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YouTubeの撮影が終わったあと。
カメラを片付けながら、スタジオの空気は少しだけゆるくなっていた。
元貴は機材を触りながら話しているし、
綾香は高野とさっきの動画の話をしている。
涼ちゃんはキーボードの前で、さっき弾いていた音をもう一回試していた。
ぽろん、と柔らかい音が鳴る。
「元貴ー」
涼ちゃんが軽く呼ぶ。
「んー?」
「さっきのサビさ、こっちの音の方がよくない?」
元貴が近づいてくる。
「どれどれ」
その横で、若井はギターケースを閉めていた。
ちらっと二人を見る。
「元貴」
若井が呼ぶ。
「ん?」
「それ今やんなくてもよくない?」
少し冷たい声だった。
元貴は「あー…」と少し困った顔をする。
でも涼ちゃんは特に気にした様子もなく、
「まぁ後でもいいけど、、」
と、ふわっと笑ってキーボードから手を離した。
若井はそのまま言う。
「てかさ」
涼ちゃんの方を見ずに続けた。
「その音、別に普通じゃない?」
空気が少し止まる。
綾香が一瞬だけ顔を上げた。
涼ちゃんは、ほんの少しだけ手を止めた。
でもすぐにまた笑った。
「そう?」
「うん」
若井は短く言う。
「なんか、わざと変えてる感じ」
言い方が、少しきつい。
元貴が小さく「まぁまぁ」と笑って流そうとする。
涼ちゃんは「そっか」とだけ言った。
それ以上、何も言わなかった。
――その日の帰り道。
涼ちゃんは一人で歩いていた。
夜の空気が少し冷たい。
(若井、俺のこと嫌いなんかな)
ふと、そんなことを思う。
最初に会った日から、なんとなく分かっていた。
視線を合わせないことも。
話すとき、少し声が強いことも。
別に、怒ってるわけじゃない。
ただ、どこか。
距離がある。
(まぁ、しょうがないか)
涼ちゃんは小さく笑った。
(急に入ったし)
(変な服着てるし)
(そりゃ警戒もするよな)
そう思いながら空を見る。
スタジオで弾いていた音が、まだ頭の中に残っていた。
(でも)
少しだけ、胸の奥が静かに痛む。
涼ちゃんは基本、誰にでも優しくする。
それは特別なことじゃなくて、
ただ普通にそうしているだけ。
でも。
若井だけは、なかなか距離が縮まらない。
(まぁいいや)
涼ちゃんは肩をすくめる。
(そのうち仲良くなるでしょ)
そう思って、また歩き出す。
その頃スタジオでは、
若井が一人でギターを鳴らしていた。
涼ちゃんがさっき弾いていたメロディを、
少しだけ思い出しながら。
でも。
若井はまだ気づいていなかった。
自分が思っているよりも、ずっと。
涼ちゃんの音を気にしていることに。