テラーノベル
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放課後、
いつものように俺は清掃員になる。
時給1230円だけど、ショッピングモールで行き交う人たちを見るのが好きで入学してから2年も続けているアルバイト、それが清掃。
なにが楽しいのか。別に楽しくない。
先述したとおり行き交う人たちを見るのが好きなのだ。
高校はなんかこう、疲れる。
周りに合わせなきゃいけない空気が耐えられないかなって思うんだ。
でもショッピングモールは違う、ここにはそんな高校生だけじゃなくて色んな人がいる。
だから面白い。清掃員になるのを辞めたくないなって思えるんだ。
今日はどんな人がいるんだろう。
胸をふくらませて俺「羽丘玲央」はモップを片手に館内を歩く。
歩く。
歩いて着いたのは、人気のないトイレ前の廊下だった。
血なまぐさい。
「……え?」
俺は思わず、手で鼻を覆った。なに?この臭い。
その臭いは女性トイレから漂っていた。
咄嗟に走って入ったら、そこにはナイフが背中に突き刺さった女性が倒れていた。
「………………………………ッ!?!」
其れは声にならない叫び声だった。
倒れている女性のすぐ前には、制服を着ている女が立っていた。
血しぶきを浴びていて、その顔を鏡越しに見ては、手を洗っている。
「何を、し、てるんですか……?」
恐る恐る聞いた。
そしたら手を洗っている女は、蛇口の水を止めずに言葉を発した。
「うん、何をしちゃってるんだろうね。」
その女の声は、震えているようで、でも変に冷静で、おかしかった。
おかしいという言葉しか、見当たらなかった。
「いいから片付けてくれない?やってしまったものはしょうがないでしょう?」
女は俺の顔を見てそう提案した。
そうするべきなのだろうか、絶対しちゃいけないと思う。
「何を言ってるんだよ、まずは警察に通報だろ。この遺体の身元を調べたりするだろうから、下手に清掃できねーよ!」
「は?私を逮捕させるつもり?」
「当たり前だろ……!」
俺は当たり前なことを当たり前だと思って当たり前に言っただけだ。それまでだ。
なんでそんな怒った目つきをしてるんだこの女は。
俺は黙って携帯をポケットから取り出して、二進数なる三桁の番号を打ち込もうとした。
が、その手は止まった。
「……はぁ、良かった。」
女は安心したように息を吐いた。
なぜ出来なかったのか。
なぜ通報できなかったのか。
それはきっと自分の中で明白だった。
そして俺は黙ってモップを手に取って、血を、拭き取る作業に移った。
黙って、床の赤を剥がしてゆく。
「……お前、俺が来ることが分かってて殺したのか?」
「うん、私このショッピングモールよく来るんだ。 家嫌いだからねー。」
「俺なら通報されないって思ったの?」
「どうだろ、絶対させないし清掃させるつもりだったから知らないよ。」
「はぁーん……」
こっちはゴシゴシと吹いているのに女はスマホを見ながら個室のトイレで胡座をかいている。
女性トイレの入口に清掃用の看板を立てているから、人が入ってくることはない。
「お前、殺した自覚あるの?」
「…………」
女は黙り込む。そして黙り込まなくなる。
「初めてだから分かんない。 でも分かんなくなっちゃったんだよね。なんで命に価値があるのか、あの家にいたら。」
「…………」
どうして俺は、通報できないんだろう。
清掃を完璧に終わらせたあと、遺体を個室に詰め込んで、俺たちは逃げるようにショッピングモールをあとにした。
7
#ペンタスは加減を知らない
胡 蝶 の 夢
26
2,795
#ドラマ
星キラリ

512
次の日。
俺は変わらず高校で高校生らしく高校の授業を受けて高校の制服で下校する。
そのままショッピングモールに行って、いつも通り清掃員になる。
でも妙に手汗が止まらない。
そう、遺体だ。
あれからなんの連絡も来ていないけれど、バレていないだろうか。
昨夜ショッピングモールで解散した女は、無事なのだろうか。
そんなことを考えては、手汗が止まらなくなっている。
トイレの清掃を行う。
女性トイレを見るのは怖くて、先に男性トイレに入ろうとした。
「安心しなよ、遺体のことなら。」
「……お前、、!」
廊下にしゃがみこんで座っていたのは昨日の女。
「お前呼びやめて。レオって呼んで」
は?
「俺と同じ名前、、」
「何それふざけてる場合?」
「まぁいいや、安心とかできねーだろ」
「できるんだってそれが。あのあと私ショッピングモールに戻って遺体を川に捨てたから。」
「バレるのも時間の問題だろ、……はぁ。普通にお前はいつか捕まるよ。残念でした。」
「酷いこと言うね玲央くん。
殺したくて殺したわけじゃないんだよ」
「よくある犯人の言い訳だ。」
「でも犯人って、多分みんなそうなんだと思う。」
「……え?」
レオは立ち上がって、俺の顔を見た。
「人の命の価値が分からなくなって傷つけても良いものだと思えるようになってしまう。きっと全部そうだよ。だって価値があるはずだもん、それを、見失ってしまえた。」
……。
俺には言っている意味がよく分からなかった。
でも分かりたかった。
「……明日、10時に1階のカフェに来てくれないか?」
「なんで?」
「普通に、もう少しお前のこと知りたい。」
なんでか、はじめて自分に素直になれた気がした。
レオはゆっくりと頷いて、少しだけ微笑んでくれた。
翌日のカフェ。
学校は全然平日だからあるけれど、シフトの時間も考えると夕方に集まることはできない。
午前中じゃないと。
「なんで土日を待てなかったの? 学校いいの?」
「気にすんな、てかそれを言うならお前だって」
二人はカフェの端の席に座って、いちばん安いブレンドを飲む。
平日の午前中に制服の男女がカフェにいる光景に周りは少しざわついている。
「高校行かせてもらえてないよ。
これはねー、体売って稼いだお金で買った制服なの。」
「…………」
返す言葉が見当たらなくて黙った。
体を売るとか、簡単に、、、。
「なんでか、聞いていいんだよな?」
「うん、私家に帰ったら毎日殴られるの。 お父さんがちょっとヤンチャでね。
そのせいでお金ぜんぜん無くて、お母さんストレスで沢山食べるようになって、それでもっとお金無くて。」
「……」
「夜にだから稼いでる。今日もその帰りだよ。」
「それで命の価値が分からなくなったと?」
「まぁねー、でもこうなりたくなかったよ。私だって出来るなら、君みたいに、学校とか、バイトとかさ、」
「……」
俺に、憧れているのか?
