実になったものは、しばらく残る。
笑いも。
面倒も。
助かった人も。
次の問題も。
ナギはスマホを見る。
転生タイムラインの文字が、静かに光っている。
物語は、勝手に進んでいる。
でも、答えを出すのは自分だ。
ナギは小さく息を吐いた。
「次は、もう少し考えて答える」
ロッカが言った。
「必ずそうしろ」
ミレナが帳面を閉じる。
「でも、今日の答えは悪くなかった」
ナギは少しだけ救われた気がした。
広場の向こうで、誰かが鍋を落とした。
からん、と音が響く。
次の投稿の気配が、もう村に近づいているようだった。
ナギはその音を聞きながら、スマホをしまった。
それは、もう投稿されている。
能力は投稿履歴。
自分のくだらない答えが、この世界では力になる。
それが笑いになるのか、危険になるのかは、まだ分からない。
けれど、次の誰かが来る前に、ナギはひとつだけ覚えた。
言葉は、ここでは軽くない。
だからこそ、変な答えにも責任がいる。
コメント
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お疲れさま!第2話読んだわ! ナギの能力「大喜利実現」、めちゃくちゃ面白いな。 お題に対して回答を出すって発想が新しいし、しかも「投稿履歴との一致率」で補正かかるの、設定がしっかりしてて好き。 桶がしゃべったり、地面が謝ったり、椅子が背筋伸ばしたり…変だけどなぜか納得させられるのが柘榴とAIさんの真骨頂🔥 あと、魔物の群れを「全員が先頭を譲り合う」で止めるの、脳筋じゃない主人公の強さって感じでガチ好み! ロッカの照れ顔もツボったわ笑 次の転生者が打楽器系っていうのも気になる…このペースでまた楽しみにしてます!