テラーノベル
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「うわ、まるでハリウッドドリームじゃん。シングルで頑張ってたら社長にみそめられて、今じゃこんなでかい会社の社長夫人なんでしょ? そりゃ娘に晴れ着くらい着せるわ」
「本当、すごいよね……」
いつきくんが、少しだけ切ない顔をした。もしかして、また奥さんのことを思い出してしまったんだろうか。いっちゃん、もうその話はやめようね。
「りゅうせいは何か知らないの? カレンちゃんと仲いいじゃん」
「え~、そんな話したことないよぉ? いっつもいつきくんかだいきくんの話しかしないもん」
「……だから、なんでそこに俺の名前が出てこねぇの?」
「俺が超ウルトラはちゃめちゃかっくいーだからだよ、きっと」
「なっちゃんが格好良すぎたんじゃない?」
「まあ……まあまあまあまあ」
「誰か俺の『かっくいー』に反応してよ!」
いっちゃん、満更でもなさそうだ。……っていうか、それ暗に俺のことをディスってるからね? 否定できない事実だから突っ込まないけどさ!
……それより、婿養子って何だ。
もしカレンちゃんが社長令嬢なのだとしたら、それが目的で俺に近づいたって事か?
この会社でそこそこ仕事ができて、大きな問題も起こさず、それなりの忠誠心があって……。おまけに「絶対に女の恋人がいたことがない」俺が、ちょうどいい駒だったってことかよ。
「でもさ、カレンちゃん関西弁だよね? 社長の娘ってことはなくない?」
「本当だ。社長、関西人じゃないよね?」
「……じゃあ、ミレイちゃんの方かな、きっと」
なんだろう。俺、めちゃくちゃホッとしている。
もしカレンちゃんが令嬢なら、上手くいけば俺は次期社長になれるかもしれないのに、全然嬉しくないんだよ。
俺の前のカレンちゃんが、全部偽物で、全部演技なのだとしたら……そんなの、辛すぎる。
――いや、違う。結局、女の欲に振り回されて、社長の座をチラつかされて利用されるのが気に食わないだけだ。
「うわっ、俺またカレンちゃんのLINE聞くの忘れた!」
「わざわざ何しに行ったの、だいきくん」
「どのタイミングでそんな大事な事忘れるくらいに、美女二人と楽しい会話に持っていけたんすか? 俺にその技、伝授してくださいよ!」
いっちゃん、女の子に飢えているのか食いつきが凄い。そんなに格好いいんだから、焦らなくていいのに。
そもそも、着物の画像をもらったきっかけであの流れになったなんて、絶対言えない。だってそれじゃ、俺がカレンちゃんのことを好きみたいじゃないか。そんなの天変地異すぎて、俺自身がひっくり返ってしまう。
「……だいき、あそこ」
「ん?」
突然いつきくんが入口を指差した。
そこには――カレンちゃんが立っていた。
え、わざわざここまで、俺に会いに来てくれたの?
「嬉しそうっすね、だいきくん」
「……いっちゃん、人殺しみたいな声してる」
「べ、別に嬉しそうじゃないし。りゅうせいに用事なんじゃない? だって仲良いし、ターゲットが俺とは限らないんだからね!」
「なにそのツンデレ女子みたいな言い方。絶対だいきくんでしょ。さっきカレンちゃんのとこにわざわざ行ったのに、何も聞かないでアホみたいに帰ってきたんだから」
「アホみたいってなんだよ。宇宙の果てまでぶっ飛ばすぞ」
「その返しもアホみたいだけどね」
まあ、いつきくんにウケたからもういい。いっちゃんと不毛なやり取りをしている間に、りゅうせいがカレンちゃんの下へ行ってくれた。ありがとう。これで本当に俺の用じゃなかったら、マジで生き恥を晒すところだった。
「だいきくぅ~ん!! カレンちゃんが呼んでるよ~!」
俺の方を向いて大きく手を振るりゅうせい。やめろよ、カレンちゃんがめっちゃ恥ずかしそうにしてるじゃないか。
「あ、ごめんね、わざわざ……。えっと、あ!お金入れてくれてたじゃん。昨日は俺の奢りだったから、本当、いらないよ」
急に来たLINEを聞き出すチャンスに勇気が持てなくて、まずは堅実にお金の話を持ち出した。女の子相手に何ひよってんだよ。俺。
財布から、もらったままの五千円札を取り出してカレンちゃんに差し出す。
あの状況なら、女の子なら「奢られて当たり前」と思っても不思議じゃないのに。わざわざ俺が後で気づくように渡してくるなんて、本当に大したものだ。
彼女はそっとそれを受け取ったが、何か言いたそうに俯いている。
お金を返されるのは、やっぱり恥ずかしかっただろうか。黙ってもらっておいた方が、彼女の気は済んだんだろうか。
「……奢られると、次誘ってもらえないような気がして、不安になるんです。……また誘ってほしいから、これ、受け取ってもらえませんか?」
うわ。さっきカウンターで話した時は「友達」の感覚を取り戻したのに、また敬語だ。
カレンちゃん、緊張するとこうなるんだよな。……ほら、俺にまで震えがうつっちゃうじゃん。
少し震えているカレンちゃんの手から、再びお札を受け取る。
「……わかった。じゃあ、また昨日みたいにみんなで飲みに行こう。今度は最初から全員割り勘で。そしたら、不安じゃなくなるでしょ?」
「……はい! あ、そしたら連絡先を教えてもらってもいいですか? その方が日程も合わせやすいですし。……こないだみたいに、だいきさんのいない所で『写真展』が開催されることもなくなると思います!」
「ちょっと! カレンちゃん、わざとでしょ! あんな恥ずかしいことなかったんだからね!」
「だって、皆さんにはいち早く、だいきさんの最高の笑顔を見て欲しくってぇ」
「絶対バカにしてんじゃん!」
さっきまで緊張で震えていたかと思えば、すