テラーノベル
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今、少しだけ魔法を使った。攻撃されても、傷を受けない魔法だ。ただし一度の攻撃だけ。二度目はない。 ギデオンにも使った。部屋を出る直前、ギデオンの手を掴んだ時だ。本当は皆にも使いたい。だけど三十人はいる騎士全員には無理だ。一人一人の手を握って回れば、怪しまれる。それにこの中に、ケリーのような人がいないとも限らない。リオが魔法が使えることに気づいて、利用しようとする者がいるかもしれない。
「出立だ!」
ギデオンの声に、リオは勢いよく顔を上げる。
馬に乗った討伐隊は、綺麗に隊列を作り、ギデオンとビクターを先頭に進み始める。
リオはまた、涙が出そうになって、唇を噛んだ。その時、ギデオンが微かにこちらを向いて笑った。困った顔で笑った。だからリオも、笑い返した。きっとすごく変な顔になっていたと思う。でも何とか笑って見送った。
皆の姿が森の奥に消えると、遠くの雪山に鎮座する魔獣を見る。相変わらず眠っているようだ。
ギデオン達は、魔獣が人的被害をもたらす前に、眠っている間に殺すと決めた。冬眠中に巣穴から出てきた魔獣が、再び巣穴に戻ることはない。目を覚ますと必ず暴れ出す。暴れさせてはいけない。
ひと月前の魔獣は、たまたま近くに居合わせた近隣の村人を殺した。討伐隊に大きな被害はなかったけれど、人を殺した。王は、国民を守らねばならない。領主は、領民を守らねばならない。当たり前のこと。そして今回の討伐には、ビクター率いる王都の騎士達が、|強弓《ごうきゅう》を持参している。五人がかりで引くような張りが強く大きな弓だ。それを、ビクターも王都の他の騎士達も、一人で引くらしい。威力も普通の弓の五倍だ。魔獣の硬い皮膚も射抜ける。もちろん、ビクターと同等の力を持つギデオンも引けるそうだ。
「絶対かっこいいじゃん」
ギデオンが強弓を引く姿を想像して、リオは胸を押さえる。最近はずっと、ギデオンのことばかり考える。考えては喜んだり苦しかったり。変すぎる。ギデオンのことは好きだけど、普通の好きと違うみたいだ。
リオは、もう一度雪山を見た。ギデオン達が到着する頃には日が暮れる。だから森を抜けた所で一泊する。夜に魔獣の所へ着けるが、一旦手前で止まるのだ。なぜか?魔獣は夜行性だ。もし目を覚まして攻撃されたら不利だからだ。明朝、空が白み始めると共に、攻撃を開始する。
攻撃は明日だけど、リオは眠れない夜を過ごすだろう。明日がどうなるのか、緊張して眠れないから。そもそも、ギデオンが隣にいないと、眠れない体質になってしまってるから。
リオが窓を閉めて振り向くと、アンが起きて足下にいた。
「おまえ、よく寝てたな。もう皆は行っちゃったよ」
「アン!」
一声鳴いて、アンがリオの足に身体をすり寄せる。リオが抱き上げると、リオの顔を舐めて、窓の外を見る。ひどく真剣な様子で、アンは雪山の魔獣を見ている。
「どうした?俺がいるから大丈夫だよ。それに皆が退治してくれる」
そう言ってリオがアンの頭を撫でるけど、アンは微動だにせずに魔獣を見ていた。
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