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1x1x1x1が放つ「ヴェノムシャンク」の毒。
そして、テラモンに置き去りにされたことから生まれた、狂おしいほどの憎悪。
その二つは世界の理――コードそのものを、急速に蝕んでいた。
かつて美しかった神々の庭園は、もはや見る影もない。
色鮮やかな花々は枯れ果て、大地は不吉な暗紫色に染まり、あちこちから毒の霧が立ち込めている。
そして、その荒野を。
「ウゥ……アァ……」
「グルルル……」
腐敗したゾンビたちが、虚ろな呻き声を上げながら徘徊していた。
「1x! やめろ!!」
毒の侵食を食い止めようと、ビルダーマンが巨大なハンマーを振り下ろす。
ドォン!!
大地が盛り上がり、毒の波を遮る巨大な防壁が築かれた。
「一体どうしちまったんだ!?」
その隣では、ドゥームブリンガーが大剣を振り回していた。
「うおおおおっ!!」
ズバァッ!!
ゾンビの群れを薙ぎ払う。
しかし。
「多すぎますぞぉぉぉ!!」
次から次へと湧いてくる。
「1x1x1x1様!!」
ドゥームブリンガーは必死に叫んだ。
「どうか正気にお戻りください!!」
「…………」
「テラモン様が……!」
「…………」
「テラモン様が間もなく戻られるのです!!」
「…………」
「このようなことをなさっては、あの御方が悲しまれますぞ!!」
その言葉を聞いた瞬間。
1x1x1x1の身体が、ビクッと震えた。
「…………うるさい」
「え?」
「うるさい」
濃緑色の炎が、一気に膨れ上がる。
「うるさい……」
「1x様……?」
「うるさぁぁぁぁぁいッ!!」
ドォォォォン!!
爆発的な炎が周囲を吹き飛ばした。
緑のドミノ・クラウンに刻まれた「X」の紋章が怪しく明滅する。
半透明の緑色の身体の奥では、黒い肋骨がドクドクと脈打っていた。
「テラモンがなんだ!!」
ヴェノムシャンクを地面へ叩きつける。
ズドォン!!
「アイツは俺を捨てて人間になるんだろ!?」
毒の波が大地を走る。
「俺のことなんて、どうでもいいんだ!!」
「そんなことは――」
「だったら!!」
1x1x1x1が叫ぶ。
「この世界ごと、全部毒で溶かしてやる!!」
その時だった。
「――そこまでだ、1x!!」
ドォォォォン……!!
大地を揺るがす轟音。
次の瞬間。
空間に張り巡らされていた結界が、内側から弾け飛んだ。
バキィィィン!!
「…………!?」
現れたのは。
漆黒のローブをまとった男。
しかし。
いつものテラモンとは明らかに違っていた。
ローブは乱れ。
息は荒い。
輝く黄金の翼は無くなっている。
そして、その身体から漂う神力は、以前とは比べものにならないほど弱々しい。
「テラモン……!?」
ビルダーマンが目を見開く。
「テラモン様!!」
ドゥームブリンガーも叫んだ。
テラモンは、ふらつきながら立っていた。
肉体変生の儀式。
まだ途中だった。
神格の剥離は完了していない。
それでも、神力の大部分はすでに封印されている。
つまり今のテラモンは。
神でも。
人間でもない。
その中間。
極めて不安定な存在だった。
「…………」
1x1x1x1は、呆然とテラモンを見つめた。
ヴェノムシャンクを握る手が、止まる。
「お前……」
声が震えた。
「なんで……出てきたんだよ……」
テラモンは息を整える。
「……お前が、こんなになるまで暴れているのに」
一歩。
ふらつきながら歩く。
「黙って部屋に籠っていられるか」
「…………」
「儀式の途中なんじゃねぇのかよ!!」
1x1x1x1が叫ぶ。
「途中でやめたら、お前はどうなるんだよ!!」
「…………」
テラモンは少しだけ笑った。
「それよりも、お前のほうが大事だ」
「……っ」
1x1x1x1の赤い目が揺れる。
テラモンは、ゆっくりと彼へ近づいていった。
その足取りは重い。
以前のような神々しい余裕などない。
今の彼は、明らかに脆かった。
「すまなかった、1x」
「…………」
「お前に寂しい思いをさせた」
「…………」
「私の中の悪意として生まれたお前を、置き去りにしようとした」
テラモンは静かに頭を下げた。
「責められて当然だ」
1x1x1x1は何も言えなかった。
「だが……」
テラモンは顔を上げる。
「世界を壊すのは、もうやめろ」
「…………」
「お前のその手も」
「…………」
「心も」
一歩。
「これ以上傷つけてほしくない」
「…………」
1x1x1x1の赤い目から、涙が一滴落ちた。
「……知ったようなこと言うな」
「1x」
「俺は……」
ヴェノムシャンクを握り直す。
「俺はお前が大嫌いだ!!」
「…………」
「触るな!!」
一歩後退。
「近づくなっ!!」
「1x……」
「来るなぁぁぁ!!」
1x1x1x1が叫びながら、ヴェノムシャンクを振り上げる。
紫と緑の毒が渦を巻く。
「俺は――!!」
その瞬間。
ズズズズズ……。
