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第47話:ダイヤの盾は、最高の「爪とぎ」
チャンネル登録者数1000万人突破の証として、公式から厳重なセキュリティと共に送り届けられた『ダイヤモンドの盾』。
それは今、我が家の縁側のど真ん中で、秋の陽光を反射して暴力的なまでの七色の輝きを放っていた。
「……何度見ても、目に悪い輝きだな」
俺はほうじ茶の湯呑みを片手に、その異常な存在感を放つ巨大なクリスタルの塊を眺めてため息をついた。
本来なら、専用のガラスケースにでも入れて家宝として飾るべき代物なのだろう。
だが、この限界集落の古民家において、そんな常識は通用しない。
「お兄さん、今日もシロちゃん、盾の上で気持ちよさそうに寝てますね!」
隣でジンバルを構える小春ちゃんが、ニコニコしながらカメラを向けている。
彼女の言う通り、純白の神猫・シロは、冷んやりとしたダイヤモンドの盾の表面がいたく気に入ったらしい。
盾を完全に自分の『専用ベッド』として認定し、その上で見事な香箱座りをしてスヤスヤと眠っていた。
世界で数十人しか持っていないであろう至高の栄誉が、ただの『高級ひんやりマット』に成り下がっている。
配信のチャット欄は、今日もそんな規格外の日常に大いに沸き立っていた。
『1000万人の結晶が、ただの座布団になってて草』
『シロ様が乗ることで、盾がさらに神々しく光ってるんだよなぁ』
『世界一高価な猫ベッドwww』
『(ドバイの石油王からの¥50,000MeTubeギフト)=”MASTER! THE SHIELD IS TOO HARD FOR SHIRO’S FLUFFY BODY! I WILL SEND A SILK CUSHION MADE OF GOLD THREADS!“(主よ! その盾はシロの柔らかい体には硬すぎる! 金糸で編んだシルクのクッションを送る!)』
相変わらずの石油王の過保護っぷりに苦笑していると。
『……ふぁぁぁ』
盾の上で丸くなっていたシロが、大きな欠伸をして目を覚ました。
そして、前足をグッと前に伸ばし、背中を弓なりに反らせて、気持ちよさそうに伸びをした。
「おっ、シロちゃん起きましたよ。おはよう、シロちゃん」
小春ちゃんが優しく声をかけると、シロは『ミャウ』と短く答え、盾の上からゆっくりと立ち上がった。
そして。
シロは、ダイヤモンドの盾の端の、もっとも分厚く、美しくカッティングされている部分に前足を乗せた。
シャキッ、と純白の肉球から、鋭い爪が飛び出す。
嫌な予感がした。
猫が寝起きに、自分の足元にある『ちょうどいい段差』や『硬いもの』に対して取る行動といえば、一つしかない。
「お、おい、シロ。まさかお前……」
俺が止める間も無く。
ガリィッ!! ガリガリガリガリッ!!!!
「――――えっ」
鼓膜を劈くような、硬質なものが削り取られる甲高い音が、静かな縁側に響き渡った。
シロが。あの神聖なるシロが。
モース硬度10を誇る地球上で最も硬い鉱物(あるいはそれに匹敵する超硬度の特殊クリスタル)で作られた『ダイヤモンドの盾』を。
無心で、ガリガリと『爪とぎ』にし始めたのだ。
「ひゃわああああああっ!? シ、シロちゃん!? それ、爪とぎじゃありませんよ!?」
小春ちゃんが悲鳴を上げて飛び上がった。
だが、シロは全く意に介さない。むしろ「これ、すごく研ぎ心地がいいわね」とでも言いたげに、さらにテンポを上げて前足を動かしていく。
ガリガリガリガリッ!! シャーッ! シャーッ!!
