テラーノベル
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※この世界線は、男女関係なく受けが赤ちゃん孕みます。そういう表現が苦手な方は閲覧をご遠慮ください※
きんこんかんこん。
ー皆様にお知らせいたします。当車両は、まもなく車庫へと入ります。お降りになる方はお近くの乗務員までお知らせください。
ぴんぽんぱんぽん。
車内がざわついた。
吊り革が揺れている。会社から家に帰る車中の中の出来事だった。
🖤「いつの間に…。てか、ここどこ?」
🧡「途中どっか寄ったか?寄ってへんよな?これ、直通列車やし」
同僚の康二が、少し慌てた様子で言う。車内はまばらではあったが、まだ何人か人が取り残されていて、家へと帰る途中だった。俺も今日はノー残業デーで早く帰るはずだったので変なところへ連れて行かれたら困る。
🧡「前の方、行ってみるか」
🖤「うん」
康二について行き、先頭車両へと向かった。うちの社員しか使わない路線だから、運転するのも会社に雇用された運転手のはずだ。車両はほぼオートで運行されているけれど、車掌役の社員がいるはずだと思った。
🧡「どういうことや…」
運転席は無人だった。
そこにはコンピューターに制御された操作盤がひとりでに明滅しているだけだ。やがて車内は電灯をひとつずつ落として行く。放送の通り、車両は暗い車庫へと飲み込まれて行った。
2×××年。
地球は、その長い役目を終えようとしていた。
度重なる大災害と人口縮小で住環境が悪化した人類は火星への移住を進めている。
今や、地球の9割が海となり、そこに未だ住む人間たちには急速な高齢化が進んでいた。地球の人口減少は歯止めのきかないところまできていた。このままでは、緑の星は、いずれ、廃墟と化してしまうだろう。一方で若者を中心に火星への移住は順調に進んでいる。
そんな中、火星にて不動産業を営む業界最大手の深澤不動産(株)では、たくさんの社員が新しい住宅の販売に邁進していた。
俺たちが火星に来て、幾年月か。いや、正確に言うと5年だけど。
住宅を売って売って売りまくる毎日が続いている。最近になって、集合住宅に欠陥が見つかって一時騒ぎになったりもしたけど、うちの事業は概ね順調だった。業績も右肩上がり。派手好きな社長は、毎日運転手の岩本くんを連れて遊び回っている。
💜「おーい、めめ、めめ。第3区の売り上げ、どうなってる?」
🖤「あそこは中国籍が多くて。なかなか伸びないんす」
💜「伸びないんす、じゃねぇよ」
一代で巨万の財を築いた敏腕社長の目が鋭く光る。
💜「伸ばすんだよ。何のためのイケメンだ、おらぁ!」
🖤「スイマセン」
ほとんどヤクザの口調だ。
そこへ社長秘書の渡辺さんがちょうど入ってきて社長に何やら資料を渡して耳打ちした。
💜「さっすがナベ♡可愛いだけじゃなくて、なんでもできちゃうんだね♡♡」
そう言って、社長は渡辺さんの太腿を摩っている。渡辺さんはその手を叩くと、社長を睨みつけた。
💙「やめろ……ください」
渡辺さんは美人だけど、ちょっとキツイ性格をしている。そして多分だけど男だ。いつもユニセックスな格好をしているし、顔が可愛いらしいから社内では男女関係なくモテていた。社長の愛人という噂もあるが本当のところはどうなんだろうか。社長は完全に惚れてそうだけど。いつも鼻の下伸びてるし。
💙「目黒、ここはもういいから。今日はもう帰って。ノー残業デーだよ」
🖤「あ、ハイ」
目が合うと、渡辺さんはウインクしてきた。
胸がどきっとする。好きだなぁ、渡辺さん。可愛いなあ。それはそうと、帰らないと。今日は大切な妻との記念日だ。こんなところでぼやぼやしていられない。
俺は、休み時間に、今日の記念日を祝うために買った花とケーキとを持って、慌てて通勤電車に乗り込んだ、はずだった。
キキィィィィィィ。
耳をつんざくような不自然な音とともに、俺たちの乗っていた列車が急に停まった。そして、何の前触れもなく、全車両のドアが開いた。
ここは車庫の中。ところどころに申し訳程度の灯りがついていて、隣にいる康二の顔が薄ぼんやりと見えるくらいの明るさだった。
残された乗客たちは、恐る恐るホームのような場所に降りる。車庫には他に人影はなく、不気味な静寂に包まれていた。
🧡「どないなっとんねん…」
🖤「とりあえず出口探そう。一刻も早く帰りたい」
