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さぶれ-SABURE-
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K-Takasaka
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黒い生物が地面を蹴った。
四角い足が土を砕き、こちらへ一直線に迫ってくる。
「全員、下がれ!」
K-Tの声が飛ぶ。
メバルは反射的に後退した。足がもつれ、尻もちをつきそうになる。
「メバル!」
カキが腕をつかんで支えた。
「だ、大丈夫。でも、あれ何? あんなの説明書に載ってた?」
「載っていない」
アオノが冷静に答える。
「少なくとも、初期地点に敵が出現する仕様ではありません」
「じゃあ仕様外ってこと?」
「その可能性が高いです」
「可能性が高いって、全然安心できないんだけど!」
カキの声から、いつもの軽さが消えた。
生物が跳びかかる。
K-Tは横へ移動し、攻撃をかわした。黒い爪が空を切り、地面に深い傷をつける。
「Kさん!」
メバルが叫ぶ。
「近づくな!」
K-Tは生物の動きを観察しながら、周囲を見回した。
足元には木材のような四角い素材、石、土。ゲーム内の道具を作るための材料が散らばっている。
K-Tは木材を拾い上げた。
すると、視界の端に半透明の画面が浮かんだ。
クラフト可能
K-Tは画面を指で操作する。
木材が光の粒になり、手の中で形を変えた。
現れたのは、短い棒状の武器だった。
「クラフトできるのか!」
カキが驚く。
K-Tは棒を握り直すと、生物の攻撃を受け止めた。
鈍い衝撃音が響く。
棒がわずかにしなったが、折れない。
「すごい……」
メバルがつぶやいた。
「その武器、Kさん専用?」
「違う。材料があれば作れる」
K-Tは生物を押し返し、地面を転がった石を拾う。
続けてクラフト画面を操作すると、棒の先端に金属のような部品が組み合わさった。
生まれたのは、両手で扱うトンファーだった。
「それ、どうやって使うの?」
メバルが聞く。
「こうだ」
K-Tは短く答えた。
生物が再び突進してくる。
トンファーの側面で爪を受け流し、相手の勢いを利用して横へ弾き飛ばす。生物は地面を何度も転がり、土の壁に衝突した。
「わ、強い……」
カキが目を丸くする。
「Kさん、ゲーム慣れてる?」
「慣れていない」
K-Tは生物から目を離さなかった。
敵は起き上がり、四角い頭部をこちらへ向ける。
マサカゲが周囲を確認した。
「このままでは危険だ。拠点を確保する。アオノ、簡易的な壁を作れるか」
「可能です。カキ、木材を集めてください。ミステーは石を」
ミステーは石を一つ拾い上げた。
「石を集めると、石が増える」
「必要な数だけ集めろ」
マサカゲが言う。
「必要な数とは?」
「まず二十個」
「二十個集めると、二十個になる」
「そう言っている」
「分かった」
ミステーは淡々と石を拾い始めた。
カキも木を叩き始める。拳が木に触れるたび、四角い木片が落ちていく。
「これ、素手で木を壊せるんだな!」
「手を痛めない?」
メバルが心配そうに尋ねる。
「痛くはないけど、変な感覚だな。現実なら絶対ケガするよ」
「それなら無理しないでね」
「メバルって、ゲームの中でも救護係なんだな」
「だって、みんなが心配だから」
メバルはそう言って、集めた草を手に取った。
半透明のクラフト画面が開く。
草、布、木材。
組み合わせを変えると、包帯のアイコンが表示された。
「これ、作れるみたい」
メバルは包帯を作り、仲間へ配った。
「マサカゲ、これ持ってて。カキも。ミステーは……」
