コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
ある夜、魔王城の裏門に、黒い影が三つ立っていた。
「……リゼ=カイレル、在処、確認」
「粛清対象、再召喚」
彼らは、リゼがかつて所属していた**暗殺部隊〈夜刃(やじん)〉**の残党だった。
全身黒装束、顔も声も隠し、命令しか信じない者たち。
その手には、血を吸う鋼――“静殺鎌”が握られている。
「見つかったか……」
リゼは城壁から彼らを見下ろし、吐息のように呟いた。
銀髪が風に舞い、鋭い瞳にかつての殺意がわずかに揺れる。
「話し合いませんか」
城門の前に立ったのは、トアルコだった。
「彼女は、もう命令で動いていません。
誰かを守るために、自分の意志で生きてます。だから、もう――“処分”しなくていいはずです」
「理解不能」
「命令から外れた者は、敵」
「命令を止める命令は、存在しない」
「……そっか。命令がすべて、なんですね……」
トアルコは深くうつむいた。
「それでも、彼女に“戻れ”なんて、ぼくは言えません」
そのとき、リゼが前に出た。
鎌を肩に乗せ、静かに言った。
「いい加減にしろ」
「お前ら、何年も前の“命令”を、今もなぞってるのか。
世界がどうなってるかも見ずに、ただ命令に従うだけの生き方……私は、もうやめた」
「理由は?」
「なぜ命令を否定する?」
リゼはふと笑う。
「理由? ……“あの男”が、私に“ありがとう”って言ったからだよ」
思わぬ返答に、影たちの動きが止まる。
「殺さなかったのに、感謝された。それだけで、“自分の選択”をしたくなったんだ」
影の一人が、低く呟いた。
「……命令以外の“反応”が、存在する……と?」
「あるよ。あるんだよ」
トアルコが真剣に言った。
「怖いけど……選ぶって、そういうことなんです。
選んだから、今、リゼさんはここにいてくれてる」
沈黙。
やがて、影たちは動きを止め、ゆっくりと姿を消した。
「命令解除、再評価中……」
その声だけを残して。
夜。
リゼはひとり、鎌をそっと壁に立てかけた。
トアルコが湯気の立つスープを手に近づく。
「冷める前に、どうぞ」
「……言っとくけど、また戦うかもしれないぞ」
「それでも、ぼくは止めにいきます。……リゼさんが、笑ってほしいから」
リゼはふっと目を細めた。
「……やっぱ、バカな魔王だな」
「はい。ありがとうございます」