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第3話 【ドラム】身近な”モノ”で叩いてみた【演奏してみた】
村に朝が来る前から、音がしていた。
とん。
かん。
ぽこ。
どん。
ナギは、寝床の上で目を開けた。
鳥の声ではない。
風の音でもない。
誰かが、何かを叩いている。
とん、かん、ぽこ、どん。
妙にリズムがいい。
ナギは上半身を起こし、ぼさぼさの髪をかいた。
「……目覚ましにしてはクセが強い」
入口の布がめくれた。
ロッカが顔を出す。
「起きたか」
「起こされた」
「外が騒がしい」
「たぶん、次の転生者だ」
ナギはスマホを開いた。
転生タイムライン。
新しい通知。
【変な物ドラマー】
投稿傾向
身近な物を叩く動画多数
能力
未確定
ナギは画面を見つめた。
「来たな」
「何が」
「うるさい人」
「まだ会ってもいないのに失礼だな」
「音が自己紹介してる」
とん。
かん。
ぽこ。
どん。
今度は少し近い。
ナギはパーカーを着直し、外に出た。
村の広場には、もう何人か集まっていた。
ミレナは帳面を抱えて立っている。
丸い眼鏡の奥で、目が輝いていた。
「聞こえる?」
「めちゃくちゃ聞こえます」
「音の間隔が一定じゃないのに、なぜか気持ちいいの」
「記録係、もう楽しんでる」
「もちろん」
ガルムも家の前に立っていた。
大きな腕を組み、森のほうを見ている。
「ナギ」
「はい」
「あれも転生者か」
「たぶん」
「危険か」
「人によります」
「分かりづらい答えだ」
「俺もまだこの世界の転生者、三人目です」
ロッカが短剣を握った。
「音が近づいてる」
#魔道具職人
こはる
338
742
#異世界転生
しめさば
6,417
ナギは森のほうを見た。
朝もやの中。
木々の間から、何かが跳ねるように現れた。
人だった。
茶色の髪。
大きな目。
動きやすい服。
背中にはへこんだ洗面器みたいなもの。
腰にはスプーン、鍋ぶた、木の棒。
そして、手には木の枝。
その人は走りながら、近くの石を叩いた。
かん。
次に木の幹を叩く。
とん。
背中の洗面器を叩く。
ばこん。
足元の丸い実を蹴る。
ぽこ。
リズムが重なる。
森の中なのに、まるで小さなライブ会場だった。
その人は村の入口まで来ると、息を切らしながら叫んだ。
「ここ、どこっすか!」
ナギは少し黙った。
ロッカも黙った。
ミレナだけが勢いよく帳面を開いた。
ナギは一歩前に出る。
「異世界です」
「ですよね!」
「納得早いな」
「さっきから木を叩くたびに変な波が出るんで、たぶんそうかなって!」
その人は、枝をくるっと回した。
「桶叩リクっす! 変な物ドラマーやってます!」
「名前からもう叩いてる」
「久瀬ナギです。大喜利で何とか生きてます」
「大喜利で?」
「説明すると長い」
「いいっすね! 長い説明、刻んだらリズムになりますよ!」
「会話を刻むな」
リクはナギの肩をぽんと叩いた。
その音が、なぜか小さく響いた。
ぽん。
村人たちがざわつく。
リクは自分の手を見た。
「おお。肩、いい音しますね」
「人の肩で音質を測るな」
「すみません。つい」
ロッカが眉を寄せる。
「お前、魔物か」
「違います! 人間です! たぶん!」
「たぶんが多いな」
ナギはロッカの肩を軽く叩いた。
「こっちの世界に来た直後は、みんな自信なくすんだよ」
リクはうんうんとうなずいた。
「駅にいたんすよ。スマホ見てたら、転生って投稿が出てきて。何これって思って見たら、足元が光って。次に気づいたら森で。で、木を叩いたら音が爆発して」
「爆発?」
「爆発っていうか、どーんって」
「それ爆発じゃん」
「音の爆発っす」
ミレナがものすごい速さで書いている。
「身近な物を叩くことで音波を発生。材質により音色変化。本人は危機感より演奏意欲が高い」
リクが振り向いた。
「うわ、記録されてる!」
「記録係だから」
「いいっすね! 紹介文みたいで!」
