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琵琶湖のほとりに近づくと、レイクサイド・エンパイア・ホテルのシルエットが闇の中に浮かび上がった、ガラス張りのタワーは、湖面に映る星明かりと共鳴し、まるで銀河を閉じ込めたような輝きを放っていた
鈴子は広大な一般駐車場に車を停め、原稿を握りしめてロビーへ急いだ、星輝祭の会場は、すでに華やかな喧騒に包まれていた
シャンデリアの光、グランドピアノの調べ、ウェイターたちが運ぶシャンパングラス―
―マンダリン・カントリークラブを彷彿とさせる、しかしそれ以上のスケールの舞台だった
政財界の要人たちが談笑し、海外からのゲストが笑顔で名刺を交換する・・・鈴子は、その中心に定正の姿を探した
「鈴子?」
聞き慣れた声にハッと彼女は振り返った、そこには、黒のタキシードに身を包んだ定正が立っていた、なんて素敵なんだろう、タキシード姿の彼を初めて見た鈴子はその彼の素晴らしい雄姿に心を躍らせた
そして彼の瞳はいつもより柔らかく、しかしどこか驚きに満ちていた
「増田から連絡を受けてまさかと思っていたが・・・驚いたな、本当に持って来てくれたのかい?」
鈴子は息を整え、原稿を差し出した
ハァ・・ハァ・・・「げっ・・・原稿・・・お待たせしました・・・」
定正は一瞬、目を丸くし、すぐにその口元に笑みが広がった
「こんな遅くに一人で・・・危ないじゃないか・・・でもありがとうね」
彼は原稿を受け取り、彼女の頭を優しくなでた、その大きな手の感触に鈴子の心は一瞬、幼い頃・・・父に頭を撫でられた時にタイムスリップした
思わず鈴子は心の中で叫んだ
会いたかったの、会いたかった、一目でもいいから・・・あなたを見たかったの・・
そして鈴子はハッとして、まず、巨大なホールを見回した
―百合は来ているのだろうか・・・―
「えっと・・・あの・・・お一人ですか?」
「誰かと一緒に来ていると思ってた?」
どうやら自分の考えは彼にはお見通しらしい、定正が思わせぶりな低い声でそう言った
―では・・・一人なのね・・・―
鈴子はじっと彼の目を見つめた、定正も鈴子を見つめた、最近はたびたびこんな風に二人は見つめ合う様になっていた、途端に鈴子は大勢の喧騒の中・・・世界には定正と自分二人っきりしかいないような錯覚に陥った
チャリ・・・
「これを・・・」
定正は鈴子にキーホルダーがついたカードキーを渡して言った
「20314号室・・・湖が目の前にあるロイヤル・スイート・ヴィラだよ、今夜の私の部屋だ、もちろん一人で泊るつもりだよ」
定正が近くにいたホテルマンに手を上げ、鈴子を紹介してこのヴィラに案内してやってくれと説明し、それからそっと鈴子の耳元で囁いた
「スピーチが終わったらすぐに行くから私の部屋で待ってて」
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