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な、なんと!
皆の口からは、それ、しか出てこなかった。
「あー、紹介します。こちらは、猫の、親分です」
斑柄の猫が、ニャーと、鳴いた。
「……タマの言葉は、猫に、通じているようですね?兄上」
「あ、あ、そうだな。守恵子《もりえこ》。しかし、庭が、猫で溢れているぞ、これは、また、どう始末をすれば……」
守満《もりみつ》が言ったとたん、猫達は、フゥーと、毛を逆立てて、威嚇してきた。
「やや、何だか、ものすごい迫力だね。ある意味恐ろしい光景だ。徳子《なりこ》姫、大丈夫ですか?さぞかし、驚かれておられるでしょう?」
守近は、身重の徳子を気遣った。
「ええ、驚きました。猫は、こんなにも、いるのですね。一匹だけじゃなかったのね」
「ええ、そうですよ、都には、沢山の猫も、犬もいますよ、それに、そうそう、あの、猫だって、子を産んだでしょう?」
「あ……ああ!なんと、懐かしい!守近様、私《わたくし》よく覚えておりますわ!武蔵野、いえ、結局、たま、に、なった、あの猫のこと」
ふふふと、袖を口元にあてて、徳子は、昔の事を思い出したと、機嫌よく、朗らかな顔を守近へ向けた。
「えーと、タマは、いつも思ってたんですけど、お方様って、なんだか、ヘンテコな事を仰いますよね」
ニャーニャーニャーと、タマの後から、猫達が、それぞれ、うるさく鳴いた。
「あー、はーい、すみません、親分」
タマは、斑柄の猫に頭を下げている。
「兄上、何が起こったのでしょうか?」
「うん、どうも、タマが親分株の猫に叱られたようだね。ならば、さっきの、一斉威嚇は、なんだったのだろう?」
「そうですよね、これでは、何を言っているのか、わかりませんわ
。そうだわ!タマ!お前、通詞《つうやく》をしなさい。猫の言うことは、こちら側には、わからないのだから、分かるお前が、間にお入り!」
うーんと、渋るタマに向かって、斑柄の猫が、ニャ!と、噛みつくように鳴いてきた。
「おや、なんだか、叱られたようだぞ?」
「タマ、しっかりね」
縁に座って、庭に集まる猫達に応対している犬のタマの姿に、守近夫婦は、目を細めていた。
そんな守近夫婦へ向かって、親分猫が、にやーんと、丁寧に鳴いて頭を下げる。
「お、おい、守恵子、見たか!」
「は、はい!猫にも、身分が分かるのでしょうか?!父上は、大納言職ですものね」
いや、そうじゃなくてな、守恵子よ。猫は、何か、もの申したい事があるってことだろうと、守満は思う。が、いかんせん、守恵子は、屋敷の中の暮らし、しか知らない。
詰める使用人達は当然のことながら、外からの来客も、大納言様、と、守近へ頭を下げている。
そうゆう、世界しか見た事がない、守恵子にとっては、位、に、皆が従っている、としか、映っていなかった。
ただ、事実、守恵子達が、生きる世界は、そう、なのであるけれど……。
これは、致し方の無い事かと、守満は思い直し、タマに問いただした。
「なあ、タマ。親分猫は、父上達に、何か伝えたい事があるのではないか?そして、タマ、この数の猫を集めるとは、どうゆうことなんだい?」
ニャーニャーと、タマに変わって、親分猫が、勢い付いた。
「えっと、タマが、困った時、助けを呼ぶと、猫の親分が、来てくれるのです」
にゃ、と、親分猫が、鳴いた。どうやら、そうゆう、約束事が出来ているようで、先ほどの、タマの遠吠えに、反応したのだろう。
「で、ですね。親分は、お方様に、感謝しているそうなんです」
な、なんですかーーー!!!これ!!!タマが、タマが!!!
と、叫び声が流れて来た。
そう、ここにも、一人、なんと!としか、口から出てこない者がいた。
「おお!常春!待っていたんだ!
」
房《へや》の入り口に立つ常春に、守満が、満面の笑みと何かの期待を投げ掛けて来るが、常春は、繰り広げられている、この光景に、付いていく事ができなかった。