そして、俺は信じられないものを目撃した。
シロの爪が盾の表面を削るたびに、キラキラと輝く『粉末』が、宙を舞い始めたのだ。
「……う、嘘だろ」
俺は顔面から血の気が引くのを感じた。
削れている。あの、絶対に傷がつかないはずのダイヤモンドの盾が、猫の爪によって物理的にゴリゴリと削り取られているのだ。
宙を舞っているのは、削りカスとなった『ダイヤモンド・ダスト(物理)』である。
『!?!?!?!?』
『おいおいおいおいwwwwww』
『盾が削れてるゥゥゥゥッ!!』
『ダイヤより硬い猫の爪ってなんだよwwww』
『モース硬度10(笑)が、ただの爪とぎにwww』
『シロ様の爪、アダマンチウムか何かで出来てんのか!?』
『地球上の物理法則がまた一つ壊れた瞬間である』
配信のチャット欄は、このあまりにもシュールで規格外な光景に、驚愕と大爆笑の渦に巻き込まれた。
「お、お兄さん! 盾が! 1000万人の証が、ボロボロになっちゃいます!!」
小春ちゃんが涙目で俺の肩を揺さぶってくる。
俺は、ガタガタと震えそうになる膝を必死に抑え込み、大きく、深く息を吸い込んだ。
そして、カメラに向かって、元社畜の極意である『完璧なフラットボイス』で語りかけた。
「……皆さま、落ち着いてください」
『落ち着けるかああああああ!!!』
『主の限界言い訳タイム、キターーー!!!』
『さぁ、この絶対的物理法則の崩壊をどう説明する気だww』
俺は、削りカス(ダイヤの粉)を浴びながら、澄み切った顔で言い放った。
「皆さま、誤解されています。この盾は、本物のダイヤモンドなどではなく、海外製の安価なアクリル樹脂で作られたレプリカです。ええ、公式のコスト削減ですね」
俺はもっともらしい顔をして続ける。
「そして、今宙を舞っているキラキラした粉は、北海道の極度に乾燥した冷たい空気が引き起こした『静電気』によって、空気中のホコリが光を反射しているだけです。ただの自然現象ですよ」
「あるわけないじゃないですかぁぁぁ!!!」
小春ちゃんの、今日一番の鋭いツッコミ(物理)が俺の背中にクリーンヒットした。
「アクリルがこんなに重いわけないでしょ! それに、見てくださいよ! 盾の表面に、バッチリとえげつない深さの『爪痕』が刻まれてますよ!! ホコリどころか、ガッツリ削れてます!!」
小春ちゃんがカメラを盾にズームする。
そこには、美しいカッティングを無惨にも引き裂く、数本の深い溝(シロ様の爪痕)がクッキリと残されていた。
『小春ちゃん、ナイスカメラワークww』
『言い逃れ不可能な証拠映像ww』
『安価なアクリル(公式への熱い風評被害)』
『適応力バグおじさん、ついに公式の盾を安物呼ばわりして現実逃避する』
『静電気でホコリが光ってる(真顔)』
『主の言い訳が苦しすぎて腹痛いwww』
俺の必死の論理武装は、小春ちゃんの的確な証拠提示によって、またしても秒で粉砕された。
『キュン!』
その時、ずっと俺の足元で控えていたキタキツネ兄弟が、「親分(シロ)がやってるなら俺たちも!」とばかりに、盾に飛び乗った。
そして、シロの真似をして、盾の表面でシャカシャカと爪をとごうとしたのだ。
キーーーーッ!!
「キュゥゥン!?」
黒板を爪で引っ掻くような不快な音が鳴り、キツネ兄弟の爪は盾の表面を虚しく滑った。
キツネ兄弟は爪が痛かったのか、涙目で前足を抱え込み、俺の足元へと逃げ帰ってきた。
「ほ、ほら見ろ! キツネ兄弟の爪じゃ傷一つ付かない! やっぱりこの盾は硬いんだ!」
「お兄さん! それ、シロちゃんの爪が異常に鋭くて硬いっていう証明にしかなってませんから!!」
『キツネ兄弟が身をもってダイヤの硬さを証明してくれたww』
『シロ様だけが規格外なんだよww』
『キツネ兄弟かわいいww』
『(スイスの銀行家からの¥50,000MeTubeギフト)=”AMAZING! SHIRO’S CLAWS ARE A NEW SUPER MATERIAL! I WILL INVEST IN IT!“(素晴らしい! シロの爪は新時代の超素材だ! 投資するぞ!)』
『(ハリウッド女優シャーロットからの$500MeTubeギフト×2連発)=”Oh my God! Her manicure must be perfect!“(オーマイガー! 彼女のネイルケアは完璧ね!)』
世界中が、神獣の爪の硬度と、俺の苦しすぎる言い訳に大熱狂している。
ガリガリガリ……よし、こんなもんね。
『ミャウ♪』
シロは満足いくまでダイヤモンドの盾を削り取ると、誇らしげに喉を鳴らし、再び自分の定位置(俺の膝の上)へと飛び乗ってきた。
「……まぁ、本人が満足したなら、それでいいか」
俺は、表面がズタズタになった世界に一つだけの『ダイヤモンドの盾』を見つめ、静かに悟りを開いた。
「お兄さん、諦めが早すぎますよ……。でも、まぁ、シロちゃんがご機嫌なら、いっか」
小春ちゃんも、ボロボロになった盾を見て苦笑いしながら、シロの頭を撫でている。
こうして、1000万人という偉業の証は、我が家において『世界で最も高価で硬い、最高級の爪とぎ』として、新たな余生(?)を送ることになった。
どれだけ常識がぶっ壊れようと。
どれだけ物理法則が無視されようと。
俺たちの限界集落でのスローライフは、今日もただひたすらに、圧倒的なマイナスイオンと共にのんびりと続いていくのだった。
コメント
1件
あっははははは!!!第47話、めっちゃ笑ったわww 1000万人突破のダイヤの盾がまさかのシロちゃんの爪とぎにww しかもガチで削れてて、キラキラのダイヤモンドダスト舞ってるのヤバイw 主人公の「これは静電気でホコリが〜」って必死の言い訳がもうね、ツボりすぎたw 小春ちゃんのツッコミも毎回冴えてるし、キツネ兄弟が挑戦して滑るところも可愛くて好き! シロちゃんの爪、アダマンチウムかなんかでできてるんか…規格外すぎるw ゆうきあきやさんの日常回、最高の癒しと笑いをありがとうございます🙏
ゆうき あきや
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#心理描写重視