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「星輝祭」の喧騒が遠のいた夜、鈴子は定正の言葉に導かれ、レイクサイド・エンパイア・ホテルの湖添いにある「アクア・ヴィラ・スイート」へと足を踏み入れた
琵琶湖の湖畔に沿ったプライベートな通路を抜け、スタッフに案内された先で鈴子は息をのんだ、そこはまるでモルディブのオーシャンバンガローを思わせる、琵琶湖と一体化した楽園だった
その中でも定正の泊るこのホテル最大のアクア・ヴィラ・スイートの部屋に入ると、磨き上げられたチーク材のフローリングが琵琶湖の水面の延長かと錯覚するほど広がっていた
だが、最も目を奪うのは、部屋に隣接するプライベートバルコニーだった、バルコニーの先は湖と一体となり、プールの縁には、湖に続く階段があり、いつでも水面に飛び込めるよう設計されていた、まるでこのヴィラ自体が琵琶湖そのものに浮かんでいるような錯覚を覚えた
―こんな凄い部屋・・・見たことない―
鈴子は思わず心の中でそう言った、間違いなく定正のこのホテルへの投資は成功しただろう、そっとガラス扉を開けてバルコニーへと一歩踏み出した
足元には、滑らかな木製のデッキが広がり、その先には琵琶湖の水面が静かに音を立てて揺れている、湖を吹く風は淡水ならではの清らかさで、海のような塩気やベタつきがない
鈴子は湖の美しさに心を奪われながら、そっと靴とストッキングを脱ぎ、ズボンの裾をまくり上げて、バルコニーに座り、足を湖に浸した・・・
あの人が、私をここに待たせている理由は? 仕事? それとも・・・
湖の冷たさが心地よく、胸の高鳴りを抑えるにはちょうどよかった、鈴子は暫く湖に足を浸して考えた、そよ風が頬を撫でていく
何の因果だろう・・・父も兄も失って・・・その原因の百合への怨念だけでここまで来た、そして今私は憎い宿敵の男をここで待っている・・・
湖面に映る月光が銀色の光を散らしている所を見ながら鈴子はポツリ呟いた
「愛しい男を・・・」