テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
スタジオでの練習の合間、その日はバンドの YouTube用の動画 を撮ることになっていた。
カメラをセットして、5人で並ぶ。
元貴がカメラを確認しながら言う。
「じゃあいくよー」
「おっけー」
綾香が軽く手を振る。
高野も落ち着いた様子で立っている。
涼ちゃんは、少し後ろでふわっと笑っていた。
「なんかこういうの緊張するね」
元貴が笑う。
「大丈夫だよ涼ちゃん」
カメラが回り始める。
「どうもー!」
元貴が元気に挨拶する。
「Mrs. GREEN APPLEです!」
綾香が続き、高野も軽く手を上げる。
涼ちゃんも少し前に出て言った。
「キーボードの涼ちゃんでーす」
その言い方に、元貴が笑う。
「自分で涼ちゃんって言うんだ」
「元貴が呼び始めたんじゃん」
スタジオの空気が少し和む。
でも。
その横で、若井は少しだけ距離を取って立っていた。
話には入るし、普通に笑う。
けれど。
涼ちゃんとは、あまり視線を合わせない。
動画の途中。
元貴が話を振る。
「じゃあさ、涼ちゃん」
「ん?」
「最近どう?」
涼ちゃんが少し考えてから言う。
「楽しいよ。なんか、こういうの初めてだし」
その言葉に、綾香が笑う。
「いつも楽しそうだもんね」
「うん」
涼ちゃんは本当に楽しそうに笑っていた。
その横で、若井はギターを持ちながら少し下を見ていた。
ふと、カメラ越しに視線を上げる。
その瞬間。
涼ちゃんと目が合いそうになった。
でも。
若井はすぐに目を逸らした。
まるで何もなかったみたいに。
涼ちゃんは一瞬だけその様子を見たけれど、
何も言わず、また元貴の話を聞いていた。
動画の撮影はそのまま続く。
笑い声もあるし、
空気も悪くない。
それでも。
若井は、最後まで。
一度も涼ちゃんと目を合わせなかった。
スタジオのライトの下で、
涼ちゃんはいつも通り、ふわっと笑っていた。