テラーノベル
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「材料が足りないぜ、どこかで調達しよう」
三隻の宇宙船を改造するには、手持ちの材料では足りなかった。愛玉子が材料の調達を提案すると、サーターアンダギーが近場の採掘ポイントを示す。
「この近くの山に初期段階の改造に適した材料が沢山ありますわ。拠点を手に入れた後はそこで材料を集めて改造するのが推奨された行動になりますわね」
早速三人でその山に向かう事にした。さすがのちんすこうも今は真面目に力を蓄える時だとわきまえているのだ。きっと。
「山かー、私ずっと都会に住んでるからあんまり山に登った事ないんだよね」
ワクワクしながらそう語るちんすこうに、愛玉子が笑いながら言った。
「なんだ、ちんすこうは都会人か。アタシの家は山の中にあるぜ?」
「マジで!? タヌキとか出る?」
「ああ、イノシシも出るぞ」
そんな他愛のない話をしながら山に向かっていると、プレイヤーらしき若い男が妙に焦った様子で話しかけてきた。
「おいっ、お前ら! どこに行くんだ?」
以下、三人がヒソヒソと小声で相談する様子をどうぞ。
(なんだコイツ)
(他のプレイヤーですわね)
(とりあえずタックルしとく?)
(いや、何か情報を持ってるかも知れない。適当に話を合わせて話を聞いて見ようぜ)
(そうですわね、このぐらいの男性は年下の女の子が可愛く愛想を振りまけば勝手に何でも貢ぐとお父様が言ってましたわ)
(可愛く話を合わせるんだね? 分かった)
失礼な奴だが、見た目は年上っぽいので可愛い子ぶりながらやり過ごす事にした。
「ちんすこうは山に殺戮兵器の材料を集めに行くの~、きゃぴっ♪」
上目遣い答えるちんすこう。どうやら可愛い子ぶっているつもりらしい。
「お、おう……いや、なんでもいい。さっきから山にはなんか得体の知れない化け物がうろついてるそうだぞ。行くのはやめときな」
男の話によると、ちんすこう達と同じように採掘ポイントを目指したプレイヤーが謎のモンスターに襲われて何人も死に戻っているらしい。
「得体の知れない化け物ね、面白そうじゃないか」
「異変と関係あるかも知れませんわね。デスペナ(※デスペナルティ。日本語に訳すと死刑だが、これはゲーム用語で、死亡することで不利益を被る事を指す。昔のMMOは一回死ぬと大変な事になっていた)があるわけでもないですし、ちょっと様子を見てみましょう」
愛玉子とサーターアンダギーが乗り気である。
「おいおい、今は非常事態だぞ。好き好んで死ににいく奴がいるかよ。ち、ちん何とかちゃんも言ってやりな」
ちんすこうの名前を何か別のものと勘違いしているらしい男が二人の態度に呆れた様子で彼女を見ると、当然のように目を輝かせていた。
「得体の知れない化け物! 見たい見たい!」
手を額に当て、諦めたようにため息をつく男。
「はあ、まあ忠告はしたからな。無茶するんじゃないぞ」
男と別れ、意気揚々と山に向かう三人だった。
山に到着すると、すぐに件の化け物が目に入った。ちんすこうも何と表現して良いのかわからない見た目の化け物に戸惑う。
「何あれ、なんたらオメガの親戚?」
それは、巨大なワームの背中から色とりどりの触角が生え、更に頭が二又に分かれた形をした、スライム状の体を持つ生物だった。
スライム状の体の中には、明らかに人型の赤黒い影が見える。中の人というわけではない。取り込まれたのだ。更に別の部分からは人の手らしきものがつきだしていて、化け物が身震いするとそれは体の中に沈んでいき、一呼吸おいてその部分が赤く弾けるように染まった。
「うげ……中ですりつぶしてやがる」
まさかのグロテスクな光景。デスペナがないとはいえ、この死にかたはちょっと御免こうむりたいものである。それを見たちんすこうは……。
「よし、恫喝だ!」
サーターアンダギーに指示を出した。
「恫喝って、何をすればいいんですの!?」
と言いつつ前に出るサーターアンダギー。
「フフフ……」
何やら恐ろしい顔をしているようだがちんすこう達からは背中しか見えない。
「ピギャアアア!」
恐怖におののくスライムワーム。どうやら恫喝が効いているらしい。
「おおっ、怖がってるぜ!」
「私、ちょっと複雑ですわ」
恐れをなした化け物はどこかへ逃げて行った。
「よし、それじゃ材料集めよー!」
何事も無かったかのように元気よく拳を上げるちんすこうだった。
数十分後、鞄一杯に材料アイテムを積めると下山する三人。鞄と言ってもゲームのインベントリ、一枠に一個の巨大な鉱石が入っている。
「これだけあればここで可能な最大限の強化が出来るぜ!」
満面の笑みで言いながら軽い足取りで拠点へ向かう愛玉子。対してサーターアンダギーは思案していた。
「あの化け物は一体……やはりマーラーカオが何か良からぬ事をしているのでしょうか?」
「そうだね、私に良い考えがある!」
ちんすこうが自信満々に胸を張るので、サーターアンダギーは軽い気持ちで彼女に任せた。
数時間後、山は最大強化された宇宙船の拡散波動砲によって薙ぎ払われるのだった。
ちんすこう一味の業が10ポイント悪に傾いた!
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