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ロボットに通り間際に見られながら廊下を進む
足の痛みを感じながら,階段を下り…玄関へと辿り着く
相変わらずの門のような扉をこじ開け…外へと出ようとした時,後ろから声を掛けられた
「みっともない姿でどこへ行くつもりです?」
階段の手すりに体を預けながら,包帯の巻かれた腕で腕を組むあの男…
「……次は殺す…」
睨みつける女の顔とは裏腹に,男の方は満足そうに出ていく姿を見つめていた
暗殺ターゲットとナイト
__遡ること昨夜の事
振り下げたナイフ……それは男の腕を…掠りもせずにベランダに突き刺した
「おやおや…怖気付きでもしたのでしょうか?…」
奥歯をギリギリ噛みながら、突き刺さったナイフを取ろうともせず、男から離れる
男が立ち上がっても尚反撃の一つも見せない
「……今更殺さないつもりですか?」
「……」
「全く…人の死を遊びだと思ってるお年頃なのでしょうね……殺しのひとつも出来ないのなら…貴方は用済み,ガッカリです」
男が破片を拾い上げ、すぐ側まで近寄ると、顎を軽く持ち上げ確実に仕留めるために喉に破片を押し当てる
「最後に聞きましょうか…何故殺すのを辞めたのです?」
「…………亡くした…自分の母親を…」
まるで脱力しきった声でそう呟く
その瞬間、首元の破片を持つ手が震えるのを感じた
「…くそッ!ここまで来て同情する気なんて…!!」
金色の目がじっとこちらを見つめる
顔が歪んでるのは…何故…?
「sumoさえ…無ければ…私の両親は今でも…」
まだまだ幼い頃に…母親が笑顔で自分を撫でてくれた姿が…目に浮かぶ
その横に…たまにしか会えない父親が笑わせようと変顔をしてきたのも懐かしい…
暖かい両親の姿がやがて消え、現実に戻される
今までずっと無理していたのだ…いくら体を休ませたからと言っても,もう限界を迎えていたのは変わりない
「母親の元へ行けるなら………いっそ殺せ…人の死を遊びと思ってない大人なお前なら出来るんだろう?」
「……」
「……俺は…出来ない…」
フッ……と離れ、破片が床へ落ちる
「……そうか」
ガクッと力無く体がバランスを崩す
月が綺麗だ…目の前にターゲットが居る…暗殺しなければならないのに…何故こんなにも無防備を晒しているのだろう
「私はどうしたらいい……」
腕で目を押え、絞り出すような声でそう言うが…返事は帰って来ない
男は何か言いかけて居るように伺えるが,何も言わず立ち尽くしたままだ
するとその時__
したから狼の声が聞こえた
入った時から開けっ放しの門から狼が侵入し、壁を伝いこちらへ来ようとしていた
普通の壁なら登れるわけは無いが…この屋敷の壁は蔦が生い茂っている…獣なんて簡単に登ってこれるだろう
「……ッ…血の匂いに…奴らが反応したんだ」
「ハッ…まるで彼らにとってご馳走ですね」
体制を整え直すと、迫り来る狼から身を下げる
が、男の方は動こうともしない
「……っ…ご馳走にでもなってあげる気か?…」
「現に彼らが反応してるのは俺の血ですから」
破片を持つ際に流していた腕の血を…狼が嗅ぎつけたのは事実だ
「彼らに聞いてみましょうか…と言っても、食われれば聞けるのはお前くらいですが」
「何言ってやがる…」
「元々勝負はお前の勝ち…なのだから良いでは無いですか」
白衣を脱ぎ、そこらに投げ捨てる
「……ッ何するつもりだ…」
「……お前の両親を殺したのは…私も原因ですから_」
女の顔が一気に怒りに変わる
それを確認すると、男は静かにベランダの外へ、身を投げ出した
落ちていく男の様子を、狼が捉え匂いに釣られるように次々と地面へと走っていく
生い茂った草に男が落ちると、狼が一斉に集まってくる
「やれやれ…そんなに美味しそうですか?」
プチプチ……と首元のボタンを外し狼の前まで歩み寄る
「獲物は逃げませんよ…さぁ存分に喰らいなさい」
合図とともに狼が男の元へ走る
1匹が男の腕に噛みつくと、感じたことも無い痛みが全身を走った
「グ…ッ!!」
2匹目……と噛み付こうとした
その時
飛んで来た銃弾が狼を貫いた
「……」
視線を向けると、歩きながら、リロードをし、次々と狼を撃ち抜く女の姿が合った
愛用のライフルを片手に2階から落ちてきた女は,足首に痛みを感じながらも顔色ひとつも変えずに獲物を次々射止める
狼が女の元へと走っていく
およそ3匹ほどだったが…ポケットに忍ばせた拳銃を取りだし、2発ずつ食らわすとその場に次々と倒れ込んだ
やがて、狼は怯みながら数匹、逃げるように屋敷の敷地内から出ていき、森へと帰って行った
敵が居なくなったのを確認し、ライフルを背中に背負い、拳銃の弾を詰め直して、ポケットにしまう
男が歩いてくるのを感じるも、何も返答を返さずそのまま無言で屋敷へと入っていく
「____」
男が何か言っていたのを片耳で受け流し、そのまま部屋へと戻って行った
____時は戻り___
屋敷の外では、狼の処理をしていた
燃やし、骨だけにし土に埋めるという作業をするのは、後始末をする者が居ないため自分でするしかないからだ
やがて、作業は埋める作業になり…隅に埋め小さく手を合わせる
「……ごめんなさい…これも生きる為…」
屋敷にゆっくり戻ると…食堂へと足を運ばせた
キッチンでは、ご飯を作っているロボットたちは入ってくる女の姿にキョトンとしながら見つめてくる
「おい……今日の飯は?」
「ば、バケットにバターと…牛乳…後暖かいスープでございます!」
「…あーそう」
軽く上機嫌に胸を弾ませていると、思いもよらぬ提案をロボットから告げられた
「…よ、良ければ食堂でお召し上がりください!先生もいらっしゃいますが……」
「誰が食うか!!飯が不味くなる!!」
キッチンの扉の隅の方に…中での話を無言で聞きながら様子を見ている男の姿が映った
「ナイトには十分過ぎる人材だ」
電源の切れた無線機を握りながら男は表情一つ変えずに,呟いた