テラーノベル
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俺があとをつけた先は、行き止まりの校舎裏。
そこには夕葉が一人でうずくまっていた。
俺はたまらず声をかける。
「何してんの…?」
返事は無い。
「どうした?」
またも返事は無い。
俺は夕葉の横にそっと腰掛けた。
人一人分くらい開けて。
「何かあったか…?」
俺がそう言うと、夕葉はかすかな声で話し出した。
「―――私、引っ越すの」
「は……?」
冗談には聞こえなかった。
だけど俺は信じられない。
「もう会えない―――」
「……」
言葉が出ない。
慰められない。
何故かって?
____悲しいのは俺もだからだ。
なんで悲しい…?
なんで寂しい…?
「ごめんね、隠してて…っ、引っ越し間際まで…」
「…っ」
でも、こんな話をしている間に日はゆっくりと昇り始める。
朝日が、俺達にスポットライトを当てたかのように光り輝いている。
眩しいほどに美しい。
俺はどうしてか元気を貰って気がした。
そして俺が話す前に、夕葉が声を出す。
「……ひとつ、お願いがあるの」
「最後のお願い」
「…」
俺は否定しない。
最後くらい、聞いてあげても良いと思ったから。
深呼吸をした夕葉は、こう言った。
「一緒に、行きたい場所があるんだ…」
「場所…?」
「うん」
「今日の放課後、私と一緒に来てほしいの」
「………分かった」
「良いの!?」
夕葉はひどく驚いている。
「当たり前だろ」
言おうともしていなかった言葉が口から飛び出た。
これが本音というやつか―――。
俺はこれまでずっと、本音を言えていなかったのかも知れない。
すると、嬉しそうに夕葉が口を開いた。
「じゃあ、放課後校舎裏で待ってるね!」
「…ああ」
俺は正直、楽しみだった。
____放課後
校舎裏に行くと、すでに夕葉が端のほうで座っていた。
俺を見ると笑顔になり、とある“場所”へ案内すると言った。
その場所は、近くの公園だった。
桜が咲き誇っている。
「綺麗でしょ?桜」
「私達の中学校にある桜も、ここから移植されたんだって」
「ふーん……」
俺はさりげなく夕葉の方を見てみる。
楽しそうで、悲しそうな表情だった。
胸が苦しくなる。
―――何だか分からない、この感情。
俺が無言で立っていると、夕葉がふと話した。
視線は桜に向いたままだった。
「やまとってさ、なんで桜が好きなの?」
「……」
俺は何も言えなかった。
何か言おうとしたら、喉につっかかる感じがして。
言葉が出ない。
出せないんだ。
やっとのことで言葉を出せた。
「昔から、母ちゃんが桜好きだったから」
「俺も連れ出されて、なんか見るようになった」
待っていたと言わんばかりに夕葉は答える。
「そうなの!?意外だな〜、初めて聞いたよ」
そう言うと同時に、何かが俺の制服に触れた気がした。
「…何か触ったか?」
「え?」
「気のせいか…」
どうやら違ったらしい。
俺は気を取り直して、桜をじっくり眺める。
この時間が一番好きだった。
____だけど本当に好きなのは、この時間だけでは無いのかも知れない。
「「ねえ!ねえったら〜!あそぼ〜!」」
「「やまとぉ〜!」」
「「おーい!やーまとっ!」」
ふと、俺の頭の中には 夕葉の幼少期が浮かび上がった。
俺の名前をただ呼び続けている。
俺が夕葉の方を振り向くと、すでに夕葉は居なかった。
「「どこ行ったんだー?」」
この出来事から、毎日遊ぶ時はかくれんぼをするようになった。
よく、太く根の張った桜の木の後ろに隠れたものだ。
これが意外と見つからなかったりして。
俺は楽しんでいた。
一人時間以外も、夕葉との時間を。
俺は………
少し考えて、辞めた。
もう考えたくなかった。
―――すると、俺は現実に戻ったようだ。
目の前には夕葉が…
居なかった。
「は?どこ行ったんだよ…」
「!」
俺はまた『あの頃』を思い出す。
「そうか…」
俺は夕葉を探し始めた。
当時からレベルアップしたようだ。なかなか見つからない。
「どこ行ったんだー?」
あの頃と同じ言葉をかけてみる。
返事が聞こえたような気もした。
俺は我を忘れて探した。
「…」
もしかしてこの今、俺は本当の「楽しい」を知ることが出来たのだろうか。
終わりが見たくなかった。
「っ」
俺はふと立ち止まって、涙が零れそうになった。
理由は分からない。
だが必死にこらえて、また探し出した。
コメント
2件
やまとくんが母ちゃんって呼び方なんか可愛い!ww