テラーノベル
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アプリではなく電話という連絡手段を取ったのは、単純に声が聞きたかったから。胸騒ぎなんて一切なかった。だから繋がった瞬間、声が弾んだ。向こう側が逼迫しているとは、全く想像もせずに。
「あ、めめ?朝早くから電話鳴らしてごめんね、…ちょっと、声、聞きたくなって」
「………」
「…めめ?…いま都合、悪かったかな?」
「……あ…ちゃ……お…」
「ごめん、声遠いみたい。もう一回お願いしてもいい?」
「……、……っ」
微かだが聞き取れた。けれど、理解が追い付かない。脳内で何度も、何度も、反芻する。しかし理解は不能だった。
〝目が覚めたら、周りが真っ暗で何も見えない〟
めめは絶望し切った声で、確かにそう呟いた。
今は朝だ、天気は快晴。電灯を着けなくても明かりには困らない筈。やはり理解出来ない…復唱を頼もうか、浮かんだ考えを直ぐさま飲み込む。声から伝わる不安な機微を察したからだ。
音だけでは駄目だ、すれ違いが生じる可能性がある。暫しの無言の後、阿部は決断した。
「……多分、家に居るんだよね?めめの顔見たくなっちゃったから、逢いに行くよ。ちょっとだけ待ってて。…じゃあ、一旦切るね」
「………阿部ちゃん」
念の為数十秒待ったが、続きはない。吐息が聞こえないよう喉をつめて通話を終える。最低限の身嗜みを整え、阿部は部屋を飛び出した。
合鍵を回す。施錠は簡単に開く。懸念していた一つが立ち消えた。一つ、何らかの理由で拘束されているか。一つ、…視力に異常を来たしているか。
まさか。
めめの家へ踏み入った途端、嫌な想像で胸がザワついた。何故なら、カーテンの隙間から射し込む陽光で、室内が仄明るかったからだ。
自然と駆け足になる。確信があった阿部は一目散に寝室へ向かう。開いた其処は、横切ったリビングと同じ明るさ。…思わず、立ち竦む。
何と声を掛けたらいいか、散々思案を巡らせた挙句、出たのは至って普通の挨拶だった。
「めめ、おはよう。勝手にお邪魔しちゃった…ふふ。…めーめ?」
阿部が見詰める目黒はベッドへ足を投げ出し、力無く片手にスマホを持っている、というか置かれている。画面は暗い、恐らく通話を終えたままなのだろう。目は開いているが、視線が絡まない。虚ろな先は乱れたシーツ。
聞こえていない…?
阿部は躊躇いがちに歩み寄り、逡巡の末、目黒の肩を指先でノックした。僅かに体が傾ぐ。意識がある事に安堵したのは束の間、だった。
黒い目が阿部を見る。だが、見てはいない。自身の胸元辺りへ据えられる視線に、嫌な予感が的中した阿部は息を止めた。
「あべ、ちゃん……何処?其処に、居るの…?暗過ぎて、阿部ちゃんが見えない……」
🌙月見🌿
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