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⚠️オリキャラ⚠️
伊黒side
『……て…な…………!!』
大量出血をしているのにもかかわらず治療を受けようとしない友を連れて蝶屋敷へ訪れると、何やら揉めている。
伊黒『何事だ?胡蝶』
胡蝶『嗚呼、伊黒さんに不死川さん』
胡蝶に声をかけると
いつも通りの貼り付けられたような笑顔が少し引き攣っている。
胡蝶『実は昨日の任務で保護した子が薬を飲んでくれなくて』
胡蝶『どうやら女の人が怖いみたいなんです』
困りましたねぇ、とこちらを見る胡蝶。
嫌な予感がする。
伊黒『俺は不死川を届けに来ただけだ。失礼する。』
胡蝶『まぁまぁ、1度見るだけでいいので』
胡蝶『あ、不死川さんはアオイに任せていただいて構いませんよ』
笑顔でかけてくる妙な圧は姉譲りか。
なんて考えながら渋々胡蝶の後を歩くと1番奥の扉の前で足が止まる。
胡蝶『あの子です』
部屋の奥で小さくうずくまる少女。
虚ろな瞳は海の如く深みのある浅葱色。
幼い頃の自分と重なる。
伊黒『名は?』
胡蝶『それも分からなくて。そもそも名前もないのかもしれませんね』
伊黒『どういうことだ』
胡蝶『この子…』
胡蝶の話によると、この少女の親は生まれた子供を皆 鬼に売っていたらしい。
長子として生まれた少女は弟妹を育てさせられていたとか。
伊黒『それで何故女に恐怖心がある?』
胡蝶『おそらく母親からの暴力でしょうね』
胡蝶『父親はほとんど家に居なかったようなので』
目の前で自分の話をしていると言うのに少女は依然としてぼうっとどこかを見つめている。
胡蝶『伊黒さん、しばらくこの子預かっていただけませんか?』
伊黒『何故俺がそんなことをしなくてはならない』
胡蝶『だってここは女性しかいませんし』
胡蝶『それに他の男性陣は子供の相手は向いていないでしょう?』
言われてみれば、岩柱は口下手、音柱は女がいる、その他も向いているとは言えないだろう。
伊黒『…分かった。但し1ヶ月だけだぞ。』
胡蝶『ありがとうございます』
上手く口車に載せられた。
やはりこの女は侮れない。
蛇柱邸
少女は抵抗もせず着いてきた。
手を差し出せば素直に取り、逃げることもしなかった。
だが、終始虚ろな目をしていた。
伊黒『名はなんという?』
少女『……』
伊黒『言わなければ分からない』
少女『……ありません』
やはり名は付けられていないようだ。
伊黒『なんと呼べばいい』
少女『…お好きなように』
まるで興味が無いかのように話す少女。
少女『……!』
伊黒『…?』
突然鏑丸が少女に近づく。
少女『…きれい、』
瞬間、少女の瞳が輝いたように見えた。
伊黒『…巳琴』
少女『……?』
少女の瞳がこちらに向く。
伊黒『お前の名だ。』
伊黒『蛇が気に入ったなら巳の字を取って、』
伊黒『琴は、巳の字に合う。』
伊黒『気に入らなければ他のものを考える』
少し俯いて、またこちらを向く。
巳琴『いえ、気に入りました』
少女改め巳琴が微笑む。
女を毛嫌いしてきたが、子供なら悪くはない。
伊黒『今日はもう遅い。布団を用意させるから寝ろ。』
巳琴『はい。お休みなさいませ、旦那様。』
深々と頭を下げる巳琴の姿はとても子供とは思えなかった。
巳琴side
弟が居た。
4人。
妹が居た。
3人。
私と同じで名前も付けて貰えなかった可哀想なあの子達。
5年しか生かしてあげられなかった。
あの鬼にみんな喰われた。
私の目の前で。
珍しい目の色をしている私は鬼にも父にも気に入られていた。
だからいつまでも生かされていた。
あの鬼から弟を守ろうとして逃げた夜
半分ほど山を降りたあたりで 大きな音がして
気がついたら家に引き戻されていた。
弟はもう喰われていた。
倒れた時にぶつけたのか、はたまた心労からか、いつまで経っても右耳は聞こえないままだった。
血肉を裂く気色の悪い音が、聞こえないはずの右耳の中で何度も聞こえてくる。
まだ小さな弟妹たちは髪を抜かれ、爪を剥がれ、耳が痛くなるほどの大声で泣き叫んでいた。
その姿を見て嘔吐する私の姿さえ愉しむような卑劣な鬼だった。
美しい蝶のようなひとが来た時、最後の妹の首が裂かれた。
山に響き渡る程の悲鳴が
ぐぢゃっという音と共にぴたっと止まった。
喉が焼けるような鉄の匂いでくらくらした。
もうどうでもよかった。
誰も守れなかった。
早く死にたかった。
女の人が嫌いなのは、
母さんが殴るからじゃない。
「女になんて生まれなければ」
そうやって何度後悔したことか。
弱い。
小さい。
何も守れない。
父さんに媚びる母さんが気色悪かった。
私もそうしなければいけないのが苦しかった。
でもそうしなければ酷いお仕置が待っていたから。
そうしなければご飯が貰えなかったから。
弟が、妹が、お腹を空かせて泣くから。
生きて、欲しかったな。
目を覚ますと、縞模様の羽織の人が居なくなっている。
久々に朝まで眠れたような気がする。
今まではいつ弟妹が殺されるかと気が気でなかったから。
布団を片付け、大きな屋敷の廊下を歩き出すと、後ろから人の気配を感じる。
伊黒『起きたか』
巳琴『おはようございます。起きるのが遅くなってしまい申し訳ありません。』
顔を上げると、心なしか顔を顰めている。
何か間違えてしまったかな。
数秒の沈黙が流れる。
伊黒『今日は出かける。』
巳琴『はい、行ってらっしゃいませ』
伊黒『何を言う。お前も行くんだ』
売りに出されるか、はたまた捨てられるか。
嫌な想像が頭を過ぎる。
でもどれも今までの暮らしと比べれば楽なものだ。
巳琴『失礼しました。すぐに支度をします。』
とは言っても替えの服も持ち物もない。
伊黒『外に井戸がある。顔を洗え』
巳琴『はい』
少しだけ、もう少しだけ、この人と居たいと思ってしまった。