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結局無難にたこ焼きを買ってきた私は、手袋を外すと割り箸を二つに割いた。
「いただきま〜すっ」
ホカホカと湯気を出すたこ焼きを一つ掴むと、ニコニコと上機嫌な顔をして自分の口へと近づける。
「あっ、チュッ……!」
唇に触れた瞬間。余りの熱さに変な声を出してビクリと肩を揺らした私は、そのままたこ焼きを器へ戻すと自分の唇を抑えた。
(一口で食べようとしなくて良かった……)
まだ少しヒリヒリとする唇を摩りながら、手元のたこ焼きをジッと見つめる。
(んー。恐るべし、たこ焼き)
一人そんな事を考えていると、隣にいるひぃくんが焦った様な声を出した。
「花音、大丈夫!? ちゃんとフーフーしなきゃダメだよ?」
「うん……」
「今やってあげるからね」
そう言うと、自分の箸でたこ焼きを半分に割ったひぃくん。その内の一つを掴むと、フーフーと息を吹きかけて冷ました後に私の目の前へと差し出す。
「えっ……」
「はい、あーん」
フニャッと微笑んで小首を傾げるひぃくん。
(いやいやいや。それは恥ずかしいから、ひぃくん。……だってほら、皆んながこっち見てるし)
口元をヒクリと引きつらせながら周りに目をやると、クラスの子達や斗真くん達と視線がぶつかる。
「ひぃくん……それはいいよ、自分で食べれるから」
「遠慮しなくていいんだよ? はい、あーん」
「いや、遠慮とかじゃなくて……。恥ずかしいから辞めてよ、ひぃくん。皆んなが見てるよ」
「え?」
私の言葉を受けて斗真くん達に視線を移したひぃくんは、ニッコリと微笑むと口を開いた。
「大丈夫だよ? 誰も見てないから」
ひぃくんの発した言葉で、私達を見ていた全員がハッと焦った様にして視線を外した。
(……なんなのよ、その力技)
ひぃくんのその強引さに若干引きつつも、私へと視線を戻したひぃくんを見上げて口を開く。
「一人で食べれるから大丈夫だよ」
「ダメだよ、花音がやると火傷しちゃうから」
「本当に大丈夫だから」
「大丈夫じゃないよー」
そんな言い合いをひたすら繰り返す私達。その後どうにかひぃくんを説得した私は、残念がるひぃくんを横目にホッと息を吐いた。
(これでやっと食べれるよ……)
手元のたこ焼きを見つめて改めて小さく息を吐くと、先程ひぃくんが割ってくれたたこ焼きを一つ掴んで口の中へと入れる。
寒空の下で食べるホカホカのたこ焼きは、お預けをくらった分とても美味しく感じる。
(美味しい……。幸せぇ)
たこ焼きの入った口をモグモグとさせながら、途端に笑顔になった私。
「ねぇ、花音ちゃん。その指輪って響先輩に貰ったの?」
その声に視線を上げてみると、目の前にいる志帆ちゃんが私の左手を見ている。
「えっ? あ……、うん。そうだよ」
「ひょっとして、クリスマスプレゼント?」
「うん」
「いいなぁ〜! 羨ましい〜!」
そう言ってキャッキャと騒ぎ始めた志帆ちゃん。その姿が何だかとても可愛くて、思わずクスリと声を漏らす。
「花音ちゃんは何をあげたの!?」
「えっ? っ……、えっと……」
キラキラと瞳を輝かせて私を見つめている志帆ちゃん。そんな志帆ちゃんを前に、瞳を泳がせると一人オロオロとする。
(……何もあげてません)
プレゼントを用意するのを忘れた私は、結局未だに何もあげていないだなんて……。目の前にいる志帆ちゃんの姿を見ると、どうにも言いづらい。
キラキラとした瞳を向けて、私の言葉を待っている志帆ちゃん。私は引きつった笑顔でアハハと小さく声を漏らすと、コクリと小さく唾を飲み込んで覚悟を決める。
「実はね、私何も──」
「プレゼントは花音だよっ」
────!!?
私の言葉を遮って、突然会話に入ってきたひぃくん。
「えっ? それって……。キャーッ! やだもぉ〜! 変な事聞いちゃってごめんね、花音ちゃんっ!」
私の肩をパシパシと叩きながら、ほんのりと赤くなった頬を片手で抑える志帆ちゃん。
(……えっ!? ち、違う違う違うっ! 違うよ、志帆ちゃんっ!)
志帆ちゃんのその反応を見て焦った私は、カッと両目を見開くとそのまま口を開いた。
「ちっ、違うよ!? 違うからね、志帆ちゃんっ!!」
「もぉ〜! 照れなくてもいいってばぁ!」
私の言葉など全く信じていない様子の志帆ちゃん。気付けば、斗真くん達まで私達に注目をしている。
「ち……っ、違うのっ! ……っ本当に違うからっっ!!」
真っ赤になってそう訴えてみるも、そんな私が余計に怪しかったのか、志帆ちゃんはニヤニヤとした顔を見せると、「はいはい。照れちゃってカワイイんだからぁ〜」なんて言い出す始末だ。
「照れちゃって可愛いねー。花音っ」
フニャッと笑ったひぃくんは、そう告げると私の頬をツンっと突く。
(ひぃくん……お願いだから、もうこれ以上皆んなの前で変な事を言うのはやめてよ……っ)
私の横で呑気にニコニコと微笑んでいるひぃくん。
そんなひぃくんを横目に、どんどん悪化してゆく状況にどうすればいいのか分からず、ただ呆然とする私。
「おい、響。嘘つくなよな」
この状況を見かねたのか、突然会話に入ってきたお兄ちゃん。きっと、お兄ちゃんがなんとかしてくれるはず。
そう思った私は、お兄ちゃんへ向けて期待の眼差しを向ける。
「嘘なんてついてないよー。プレゼントは花音だったよ? サンタさんの格好した花音、可愛かったなぁー 」
そう言ってフニャッと笑ったひぃくんは、あの日の出来事を思い出しているのか、「あ〜、可愛かったなー。また見たいなー」なんて呑気にニコニコと笑っている。
こうして改めて言われてみると、コスプレをした事実がなんだか急激に恥ずかしくなってくる。既に赤く染まっていた私の顔は、みるみる内にその赤みを増していった。
(そんな事まで皆んなの前でペラペラと話さないでよ……っ)
ひぃくんのその呑気さを怨めしく思いながらも、恥ずかしさからキュッと固く口を結ぶ。
「この間は翔に邪魔されちゃったから、残念だったなー」
「お前は鐘でも突いてその煩悩を今すぐ消し去ってこい!」
そう言ってひぃくんをギロリと睨むお兄ちゃん。
(何でもいいから……っ。もう、この会話を終わらせて下さい)
一向に話題の変わらない状況に、ただただ私は祈り続ける。
「バカだなー、翔は。俺は子煩悩なんだよ?」
「……は?」
意味の分からないことを言い出したひぃくんに、一瞬怯んだお兄ちゃん。それでも、もう一度ギロリとひぃくんを睨み直すと口を開いた。
「花音だって嫌がってただろ!」
「嫌がってなんかないよ?」
「嘘つけっ! 真っ青な顔してビビリまくってただろ!」
(あぁ……、お願い……っ。もうこれ以上、皆んなの前で色々言うのはやめて……っ)
益々悪くなってしまったこの状況に、恥ずかしさを通り越して絶望感すら覚える。
(最悪だ……っ、なんて最悪なの……。お兄ちゃんもひぃくんも、お願いだからもう黙って……っ)
「そんな事ないよねー? 花音」
────!?
突然、私に向かって話しかけてきたひぃくんの声に驚き、ビクリと小さく震えた私の身体。
チラリと斗真くん達を見渡してみると、皆んなが私の回答に注目して視線を向けている。
「……花音?」
何も答えようとしない私に不安になったのか、途端に悲しそうな顔を見せるひぃくん。
そのまま私の肩をガシッと掴むと、今にも泣き出しそうな顔をして大声を上げた。
「そんなに俺とエッチするのが嫌なの!? ねぇ、花音っ! お願いだから何とか言ってよー!!」
────!!?!!?
(ンなっ……!?!? なっ、ななな、何て事を……っ!!)
ヒクヒクと引きつる顔面蒼白の私は、ひぃくん越しにチラリと周りを見渡した。
(こんな場所で……っ、その質問に答えろと……? 勿論嫌じゃないよ、ひぃくん……。でもね、周りをよく見てっ!)
ひぃくんの発した大声で、近くにいた見知らぬ人達までもが何事かと私達を見ている。
(こんな状況でその質問に答えろって言うの……っ? そんなの無理だよ!!)
大衆の面前で何とも破廉恥な質問をされ、まるでイジメか拷問でも受けているかの様なこの状況。
今にも意識が遠のいてしまいそうな中、ボンヤリと見えるのは遂にポロポロと涙を流し始めてしまったひぃくんの顔。
(ごめんなさい……。来年からはちゃんとプレゼント用意するから……だからもう、許して下さい……っ)
ひぃくんに揺すられてガクガクと揺れる視界の中、私は何度も何度も繰り返し小さな声で「ごめんなさい」と謝り続けた。