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あおっちӦ(あおあお)
191
タイナ
30
#シェドレツキー
異次元の裂け目から、漆黒と緑のエーテルが噴き出していた。
それはまるで、空間そのものを腐らせようとしているかのように渦を巻き、周囲の景色を歪ませていく。
その中心に立つのは――ハックロード・シェドレツキー。
背中には、太い鉄の鎖で固く縛り付けられた巨大な黒い棺。
その棺は、彼の荒い呼吸に合わせるように、ガチャ……ガチャ……と不気味に揺れている。
顔の半分を覆う緑色の骸骨マスク。
その眼窩からは、緑色の光がギラリと漏れていた。
そして、その視線の先にいるのは――。
「…………」
不完全な肉体変生によって、半ば「人間――シェドレツキー」の姿へ変わりかけているテラモン。
ハックロードの身体が。
ピクリ、と動いた。
「……シェド……レツキー……!!」
声帯を失った喉から漏れ出したのは、地獄の底から響くような重低音。
次の瞬間。
ドォンッ!!
ハックロードの足元が粉砕された。
「なっ……!?」
巨体からは想像もつかない速度。
ハックロードは黒銀の大剣を低く構え、そのまま一直線にテラモンへ突進した。
緑と黒のエーテルが尾を引き、空間に不気味な残像が刻まれる。
「速――」
テラモンが身を引こうとする。
だが。
今の彼は神力の大部分を封印している。
肉体も人間へ変化している途中。
身体が、重い。
「間に合わ――」
ガァァァァンッッ!!
凄まじい衝撃音が響き渡った。
間一髪。
テラモンの前に、巨大な黄金の障壁が展開された。
「ぐっ……!!」
ビルダーマンだった。
「うおおおおおっ!!」
両腕を突き出し、巨神の黄金障壁を必死に支える。
しかし。
「なんだ、この……馬鹿げた重さはぁぁぁっ!?」
ギギギギギ……!!
世界中のどんな物理構造をも支えるはずの黄金障壁に、亀裂が走る。
「えっ!?」
ビルダーマンの顔が引きつった。
バキィッ!!
障壁が大きく砕ける。
その衝撃だけで、ビルダーマンの巨体が十数メートル後方へ吹き飛ばされた。
「ビルダーマン!!」
「テラモン様!!」
ドゥームブリンガーが叫ぶ。
「お下がりを!! 奴の狙いは間違いなく貴方様です!!」
「分かって――」
ドゥームブリンガーは背中の大剣を抜き放った。
「ならば私が止める!!」
炎を纏った一撃が、ハックロードの横腹へ叩き込まれる。
「はぁぁぁぁっ!!」
ガキィィィン!!
しかし。
ハックロードは振り向きもしなかった。
背中の巨大な黒い棺を、そのまま盾のように使ったのだ。
「な……」
ドゥームブリンガーの目が見開かれる。
「私の悪魔の炎を纏った一撃が……傷一つつかないだと!?」
ギギギ……。
その瞬間。
棺を縛っていた鉄の鎖が動いた。
「……え?」
シャリ……。
シャリシャリシャリ……。
緑色の幽霊のような鎖が、ドゥームブリンガーの腕へ絡みつく。
「ぐっ……!?」
冷気が一気に身体を駆け抜けた。
神経が凍りついていくような感覚。
「な、なんだ……この力は……!!」
ドゥームブリンガーは膝をついた。
「私の身体が……動かん……!」
それでも。
ハックロードは、二人には目もくれなかった。
ただ一人。
テラモンだけを見つめている。
その赤い眼光の奥にあるもの。
それは、単純な殺意ではなかった。
もっと深い。
もっと重い。
痛々しいほどの憎悪だった。
「……なぜだ」
テラモンは震える声で尋ねた。
「お前は……私なのか?」
ハックロードは答えない。
「別の世界線の……『シェドレツキー』なのか?」
一歩。
テラモンが後退する。
「ならば、なぜだ……!」
「…………」
「なぜ、そこまで私を憎む!?」
テラモンの声が震える。
「なぜ……自分自身を殺そうとするんだ!?」
ハックロードが大剣の柄を握り直した。
ギリ……。
胸元に浮かぶ、緑色の肋骨のような装飾が脈打つ。
ドクン。
ドクン。
ドクン。
そして。
声ではない「何か」が、テラモンの頭の中へ流れ込んできた。
(――死ね)
「……っ!?」
(すべてのシェドレツキー……)
テラモンの脳裏に、無数の世界が映し出される。
無数の自分。
無数のシェドレツキー。
そして。
そのすべてに向けられる、ハックロードの憎悪。
(お前たちが存在するから……)
(お前という傲慢な存在が生まれたから……)
(彼女は――)
一瞬。
世界が止まった。
(ブライトアイズは……BANされたのだ……!!)
