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「恵菜が…………結──」
奈美が話し切る前に、恵菜は遮るように言葉を割り込ませた。
「私の時は、ちょうどコロナが蔓延してた頃だったから、役所に行って、婚姻届を提出しただけだったんだ……」
彼女が、微苦笑しながら奈美を見やる。
早瀬勇人との結婚の事を聞かれた恵菜の鼓動が、次第にバクバクと刻まれ、抑えたくても抑えきれない。
隣には、恵菜が密かに好意を寄せている純がいる。
「紙切れを役所に提出して結婚して、紙切れを役所に提出して離婚した。私の結婚生活の始まりと終わりは…………ただ……それだけだよ……」
自虐気味に言い放つ恵菜が、微苦笑をおさめた後に見せた、憂いの色を帯びた瞳。
そんな恵菜の表情を、すぐ横から視線が真っ直ぐに射抜いているのを感じていた。
純の視線が恵菜の頬に刺さっているようで、彼に見られている恥ずかしさと、紙一枚だけの結婚だった事を打ち明けてしまった苦しさで、心が痛くてたまらない。
「ごめんね恵菜…………私……余計な事を……」
恵菜が傷付いたと思ったのか、奈美がまつ毛を伏せながら謝る。
「でも、もっ……もう終わった事だし、気にしてないから大丈夫っ! それにしても、奈美と奈美の旦那さん、写真をたくさん飾って、すごくラブラブですねっ……!」
暗い表情になっている自分にハッとした恵菜は、重くなりつつあった雰囲気を一掃させるように、弾ける笑顔を映し出した。
恵菜と奈美の高校時代の話や、純と豪の中学時代のエピソードなど、談笑しているうちに、陽は西に傾き、茜色の陽光がリビングを微かに包み込んでいる。
「せっかくこうして四人で集まってるんだし、ピザでも取ろうよ」
奈美が豪に提案すると、それいいねぇ、と豪が快諾する。
「純も相沢さんも、まだ時間は大丈夫?」
「俺は全然オッケー」
「私もまだ大丈夫です」
「じゃあ決まり! さっそく注文するね」
三人の返事を聞いた奈美は、スマートフォンを掴んで、ピザを注文し、キッチンに入っていく。
(奈美、旦那さんと出会って結婚してから、すごくイキイキしてるな……)
あの大人しかった奈美が、豪と出会って結婚し、友人を招いて笑顔を溢れさせながら、もてなしている。
恵菜は、キッチンへ向かう親友の背中が、とても眩く感じていた。