「喜ぶんだ」
ナギは小さく笑った。
リクは村の広場を見回した。
壊れかけの柵。
しゃべる桶。
姿勢のいい椅子。
胸に名札をつけた畑見習いの魔物。
リクの目がさらに輝いた。
「何ここ、音の宝庫じゃないっすか」
「そこに感動するんだ」
「桶ある! 鍋ある! 木箱ある! 柵ある! あの名札も鳴りそう!」
畑見習いの魔物の名札が叫んだ。
「安全第一!」
リクは両手を合わせた。
「しゃべる名札! すごい! サンプリングしたい!」
名札が震えた。
「安全第一!」
「いい声!」
ナギはリクの腕をつかんだ。
「待って。名札を楽器扱いする前に、能力確認しよう」
「了解っす」
ガルムが前へ出た。
「リク。お前の力を見せてもらえるか」
「いいっすよ! 何叩けばいいですか?」
「危険のないものだ」
「じゃあ、この桶で」
ナギは慌てた。
「あ、その桶しゃべります」
リクは桶を持ち上げた。
桶が明るく言った。
「今日もえらい!」
リクは固まった。
「……最高じゃないっすか」
ナギは嫌な予感がした。
リクは枝で桶のふちを軽く叩いた。
こん。
桶が言った。
「いいリズム!」
もう一回。
かん。
「その調子!」
もう一回。
ぽん。
「天才!」
リクの顔がぱあっと明るくなった。
「この桶、褒めながら鳴る!」
ナギは額を押さえた。
「俺が昨日作りました」
「ナギさん、天才っすか?」
「たぶん違います」
「いや、最高っす!」
リクは桶を地面に置き、枝を構えた。
「いきます」
とん。
かん。
こん。
ぽん。
桶が合いの手を入れる。
「えらい!」
「うまい!」
「最高!」
「腰に気をつけて!」
村人たちが少しずつ近づいてくる。
子どもたちは目を丸くしている。
ミレナは帳面を抱えたまま、完全に聞き入っている。
リクは次に木箱を叩いた。
どん。
音が地面を走った。
広場の砂が、円を描くように跳ねた。
ロッカが一歩下がる。
「今のは何だ」
リクは自分でも驚いた顔をした。
「低音っすね」
「低音で地面が跳ねるのか」
「異世界、音響がいいっす」
ナギはスマホを確認した。
転生タイムラインに、リクの能力欄が表示される。
能力名
即席ビートインパクト
効果
身近な物を叩くことで音の衝撃を発生させる。
補正
物の材質。
リズムの完成度。
本人の興奮度。
周囲の手拍子。
ナギは読み上げた。
「本人の興奮度って書いてある」
リクは胸を張った。
「常に高いっす」
「強いけど不安」
「手拍子でも補正入るんすね」
ミレナが顔を上げた。
「つまり、周りが一緒に盛り上がるほど強くなる?」
「そうみたいです」
ロッカが渋い顔をした。
「戦いの時に手拍子するのか」
リクは真剣にうなずいた。
「大事っす。ノリは力です」
ロッカはナギを見た。
「変なやつが増えた」
ナギは静かにうなずいた。
「俺もそう思う」
その時、村の外から鐘が鳴った。
一回。
二回。
三回。
昨日と同じ、危険を知らせる音。
広場の空気が変わった。
ガルムが森のほうを見る。
「またか」
村の若者が走ってくる。
「森の東道に魔物です! 甲殻狼の群れです!」
ロッカが短剣を抜いた。
「昨日の残りか」
ナギはリクを見た。
リクは桶を持ったまま、きょとんとしている。
「魔物って、本物の?」
「本物の」
「叩けます?」
「普通は叩かれる前に逃げたい」
「じゃあ、叩いて追い払う方向で」
「適応早いな」
村人たちが避難を始める。
子どもを家へ入れる。
戸を閉める。
畑見習いの魔物が棒を持って門の前に立つ。
名札が叫ぶ。
「守ります!」
リクがそれを聞いて、うなずいた。
「いい掛け声っすね」
名札がもう一度叫ぶ。
「守ります!」
リクは枝で桶を叩いた。
こん。
「守ります!」
こん。
「守ります!」
こん。
「守ります!」
ナギは目を細めた。
「まさか、名札をリズムに入れた?」
「入りが良すぎたんで」
「自由だな」
森の道から、甲殻狼の群れが現れた。
背中に硬い殻。
長い耳。
鋭い牙。
昨日より数が多い。