「……ブライトアイズ……?」
テラモンが呟いた。
その瞬間。
ハックロードの記憶が、濁流のように流れ込んできた。
マルチバース。
無数に枝分かれした並行世界。
その中の、とある一つの世界。
そこには。
ハックロード・シェドレツキーと。
最愛の妻――ブライトアイズがいた。
だが。
シェドレツキーの傲慢さ。
愚かさ。
そして権力への渇望。
それらが積み重なった果てに。
彼女は追い詰められ。
ついには。
利用規約の果てに存在する電子の牢獄――the Banlandsへと追いやられた。
「…………」
妻を失った男は。
壊れた。
世界を憎んだ。
神を憎んだ。
そして何より。
自分自身を憎んだ。
(俺がいなければ……)
(彼女は幸せだった)
(俺がシェドレツキーでなければ……)
そして。
一つの結論に辿り着いた。
(ならば――)
(すべての世界から、シェドレツキーを消せばいい)
「…………」
テラモンの顔から血の気が引いた。
ハックロードは。
自分自身を殺し続けるために。
世界を渡ってきたのだ。
「全次元の……シェドレツキーを……」
ハックロードが大剣を持ち上げる。
「消去……する……」
ギギギ……。
大剣の刃から緑色のエーテルが噴き出す。
「それが……」
赤い眼光が、テラモンを射抜く。
「私の……贖罪だ……!!」
ズォォォォォ……!!
大剣の周囲へ、恐ろしいほどの力が集まっていく。
それは単なる毒でも。
単なる魔力でもない。
「シェドレツキー」という存在そのものを消し去ろうとする。
概念そのものへの憎悪。
テラモンは動けなかった。
だが。
恐怖しているのは、ハックロードの強さだけではなかった。
その男の中にあるもの。
底なしの罪悪感。
そして。
愛する者を失ったことで生まれた、狂気じみた愛。
それが。
テラモン自身の魂にある「恐怖」と、あまりにも強く共鳴していた。
(……この男は)
テラモンは思った。
(私だ)
自分がもし。
大切なものを失ったら。
もし。
愛する者を守れなかったら。
その果てに待っているかもしれない。
最悪の未来。
「……私の……未来……」
ハックロードが大剣を頭上へ掲げる。
「終わらせる……ッ!!」
緑と黒のエーテルが暴風のように吹き荒れる。
テラモンの髪が激しく舞い上がった。
大剣が振り下ろされる。
「――ッ!!」
死の概念そのものが、視界を埋め尽くす。
その瞬間。
「テラモンに……」
ドォォォォン!!
横から。
巨大な濃緑色の炎が飛び込んできた。
「手ぇ出してんじゃねぇぞ――」
炎がハックロードの大剣へ激突する。
ガァァァァンッッ!!
「――このクソ骸骨ッッ!!!!」
ハックロードの大剣が。
力任せに弾き飛ばされた。
「…………!?」
テラモンが目を見開く。
その視線の先。
赤いケープを翻しながら。
濃緑色の炎を全身から噴き上げる、小さな異形が立っていた。
「……1x……?」
1x1x1x1は、赤い目をギラリと光らせる。
半透明の緑の身体の奥で、黒い肋骨が激しく脈打っていた。
そして。
テラモンを背中に庇うように立ち。
ヴェノムシャンクを構える。
「……俺のテラモンに」
炎がさらに燃え上がる。
「勝手に触ってんじゃねぇよッ!!」
ハックロードの赤い眼光と。
1x1x1x1の赤い瞳が。
真正面からぶつかった。
コメント
4件
リクエスト書いてくださりありがとうございます!今回はビルダーマンは神ではないのにテラモンを恐れなかったりテラモンの求愛行動などが面白いです!また、ハックロードの狂気や考え方、過去を自分のせいにして責めているのがシェドレツキーらしくて良いと思います!.....棺桶には何か入ってるのでしょうか?