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「宇宙船も強化したし、次の惑星を目指そうぜ」
愛玉子が提案する。初心者プレイヤー向けの採掘場を破壊した事で三人ともスヴァルトアールヴヘイムの指名手配犯になっていた。順調に宇宙海賊として名を上げていくちんすこう一味である。
「じゃあアスガルドに行ってみない?」
アスガルドとはカオスユニバースの管理を行う中央管制室の事だ。管制室という名称だがゲーム内では一個の惑星である。『星食いのリヴァイアサン』に食べられたのかも知れないと彼女達は思っているが、それにしてはログアウト以外のゲーム機能が全て健在というのも不思議な話である。ちんすこうはアスガルドの現状を確かめたいと思っていた。
「それは良い案ですわね。ですが、アスガルドへ行くにはワープ航行が出来るようにならないといけません。ワープ航行はヨトゥンヘイムという惑星で巨人の試練に打ち勝たなくては解放されませんわ」
「ヨトゥンヘイムって巨人の星だろ? 面白そうだな」
それでは早速ヨトゥンヘイムへ向かおうと宇宙船に乗り込むちんすこう達に、サーターアンダギーが警告を発した。
「ヨトゥンヘイムは隣の銀河にあります。途中いくつもの小惑星を経由していく事になるので長い旅になる覚悟をしてくださいませ」
長い旅と聞いて、むしろワクワクするちんすこうだった。
◇◆◇
「ひとまずはこれで犠牲者が出る心配も無くなったな。早く元凶を捕まえなくては」
国立魔科学研究所のサーバールームにて、聖護院寿甘が溜息をつく。カオスユニバースの管理者である彼はゲーム内の異常を察知し、全プレイヤーにログアウトの処理を行った。しかし何者かにそれを妨害されると、一時的な処置としてゲームサーバーを加速状態にしたのだった。
これにより、ゲーム内では外の時間の数千倍の速度で時間が進み、実際の時間が一分進む間に中のプレイヤーは体感で数日の時を過ごす状態になった。ちんすこう達が怪獣を撃退し、採掘をして宇宙船を強化し、山を破壊している間に現実の世界で進んだ時間は約十秒である。脳への負担が気になるところだが、人間の脳は意外と高性能なので現実時間で数日ぐらいはこの状態でも問題はないのだ。むしろ数日もゲームにつないでいるとちんすこうが危惧したように排泄や栄養補給の問題の方が大きくなってくる。現実で一日、ゲーム内では数年の間に問題を解決する予定だ。
「内部のプレイヤーは数分もしないうちに異常に気付くだろう。巧妙に隠れているが犯人もプレイヤーとして入り込んでいるのはわかっているからな。何かアクションを起こしてくれれば捕捉も楽になるのだが」
このような処置をしたのは、悪さをした犯人を追い詰めるためである。マーラーカオは素性を隠して参加しているが確かに実在する人間であり、また魔科学に明るい人物でもある事は間違いない。プレイヤーとして参加しながら、プログラムを書き換える『星食い』の破壊行為は外部から遠隔で行っているので、内部の時間を加速させれば彼女の計画は体感で相当な遅れを生む事になる。焦ってボロを出すのを待っているのだ。
「おそらく犯人は近くにいる。近年に生まれた魔科学の知識をこれだけ身につけるのはここ以外では不可能だからな」
そう言いながら、猛烈な勢いで記録されていく娘の行動ログに目を向ける。
「……八ッ橋はゲームを楽しんでいるようだな。結構結構」
最初の数分はゲーム内も混乱していたが、徐々に誰もが冒険を楽しむようになっていた。現実逃避か、諦観かは不明だが、騒いでも仕方がないと誰もが理解し始めたのである。
その中で、ちんすこうとその仲間達は飛びぬけて活動的だった。
◇◆◇
「おかしい。リヴァイアサンと連絡が取れないし、私もゲーム内に閉じ込められてしまった。寿甘の奴が何かしたわね?」
カオスユニバースのとある星にて、マーラーカオは手元にある板状の端末を操作しながらひとりごちた。
「だが、妨害がある事ぐらい予想している。こんな時のために単独で破壊活動が行えるように準備してきたのだからな! 見てろよ、吠え面をかかせてやる」
何か設定の変更があった事には気付いても加速状態になっているとは思ってもいない彼女だったが、決して頭が悪いからではない。自分が入り込んでいる世界の時間の流れが外と違うなんて事には余程の事がなければどんな大天才でも気付かないものなのである。