ロッカが前に出る。
「ナギ、昨日みたいに止められるか」
「やってみる」
リクが枝を握り直す。
「俺もやります」
「初戦だぞ」
「初ライブみたいなもんっす」
「魔物相手にライブするな」
「見てるなら観客です」
「噛んでくる観客だぞ」
「治安悪いっすね」
甲殻狼が走り出した。
地面が鳴る。
砂が跳ねる。
牙が見える。
ナギは息を吸った。
「お題! 変な物ドラマーのライブに来た魔物が、急に困った理由とは!」
リクが横目で見る。
「俺、お題になってる!」
「黙って乗れ!」
「了解っす!」
ナギは答えを探した。
リクの能力。
身近な物を叩く。
音の衝撃。
周囲の手拍子で強くなる。
なら。
ナギは叫んだ。
「リズムに乗らないと前に進めない!」
地面が光った。
甲殻狼たちの足が乱れる。
一匹が前へ出ようとする。
でも、リズムに合っていない。
足が滑る。
別の一匹が、なぜか四拍子で進もうとする。
たん、たん、たん、たん。
少し進む。
リクの目が輝いた。
「なるほど! ビート合わせれば止められる!」
リクは桶を叩いた。
こん。
かん。
どん。
ぽん。
そこへ木箱を加える。
どん。
背中の洗面器を叩く。
ばこん。
音が重なった。
甲殻狼たちは、リクのリズムに足を取られる。
進もうとすればするほど、動きが拍に引っ張られる。
ロッカが目を見開いた。
「動きが読める」
ナギが叫ぶ。
「リズム通りに来るぞ!」
ロッカは短剣を構え、飛びかかってきた一匹を横へ受け流した。
畑見習いの魔物が棒で地面を叩く。
どん。
リクが叫ぶ。
「それ、低音に入れてください!」
畑見習いの魔物は戸惑いながらも、もう一度地面を叩いた。
どん。
名札が叫ぶ。
「安全第一!」
リクが合わせる。
こん。
「安全第一!」
どん。
「安全第一!」
村人たちが門の内側から手拍子を始めた。
ぱん。
ぱん。
ぱん。
ぱん。
リクの音が膨らんだ。
空気が震える。
草が揺れる。
甲殻狼たちの足が完全にずれる。
リクは桶を叩き、木箱を叩き、洗面器を叩き、最後に自分の膝を叩いた。
ぱん。
音が輪になって広がった。
先頭の甲殻狼が、衝撃を受けて後ろへ転がる。
次の狼も。
その次も。
まるで見えない壁に押し返されたように、群れが道の上で転がっていく。
ナギは口を開けた。
「強っ」
リクは笑った。
「いい音出ました!」
ロッカが叫ぶ。
「まだ来る!」
森の奥から、さらに大きな影が出てきた。
普通の甲殻狼より二回り大きい。
殻は分厚く、足も太い。
地面を踏むたび、土がへこむ。
リクの音を聞いても、止まらない。
ミレナが遠くから叫ぶ。
「あれは群れの親玉!」
ナギはリクを見る。
「叩けるか」
リクは枝を握った。
「叩く物が足りないっす」
「こんだけあるのに?」
「もっと変な物が欲しいっす」
「変な物……」
ナギは周りを見た。
桶。
木箱。
洗面器。
鍋ぶた。
柵。
椅子。
名札。
ふと、昨日の能力練習を思い出す。
姿勢のいい椅子。
ナギは椅子を見た。
椅子は広場の端で、今日もいい姿勢で立っている。
「リク!」
「はい!」
「あの椅子、叩けるか!」
「もちろんっす!」
椅子がびくっとした。
ナギは両手を合わせる。
「ごめん、村を守るためだ」
椅子は少し考えるように揺れた。
そして、自分からリクの前へ歩いてきた。
ロッカがつぶやく。
「椅子が覚悟を決めた」
ナギはうなずいた。
「いい椅子だ」
リクは椅子の背を軽く叩いた。
こっ。
高く澄んだ音が鳴った。
「うわ、いい音!」
椅子は少し誇らしげに傾いた。
リクはリズムを変えた。
桶。
木箱。
洗面器。
椅子。
鍋ぶた。
地面。
名札。
安全第一。
安全第一。
安全第一。
村人たちの手拍子が強くなる。
ぱん。
ぱん。
ぱん。
ぱん。
ナギは親玉の魔物を見た。
まだ止まらない。
音の衝撃を、分厚い殻で受け止めている。
リクの額に汗が浮かぶ。
「硬いっすね!」
「音、効いてるけど押し切れない!」
「もっと響く場所があれば……」
