テラーノベル
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第46話:登録者1000万人突破! ダイヤモンドの盾到着
ハリウッドのトップ女優、シャーロット・ヘイズバーグによる「特大の宣伝(レッドカーペットでの名指し)」から数日が経過した。
限界集落にある俺たちの古民家は、今日も変わらずシロの『適温25度の神聖結界』に守られ、のどかな秋の陽だまりに包まれていた。
しかし、スマートフォンの画面の中だけは、かつてないほどの異常事態に陥っていた。
「お兄さん……いきましたよ。ついに、いっちゃいましたよ……!」
縁側に座る小春ちゃんが、震える手でスマートフォンの画面を俺の目の前に突き出してくる。
そこに表示された【日常チャンネル】の登録者数のカウンターは、とうとう『10,000,000』という、天文学的な数字を叩き出していた。
「1000万人……。日本の人口の約1割か。もはやちょっとした国家規模の軍勢だな」
「ちょっとしたどころじゃないですよ! 個人勢の配信で、しかも限界集落の縁側から猫とキツネのお昼寝を流してるだけで1000万人なんて、世界記録ぶっちぎりです!」
小春ちゃんが興奮のあまり、持参した麦茶のグラスをガタガタと揺らしている。
そんな大騒ぎの縁側へ、村の砂利道を一台の黒い配達車両がゆっくりと近づいてきた。
「ん? またドバイの石油王さんから、純金の何かでも届いたのか?」
「いや、違います! あの車のロゴ……動画配信プラットフォームの公式マークですよ!」
屈強な配達員(おそらく専門のセキュリティ業者)が、重々しい漆黒のジュラルミンケースを両手で抱え、庭先までやってきた。
「『日常チャンネル』のアキヤ様ですね。プラットフォーム運営本部より、厳重警備での特別配達物です。受領印と、虹彩認証をお願いいたします」
「虹彩認証!? たかが荷物の受け取りに、どんな国家機密レベルのセキュリティかけてるんですか!?」
俺が言われるがままに謎のデバイスを覗き込んで手続きを済ませると、配達員は「1000万人突破、本当におめでとうございます」と深々と一礼し、逃げるように去っていった。
縁側に残された、鈍く光る漆黒のジュラルミンケース。
「開けるぞ、小春ちゃん」
「は、はいっ! 配信バッチリ回してます!」
カチャッ、と厳重なロックを外し、俺はケースの分厚い蓋をゆっくりと開けた。
――ピカァァァァァァァァァァッ!!!!
「うおっ!? 眩しっ!?」
「きゃあっ!!」
ケースの中から放たれたのは、シロの光学迷彩(テレビカメラ物理破壊ビーム)にも匹敵するほどの、強烈で暴力的な『虹色の輝き』だった。
ケースの中央に鎮座していたのは、動画プラットフォームの再生ボタンのロゴを象った、巨大で分厚いクリスタルの塊。
そう、チャンネル登録者1000万人を達成した世界トップクラスのクリエイターにのみ公式から贈られる伝説の証、『ダイヤモンドの盾(ダイヤモンド・クリエイター・アワード)』である。
『うおおおおおおおお!!!!!』
『ついに来たぞ! 伝説のダイヤモンドの盾!!』
『神獣の家にはこれくらい輝くものが相応しい!!』
ゆうき あきや
3,596
259
#心理描写重視
『(ドバイの石油王からの¥50,000MeTubeギフト)=”CONGRATULATIONS MASTER! BUT THAT DIAMOND IS TOO SMALL! I WILL SEND A REAL 100-CARAT DIAMOND TOMORROW!“(おめでとう主! だがそのダイヤは小さすぎる! 明日、本物の100カラットダイヤを送ろう!)』
『(スイスの銀行家からの¥50,000MeTubeギフト)=”10 MILLION! A historic moment! I am buying platform stock right now!“(1000万人! 歴史的瞬間だ! 今すぐプラットフォームの株を買うぞ!)』
250万人の同接視聴者たちから、滝のような高額の赤枠MeTubeギフトと、世界各国からの祝福のコメントが画面を埋め尽くす。
「すごい……! お兄さん、これ本物のダイヤモンドなんですか!?」
「いや、流石に本物のダイヤじゃないと思うが……それにしても、異常に重いなこれ」
俺はケースから『ダイヤモンドの盾』を両手で持ち上げようと、力を込めた。
「っ……!? 重っ! なんだこれ、中に鉛か劣化ウランでも詰まってんのか!?」
見た目は透き通るように美しいクリスタルだが、体感としてはボウリングの球を複数個同時に持ち上げているような、腰が砕けそうになるほどの異常な密度と重量感があった。
俺はたまらず、縁側の板張りの上に「ドスッ」と重々しい音を立てて盾を置いた。