「私は包帯を巻く場所がない」
ミステーが真顔で言った。
「あるよ。ケガしたら使ってね」
「分かった。ケガをしたら、ケガをする」
「うん……そうだね」
メバルが困ったように笑う。
そのとき、生物が再び動いた。
K-Tがトンファーを構える。
しかし、敵の姿が一瞬で消えた。
「消えた?」
カキが辺りを見回す。
「違う。地面の中だ」
マサカゲが指摘した。
土の下から、黒い影が跳ね上がる。
K-Tはメバルの前に立ち、トンファーで爪を受け止めた。
衝撃で、K-Tの体が半歩下がる。
「Kさん!」
メバルが叫んだ。
K-Tは反撃せず、生物を押し返してからメバルの肩をつかんだ。
「奥へ移動しろ」
「でも、Kさんが!」
「避難を優先する」
K-Tは敵を引きつけながら、全員を作りかけの壁の内側へ誘導した。
カキが木材を積み、アオノが土のブロックを組み上げる。
マサカゲが指示を出す。
「壁を高くしろ! 入口は一か所だけ残す!」
「了解!」
カキが答えた。
ミステーは、壁の外側に石を並べている。
「ミステー、何をしている?」
「石の道」
「道は必要ない」
「敵が迷うかもしれない」
マサカゲは数秒黙った。
「……そのまま続けろ」
その直後、敵が壁へ突進した。
土の壁が大きく揺れる。
アオノが手を伸ばし、壁の一部へ赤い線のような部品を取り付けた。
「仮設回路を接続します」
「今それをやるのか?」
「今しかありません」
回路が赤く光り、壁の一部が勢いよく開いた。
敵がそこへ突っ込む。
「閉じて!」
メバルが叫ぶ。
アオノが操作すると、壁が再び閉じた。
敵は土壁に挟まれ、動きを止める。
K-Tがその隙にトンファーを振り下ろした。
生物は黒い粒子になって消えた。
静寂が戻る。
カキが息を吐いた。
「……倒した?」
「消滅を確認」
アオノが答える。
メバルはK-Tの腕を見た。
トンファーで受け止めたとき、袖が裂けている。
「Kさん、腕を見せて」
「問題ない」
「問題あるよ。血が出てる」
メバルはすぐに包帯を取り出した。
K-Tが差し出された包帯を見る。
「これは?」
「私が作ったの。巻くから、じっとしてて」
K-Tは黙って腕を差し出した。
しかし、そのときK-Tのトンファーが真っ二つに折れた。
「あっ」
「Kさん、無理しちゃだめだよ」
メバルは傷口を確認し、丁寧に包帯を巻く。
その間、マサカゲが消えた敵の跡を調べていた。
「妙だな」
「何が?」
カキが尋ねる。
「敵を倒したのに、経験値や素材が表示されない。通常の戦闘処理ではない可能性がある」
アオノも地面に残った黒い粒子を観察する。
「こちらの存在を検知して、ゲーム側が後から敵を生成したように見えます」
ミステーが壁の端を見つめる。
「ゲームが、私たちを食べようとした」
「食べてはいない」
「まだ」
メバルの手が止まった。
「まだって言わないでよ」
外はすでに暗くなっていた。
アオノが作った松明に火をつける。明かりが小さな拠点を照らした。
六人は壁の内側に集まった。
「一度ログアウトする」
マサカゲが言った。
「ログアウトボタンを探す。戻れれば、機器を停止して原因を調べる」
アオノが空中に操作画面を表示する。
「メニューを開きます」
画面にいくつかの項目が表示された。
所持品
クラフト
設定
ゲーム終了
「ゲーム終了を選択すればいいんじゃない?」
カキが指を伸ばした。
「待て」
マサカゲが止める。
「まず設定を確認する」
アオノが設定画面を開く。
音量、視点、操作方法、表示設定。
しかし、ログアウトに関する項目がない。
「ゲーム終了は?」
ミステーが尋ねる。
「それを確認します」
アオノが選択した。
画面が一度暗くなり、白い文字が浮かぶ。
ゲームを終了しますか?