なんで、
「そんな羨ましがられるもの持ってないよ。高校もべつに面白くない。」
「いやでも私は……っ」
ぷるるるるるるるるるるるるるるるる
「…………」
「…………」
レオの声を遮るように鳴る着信音。
「ごめん父さんからだ。すぐ帰らないと。 」
「……っき、気をつけて、」
必死に出た声で放ったその言葉。
あとから何度も反省した。
気をつけるって、何を?気をつけるも何もなくないか?
肝心な時に頭が回らなくて困る。
だけど、
なんて言って欲しかったんだろう?
なにが正解だったのだろう。
きっと正解なんか、俺は君のことを知らないから、どこにもないのだろうけど。
翌日の学校。
金曜日だから、明日で土日だ。
またショッピングモールにアイツがいるなら、土日はどこかに誘いたい。
今も殴られているのなら、その傷を癒してあげたい。
そんなことを考えながら登校したら、みんなが俺を一斉に見た。
…………なに?
「おい玲央、お前あのショッピングモールで働いてんだろ? 大丈夫なのかよ」
え?なにが?
「だって殺人事件あったんだろ!?
川で流された遺体、トイレ前の監視カメラで映ってたんだって!」
ドクン
心臓の音がやけにうるさく響いた。
監視カメラ、そうだ。監視カメラ忘れていた。
じゃあ疑われるのは俺とアイツじゃないか。
アイツは、
アイツが、
じゃあアイツ捕まっちゃうじゃん。
なんとかしないとって思ってしまうのは、おかしいのだろうか。
でも……っ
だっ!!!
俺はそのまま走り出した。
ショッピングモール。
レオはいつもの女子高生ならぬ制服を着ながら、ガチャガチャをしていた。
体を汚したお金で回すガチャガチャは、虚無でしかないものなのだった。
回す手を、横から大人に掴まれた。
「……え?」
大量の警察が一斉にレオを囲う。
「西田怜央さんですか?殺人の疑いがあるので、署までご同行願えませんかね。」
レオは青ざめる。
掴まれた手は、動かせない。
「ぎゃあああああー!!!」
その時、ショッピングモールと同じフロアで、だれかの悲鳴が鳴り響いた。
レオはすぐに振り向くと、男性客がナイフで刺されて殺されていた。
そしてそのまま、そのナイフは子供、老婆、つぎつぎと刺しては血しぶきをあげてゆく。
「玲央くん、何してんの……?」
そう、刺しているのは玲央。
あの日遺体を個室に詰め込んでから、凶器として使われていたナイフを玲央はずっと持っていた。
「なんだアイツ……っ、急いで捕まえろ!!」
警察が玲央の方にも押し寄せる。
「それでいい……」
「……!?」
玲央はナイフを持って、そのまま呟いた。
レオはただ不思議そうに困惑して玲央を見る。
なにがそれでいいのか。
「……俺が全部やったんです。彼女は何もしていない……!俺が人殺しなんだよ……!」
目から涙が溢れながらも、玲央は少し微笑みながら、そう叫んだ。
警察たちは困惑しながら、玲央に疑問をぶつけた。
証拠とか、アリバイとか、動機とか、そういう話。
だけど、そんなの安易に越えられる。
「……俺が女を殺して、トイレを清掃した。それで川に捨てた。
だけど罪を擦り付けたくて、トイレで俺の犯行を一部始終みていた女子高校生に、遺体を回収させて、一緒に川に捨てさせたんです。脅迫をしたんです。」
そんな一文で、玲央に殺人の容疑がかけられた。乗り移った。
その事件はやがて大きく報道された。
レオは制服のまま、刑務所の面談室へ行く。
ガラス張り越しに、やつれた顔の玲央を見る。
「…………どうして、あんなことをしたの?」
震えながらも、レオはスカートを握りしめて、聞いた。
玲央は、しばらく黙り込んだあとに、言った。
「お前は異常だよ。やっぱり普通じゃない、もう生まれながら全部普通じゃないから、憧れるのも無理ないと思う」
「だけど」
「俺も、その異常の中にいたいって思った。」
「それでお前が普通になれるかもしれないなら、そうしたいって、思っちゃったんだよ…………っ」
玲央はそのまま悔しそうに、歯を食いしばる。
涙もなにも流さない。
ただの独白。
怜央はガラスに触れる。
苦しそうな玲央に声をかける。
「………………それで、いいの?」
「うん、でも、これが良かったのかもしれないから」
悔しそうだけど、またそれは笑顔だと、思った。
ゆるやかに変わったし、その悔しさは嬉しさだったのかもしれない。
そして玲央は、黙って面談室をあとにした。
バタン。
ー悪戯のレオー おわり
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