ナギの頭が回る。
響く場所。
音を増やす。
反響。
村。
木の柵。
桶。
小屋。
お題。
ナギは息を吸った。
「お題! 村を守るために、変な物ドラマーが見つけた最強のステージとは!」
リクが叫ぶ。
「ステージ!」
ナギは答えた。
「村全体がドラムセットになっている!」
瞬間。
村が鳴った。
柵が、かん。
井戸が、こん。
屋根が、とん。
木箱が、どん。
鍋が、しゃん。
桶が、ぽん。
椅子が、こっ。
名札が、叫ぶ。
「安全第一!」
リクの目が燃えた。
「最高っす!」
リクが両手を広げる。
枝が光る。
スプーンが光る。
鍋ぶたが光る。
村中の音が、リクの動きに合わせて鳴り始めた。
とん。
かん。
ぽこ。
どん。
しゃん。
ばこん。
こっ。
手拍子が重なる。
ぱん。
ぱん。
ぱん。
ナギの心臓まで、リズムに引っ張られる。
親玉の魔物が吠えた。
けれど、その声すらリズムに飲まれた。
リクは叫んだ。
「いきます! 村ごと一発!」
枝を振り下ろす。
村中の音が、ひとつになった。
どん。
見えない衝撃が走った。
親玉の魔物の足元が浮く。
分厚い殻が震える。
巨体が後ろへ押し戻される。
もう一発。
どん。
魔物は転がった。
さらに一発。
どん。
甲殻狼の群れごと、森の奥へ吹き飛ばされた。
木々が揺れる。
葉が舞う。
土煙が上がる。
そして、静かになった。
リクは枝を構えたまま止まっていた。
ナギも。
ロッカも。
ミレナも。
ガルムも。
村人たちも、息を止めていた。
やがて、桶が小さく言った。
「今日もえらい」
その一言で、村中がわっと沸いた。
リクはその場に座り込んだ。
「やば……めっちゃ楽しい……」
ナギは膝に手をついた。
「楽しいで済む威力じゃなかったぞ」
ロッカは短剣をしまいながら言った。
「村が楽器になった」
ミレナは手を震わせながら帳面に書いている。
「村全体の打楽器化。大喜利実現と即席ビートインパクトの組み合わせ。衝撃範囲、村外まで到達。使用後、村の桶が褒める」
「最後も書くんだ」
「大事だから」
ガルムがリクの前に立った。
「リク」
「はいっす」
「村を救ってくれた。礼を言う」
リクは照れたように頭をかいた。
「いや、叩いただけっす」
ナギは笑った。
「それが能力なんだろ」
リクは自分の手を見た。
スプーン。
枝。
鍋ぶた。
どれもただの道具だった。
現実世界でも、きっとそうだった。
でも、リクはそれを叩き続けた。
音にした。
動画にした。
誰かに見せた。
それが今、村を守る力になった。
リクは小さく笑った。
「変な物、叩き続けてよかったっす」
ナギはうなずいた。
「ほんとにな」
スマホが震えた。
転生タイムライン。
変な物ドラマー
動画には、森から走ってくるリク。
桶を叩くリク。
名札をリズムに入れるリク。
村全体をドラムセットにして、魔物を吹き飛ばすリクが映っていた。
コメント欄が少しだけ開いている。
「村ごとドラムは草」
「この人、鍋叩いてた人じゃん」
「異世界でも変な物叩いてて安心した」
「ナギの大喜利、サポート性能高すぎ」
「桶かわいい」
「安全第一の名札、音源化希望」
リクが画面をのぞき込む。
「うわ、コメント来てる!」
「見えるのか」
「見えるっす! あ、これ俺の視聴者っす!」
「分かるの?」
「この言い方、いつもの人っすね」
リクは画面に向かって笑った。
「見てるー? 異世界でも叩いてるっすよー!」
返信はできない。
声も届かない。
それでも、コメント欄が勢いよく流れた。
「見てる!」
「生きててよかった!」
「変な物ドラマー、異世界進出」
「音えぐい」
「帰ってこいよ」
リクの笑顔が、少しだけ止まった。
ナギも、そのコメントを見た。
帰ってこいよ。
簡単な言葉だった。
でも、その一言が胸に残った。
ロッカが静かに尋ねる。
「向こうの人か」
ナギはうなずいた。
「たぶん、リクのことを知ってる人たち」
リクはスマホを見つめたまま、枝を握った。