はい / いいえ
「はいを選んで」
メバルが言った。
アオノが「はい」を押す。
画面が消えた。
一秒。
二秒。
三秒。
何も起きない。
「……戻らない」
カキがつぶやいた。
「もう一度」
アオノが操作する。
今度は警告文が表示された。
現在、外部接続が確認できません。
ゲームを終了するには、帰還条件を満たしてください。
全員が画面を見つめた。
「帰還条件?」
マサカゲの声が低くなる。
「条件の詳細は表示されません」
アオノが画面を閉じる。
「外部接続を試します」
彼女は設定を変更し、接続端子へ手を伸ばした。
反応はない。
「通信が切断されています」
「切断って、どういうこと?」
メバルの顔から血の気が引いた。
「私たち、戻れないの?」
「現時点では、その可能性が高い」
アオノは淡々と答えた。
カキが壁を振り返る。
「でも、ゴーグルを外せばいいんだろ?」
「外せません」
アオノの返答は早かった。
「物理的なゴーグルは装着前の状態で固定されています。こちらで外しても、ゲーム内の視界は維持されます」
「じゃあ、誰かに外してもらえば?」
「外部との接続がないため、誰も操作できません」
メバルは自分の頭に触れた。
触った感覚はある。
だが、そこにゴーグルはない。
「ねえ、Kさん……」
K-Tは返事をせず、ガラケーを取り出した。
折りたたみを開き、画面を確認する。
圏外。
彼はアンテナを伸ばした。
それでも表示は変わらない。
「連絡はできない」
「Kさんの端末でも無理なの?」
カキが聞く。
「外部回線につながっていない」
マサカゲが立ち上がった。
「つまり、我々はこの世界に閉じ込められた」
その言葉が、薄暗い拠点の中に落ちた。
誰もすぐには返事をしなかった。
やがて、ミステーが静かに口を開く。
「帰れないなら、ここに住む」
「簡単に言うな」
マサカゲが厳しく言う。
「食料も安全も保証されていない」
「では、帰る」
「その方法が分からない」
「見つける」
ミステーは真顔のまま、壁の外を見た。
「出口は、たぶん地下にある」
「根拠は?」
「敵が地下から来た」
マサカゲは沈黙した。
アオノが頷く。
「可能性はあります。帰還条件がゲーム内の探索や討伐に関係しているなら、地下施設や特殊構造物が鍵かもしれません」
カキが拳を握った。
「じゃあ、洞窟を探そう。鉱石も必要だし、出口も見つかるかもしれない」
メバルは不安そうにみんなを見た。
「本当に、帰れるよね?」
K-Tがガラケーを閉じた。
「帰る」
短い言葉だった。
しかし、その声には迷いがなかった。
「出口を探す。全員で」
メバルは小さく息を吐き、うなずいた。
「うん。私も頑張る」
K-Tはクラフト画面を開いた。
木材と石を組み合わせる。
トンファーの隣に、新しい武器の設計図が表示された。
警棒
さらに金属素材を追加すると、別の項目が浮かび上がる。
拳銃
K-Tは拳銃を作成した。
金属の塊が光に包まれ、手の中に銃が現れる。
メバルが驚いて目を見開いた。
「Kさん、それ……銃?」
「そうだ」
「使うの?」
K-Tは銃を確認し、弾倉を装填した。
「必要なときだけ」
「危ないから、気をつけてね」
「分かっている」
K-Tは銃を腰に収めた。
その隣で、メバルが草と薬草を組み合わせている。
新しいアイコンが表示された。
ポーション
さらに、細長い筒状の道具も作成可能になった。
麻酔銃
メバルは首をかしげた。
「これ、何に使うの?」
K-Tが画面を見た。
「敵を一時的に眠らせる道具だ」
「じゃあ、これなら私でも使えるかな」
K-Tは麻酔銃を作成し、メバルへ渡した。
「撃つなら、相手の動きを止めるためだけに使え」
「うん、分かった」
メバルは両手で麻酔銃を受け取った。
その瞬間、彼女の表情が少し変わった。
さっきまでの不安そうな顔が消え、銃口を静かに見つめている。
「……これなら、みんなを守れる」
「メバル?」
カキが声をかける。
メバルは銃を持ったまま、ゆっくり振り返った。
「カキ、そこから動かないで。マサカゲ、入口を確認して。アオノは照明を増やして。ミステーは勝手に外へ出ない」
「急に指示する側になった?」
カキが目を丸くする。
メバルは麻酔銃を構え、拠点の入口を見た。
「敵が来たら、私が止める」
K-Tが彼女を見た。
「無理はするな」
「無理じゃないよ」
メバルはまっすぐ前を向いた。
「怖いけど、みんなを傷つけさせない」
外の暗闇で、何かが鳴いた。
今度は一匹ではない。
複数の足音が、拠点を囲み始めていた。
コメント
1件
K-Tさんのトンファー生成、めちゃくちゃかっこよかったです!クラフトシステムがその場で武器を作れるって、ゲーム好きにはたまらない展開ですね。そしてメバルちゃんが麻酔銃を持った瞬間の「これならみんなを守れる」…あの台詞、グッときました。不安そうな子が急に覚悟を決める感じ、すごく好きです。複数の足音が囲んでくるラスト、続きが気になります!🌷