🧡「せやな」
花とケーキを抱え、出口を探す。それをふと見つけた康二が、そういえば、と話題を振ってきた。
🧡「阿部ちゃん、元気にしとるか?」
🖤「うん。元気元気。少しお腹が目立ってきたけど、つわりもそう重くないし」
🧡「ほうか。よかったな」
康二は心底嬉しそうにそう言った。本当にいい奴だ。
思えば。
入社以来の親友であり、恋のライバルでもあった康二とこうして阿部ちゃんの話をするのは久しぶりだ。阿部ちゃんというのは、元営業部のマドンナだった現在の俺の美しい妻で、半年ほど前に産休に入った。結婚してから部署替えがあり、経理部に在籍している。そして今は家にいて、決して得意とは言えない家事を身重の体で頑張ってくれている。
今日はその大事な結婚記念日だというのに。何ということだろう。このままじゃいつ帰れるのかわからない。
ふと思い立ち、ポケットのスマホを取り出したが、ここは通信できる圏内になかった。
🖤「くっそ」
同じく康二のスマホもだめで、暗い通路を二人でとりあえず明るい場所へとあてもなく進んで行くことにした。少し先へ進めば職員の事務所なり何なりがあるだろう。
🧡「なあ、めめ。渡辺さんのこと、どう思う?」
🖤「へっ?」
康二が急に社内で阿部ちゃんとともに人気を二分していた美人秘書について話し始めたので、少し驚いた。渡辺さんとはついさっき社長室で会ったばかりだ。今日も可愛かったし、いい匂いがした。
🖤「なんで?」
🧡「今度、食事行く約束してん」
🖤「へぇ」
🧡「深澤さんとは付き合うてないみたいや、まだ」
🖤「あ、マジ!?」
あれは社長の片想いなのか。社長の気持ちは社員にダダ漏れだが。そもそも渡辺さんの社長室への抜擢は公私混同だとまことしやかに噂されていた。俺もそう思う。深澤社長は手腕こそ凄いが、なかなか時代錯誤のパワハラモラハラ野郎なので、そうと知ったら康二を応援しようと俺は心に誓った。
🧡「可能性あるかなあ。俺も可愛い嫁さんが欲しいねん」
🖤「ライバルは社長だけど、頑張れよ」
🧡「社長だけちゃうわ」
🖤「あ。やっぱり?」
阿部ちゃんを手に入れてから、社内全体が阿部ロスになったのは記憶に新しい。渡辺さんは今や一強で社内随一の人気を誇っていた。本人はその全てにクールに接していたけれど。
🧡「手強いのはベネズエラタウンから来た若手の超エリートと、運転手の岩本さん、それとあれやな……さっくん」
🖤「さっくん。……ああ、佐久間くんね」
佐久間くんは営業部のエースだ。髪を明るくピンク色に染めて、古い取引先の信任は厚く、それでいて新しい顧客もどんどん手に入れるというコミュ力お化けのモンスター社員。深澤社長には何かと彼と業績を比較をされるので覚えていた。康二は佐久間くんとも仲がいいらしい。
🧡「めめの時もそうやったけど、なんで親友と好きな人が被るんやろ」
🖤「その節は悪かったな」
謝るなや!と背中を思いっきり叩かれたところで、ちょうど階段を上り切り、やっと視界のひらけたところへと到着した。
🖤「すっげ。何だあれ」
そこは、鉄の階段でできた高台になっていて、眼下を一望に見下ろすことができた。目の前には今乗ってきた車両のほかに会社所有の列車が二基並んでいたが、そんなことよりも俺たちの目を奪ったのは、ピンク色のぬるぬるしたスライムのようなゼリー状の液体が見渡す限りを覆う信じられない光景だった。スライムは見るからにぬめぬめとして、そしてモチモチとしていて、今立っている鉄の階段にもそのピンクの飛沫が少しかかっている。
列車が急に停まったのはアレのせいなのだろうか。しかしそのスライムがどこから出て来た何者なのかがわからない。粘度があって、大量で、生き物みたいに震えていて、端的に言って気持ち悪かった。
🧡「何やの、アレ」
🖤「わからない…見たこともない」
ジリリリリリ!!!
近くにあった黒い受話器がいきなり鳴って、文字通り、俺と康二は飛び上がって驚いた。
🧡「めめ……出てや」
黙って頷き、受話器を持ち上げる。
受話器からはガガ……と、変な音がして、人の声はしない。諦めて切ろうとしたところで、ようやく人間の男の声が響いた。
❤️「ワレワレハ」
🖤「はい?」
❤️「宇宙人デス」
コメント
14件
おいだて😂😂😂
だてええええええ!!!!! (michiruさんと全く同じことを 思いました🤣🤣🤣)
だてえええええ!!!!!