「…………?」
空から。
奇妙な音がした。
ビルダーマンが顔を上げる。
「……ん?」
空が。
裂けていた。
「な……」
ビルダーマンの顔から笑顔が消える。
「なんだ、あの歪みは……!?」
ドゥームブリンガーも大剣を構えた。
「まさか……次元そのものが……!?」
その通りだった。
1x1x1x1が撒き散らした毒。
抑えきれない憎悪。
そして。
テラモンが途中で放棄した肉体変生の儀式。
それらが世界のコードの中でぶつかり合い。
完全な不協和音を起こしていた。
バキ……。
バキバキバキ……。
天空に巨大な亀裂が走る。
まるで誰かが、世界の画面そのものを引き裂いたかのように。
そして。
その裂け目が。
ゆっくりと開いていく。
そこにあったのは。
墨を流したような、漆黒。
「…………」
誰も言葉を失った。
その穴から。
何かが流れ込んでくる。
冷気。
闇。
そして。
この世界に存在するどんな神力とも違う、異質な力。
「……これは……」
テラモンが呟く。
1x1x1x1の濃緑色の炎が。
スッ。
一瞬で押し潰された。
「…………!?」
その場にいた全員が息を呑んだ。
「何だ……この力は……」
ドゥームブリンガーが震える。
ビルダーマンも、珍しく真顔だった。
「なんか……すごく嫌な感じがする」
裂け目の奥から漂ってくるもの。
それは。
「死」。
そして。
「復讐」。
そして何より。
狂気。
底なしの憎悪だった。
ガシャン……。
「…………」
ガシャン……。
「…………何かいる」
ドゥームブリンガーが呟く。
裂け目の奥から。
重い金属音が近づいてくる。
ガシャン……。
ガシャン……。
やがて。
巨大な影が現れた。
「…………!」
暗雲を突き破り。
ゆっくりと地上へ降りてくる。
それは。
この世界の住人ではなかった。
破れた厚手の黒いマント。
腰には三本の緑色のベルト。
顔の半分を覆うのは、凶暴な赤い眼光を放つ緑色の骸骨マスク。
頭には黒いドミノ・クラウン。
その側面には。
擦れ落ちた緑色の「X」。
肌は暗く、ところどころ擦れ落ちている。
乱れた髪。
目立つ髭。
そして。
長い時間を生き抜いてきた者だけが持つ、深い疲労。
暗い緑の目の奥に宿る。
底なしの復讐心。
そして背中には。
ガチャリ。
太い鉄の鎖。
その鎖によって、巨大な黒い棺が頑丈に縛り付けられていた。
「…………」
さらに。
男の手には、巨大な黒銀の大剣。
その刃には無数の棘。
胸元には、緑色の肋骨を思わせる不吉な装飾。
そして全身には。
緑色の幽霊のような鎖が、意思を持つかのように幾重にも絡みついている。
「…………あ」
テラモンの口から。
小さな声が漏れた。
「…………あ……」
その顔。
その骨格。
その魂。
何より。
その根底に流れている存在の波長。
テラモンには分かった。
「……私……?」
目の前にいる異形は。
間違いなく。
自分だった。
ただし。
この世界の自分ではない。
別の世界線。
別の可能性。
別の運命を歩んだ――。
「……シェドレツキー」
テラモンの声が震える。
異形の男が、ゆっくりと顔を上げた。
暗い緑の眼が。
一人ずつ、そこにいる者たちをなぞっていく。
ビルダーマン。
ドゥームブリンガー。
1x1x1x1。
そして。
テラモン。
「…………」
男のマスクの奥から。
「……シェドレツキー……」
声が漏れた。
いや。
声というより。
擦れたノイズ。
まるで長い年月の果てに、声帯そのものを失ったかのような音だった。
それでも。
その一言に込められた殺意だけは。
誰にでも理解できた。
ガシャン……。
背中の黒い棺が揺れる。
男はゆっくりと大剣を持ち上げた。
そして。
その切っ先を。
まっすぐテラモンへ向ける。
テラモンは動けなかった。
その眼差しにあるものを感じ取ってしまったからだ。
生きとし生ける者への憎悪。
世界そのものへの復讐心。
そして何より。
「シェドレツキー」という存在そのものを。
根絶やしにしようとする。
底なしの憎悪。
「……なんで……」
テラモンが呟く。
異形の男は答えない。
ただ。
大剣を握る手に、力を込める。
「…………」
1x1x1x1もまた、呆然とその男を見つめていた。
自分と同じ。
緑の気配。
Xの紋章。
そして。
テラモンと同じ魂の波長。
「……もう一人の……俺……?」
誰も答えられない。
空には、まだ次元の裂け目が開いたまま。
その向こうには、別の世界の闇が広がっている。
そして。
その裂け目から現れた異世界の死神――。
ハックロード・シェドレツキーは。
今まさに。
この世界のテラモンへ、その牙を剥こうとしていた。
ゆ(旧「ゆゆゆゆ」)
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あおっちӦ(あおあお)
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