「帰りたいかって聞かれたら、帰りたいっす」
ナギは黙っていた。
リクは顔を上げる。
「でも、ここで音が出るなら、叩くしかないっすよね」
「前向きだな」
「止まってると怖いんで」
その言葉は、リズムより少しだけ静かだった。
ナギはリクの横顔を見た。
大きな目。
汗で額に張りついた茶色の髪。
腰に下げたスプーン。
へこんだ洗面器。
どれもふざけているみたいなのに、本人の手だけはまっすぐだった。
好きなことを続けてきた手だった。
ミレナがそっと帳面を閉じた。
ガルムは村人たちへ指示を出した。
壊れた柵の確認。
森の見張り。
子どもたちの安全確認。
村はまた動き始める。
桶は水を運ぶ人を褒めた。
椅子は広場の端で誇らしげに立っていた。
名札は畑見習いの胸で、時々安全第一とつぶやいた。
リクは村の真ん中で、壊れた木箱を指で叩いた。
とん。
小さな音。
さっきの衝撃とは違う、優しい音だった。
ナギは隣に座った。
「これからどうする?」
リクは木箱を叩きながら言った。
「とりあえず、村の音を全部録りたいっす」
「録音できるの?」
「スマホは圏外っすけど、転生タイムラインが勝手に投稿してくれるなら、音も残るかも」
「たしかに」
「それに、魔物が来たら叩く」
「頼もしいけど、言い方が軽い」
「ナギさんは?」
「俺は……お題を考える」
「最高っすね」
「最高か?」
「俺が叩いて、ナギさんが変な答え出して、ロッカが走って、ミレナさんが記録して、村長がまとめる」
リクは笑った。
「もうバンドっすよ」
ロッカが遠くから言った。
「俺は入らない」
リクがすぐに返す。
「短剣担当で」
「そんな担当はない」
ナギが笑う。
「いや、ありそう」
ロッカは顔をしかめた。
ミレナが帳面を開き直す。
「村防衛即席バンド。構成、打楽器、大喜利、短剣、記録、村長」
ガルムが遠くから低く言った。
「わしも入るのか」
リクが親指を立てた。
「村長は低音っす」
ガルムは少し考え、杖で地面を一度叩いた。
どん。
リクの目が輝いた。
「いい音!」
村人たちが笑った。
ナギも笑った。
異世界に来て三日目。
まだ帰れない。
理由も分からない。
転生タイムラインは勝手に更新される。
でも、村には音が増えた。
誰かが笑う音。
桶が褒める声。
木箱の低い響き。
名札の安全第一。
リクの変なリズム。
そして、スマホの通知音。
ぴこん。
ナギは画面を見る。
新しい投稿の予告。
次の転生者を準備中。
投稿傾向
路上ライブ
歌唱
自己表現欲、高
ナギは目を細めた。
「次は歌か」
リクが木箱を叩きながら言う。
「コラボできるっすね」
ロッカがため息をついた。
「また騒がしくなる」
ミレナは嬉しそうに帳面を抱えた。
「記録が増えるわ」
ナギはスマホをしまい、森の向こうを見た。
風が村を抜ける。
どこか遠くで、まだ聞こえない歌が生まれようとしている。
転生タイムラインは止まらない。
好きなことで、生きていく。
それがこの世界では、本当に力になる。
ナギは小さく笑った。
「じゃあ、次のお題も考えとくか」
リクの枝が木箱を叩いた。
とん。
その音に合わせるように、村のどこかで桶が言った。
「今日もえらい!」
広場にまた、笑い声が広がった。
コメント
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わあ、とんでもないエピソードでしたね! 新しい転生者・リク、もう完全に「変な物ドラマー」そのもので、登場シーンから「会話を刻むな」に笑いました。でも一番やられたのは、ナギの「村全体がドラムセット」のお題。あの場面、村中の物が音を立てて魔物を押し返す描写が圧巻で、胸が熱くなりました。桶の「今日もえらい!」が絶妙なタイミングで入るのも、なんというか…全部楽しさで出来てる世界観ですね。リクが「帰りたい」と言いながらも「叩くしかない」と笑うところに、彼の根っこの強さを感じました。次の転生者は「歌」…もう村がバンドになりつつあるのが最高です。