『ミャウ?』
その強烈な輝きと物音に惹かれたのか、俺の足元で寝ていたシロがトコトコと近づいてきた。
その後ろから、キツネ兄弟も興味津々で『キュン?』と首を傾げながらついてくる。
シロは縁側に置かれたダイヤモンドの盾をクンクンと嗅ぎ、その冷んやりとしたクリスタルの表面に、純白の肉球をポンと乗せた。
――フワァァァァン……。
その瞬間。
ただでさえ眩しかったダイヤモンドの盾が、シロのマイナスイオンと共鳴し、まるで自ら呼吸の鼓動を打つように『真珠色のオーラ』を放ち始めたのだ。
「お、お兄さん! 盾が……ダイヤモンドの盾が、シロちゃんの力で進化してます!!」
「プラットフォーム公式からの表彰盾が、完全に神殿の『聖遺物』になっちまったな……」
シロは、冷たくてなめらかな盾の表面がいたく気に入ったらしい。
よいしょ、と重い腰を下ろして盾の上に丸まると、見事にクリスタルの輝きと同化し、究極の『光るもふもふオブジェ』と化してしまった。
『シロ様が盾を装備したwwww』
『ダイヤモンドの盾(シロ様のひんやりベッド)』
『世界で最も高価で神聖な猫用クールマットの誕生である』
『公式が贈った至高の宝が、ただの昼寝用座布団に成り下がるwww』
『さすが俺たちの主とシロ様だww価値観がブレないww』
視聴者たちが、公式の権威すらも「昼寝の道具」にしてしまう圧倒的な日常感に大爆笑している。
俺は、大きく一つ深呼吸をして、カメラに向かっていつもの『限界社畜のフラットボイス』で語りかけた。
「……皆さま、落ち着いてください」
『また始まったよ主の限界言い訳タイムww』
『さぁ、今日はどうやって現実逃避するんだww』
「このダイヤモンドの盾が異常に重く、さらに自発光しているように見えるのは、北海道の特異な地磁気と、クリスタルの屈折率が関係しています。ええ、ただの科学的な光のイリュージョンです」
「あるわけないじゃないですかぁぁぁ!!!」
小春ちゃんの全力のツッコミが、秋の十勝晴れの空に鋭く響き渡る。
「ただのアクリルがシロちゃんのオーラと共鳴して、完全に『聖なる防具』みたいに発光してるじゃないですか! 地磁気でそんな重くもなりませんし光りません!!」
『小春ちゃん、今日もキレキレのツッコミ助かるww』
『地磁気(神聖魔法)』
『光のイリュージョン(物理的に発光)』
『適応力バグおじさん、ついにプラットフォームの公式アイテムすら現実逃避の材料にする』
俺の苦しすぎる言い訳に、チャット欄は相変わらずの大爆笑に包まれた。
「まぁ、何にせよ、これで1000万人だ。これも全部、シロとキツネ兄弟、それに小春ちゃんと、画面の向こうの皆のおかげだな。ありがとう」
俺がふと、いつも通りの飾らないトーンで感謝を口にすると。
チャット欄は一瞬だけ静まり返り、すぐに、先ほどよりもさらに温かいコメントで溢れかえった。
『主……ズルいぞそういうの』
『こちらこそ、毎日最高の日常をありがとう』
『俺たちの命綱(チャンネル)を守ってくれてありがとう!』
『これからもずっと、縁側で昼寝しててくれ!』
「お兄さん……! 私、これからもずっとカメラマンがんばります!」
小春ちゃんが涙ぐみながら、最高の笑顔でサムズアップをする。
俺は、ダイヤモンドの盾の上で涼んでいるシロと、その横で丸くなるキツネ兄弟の頭を順番に優しく撫でた。
登録者が1000万人になろうが、ダイヤモンドの盾が届こうが、ハリウッド女優が来ようが。
俺が限界集落で手に入れた、この温かくてバグだらけのスローライフの軸は、決してブレることはない。
「さぁ、小春ちゃん。記念すべき1000万人突破のお祝いだ。今日の昼飯は、奮発してスーパーの特上寿司でも頼むか」
「わぁい! 私、サーモンとイクラがいっぱいのやつがいいです!」
世界中が熱狂し、莫大な富が飛び交うその裏で。
俺たちはいつも通り、平和で圧倒的にのんびりとした最高の午後を、この縁側でポカポカと過ごしていくのだった。
コメント
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寺島あおいです🕊️ 第46話、拝読しました。1000万人突破おめでとうございます……!っていう気持ちでいっぱいです。でも、そんな大記録の瞬間も、主人公さんのブレなさが最高でしたね。「地磁気とクリスタルの屈折率」でごまかそうとする姿に思わず笑っちゃいました。シロちゃんがダイヤモンドの盾をひんやりベッドにしてしまう光景、もう完全にこの作品の象徴みたいで好きです💎🐱 何より、「俺たちの軸は決してブレない」っていう最後の締めが、読んでるこっちまでほっこりしました。バグだらけでも温かい、その日常が本当に愛おしいです。まだ47話まで公開中とのこと、続きもじっくり読ませていただきますね。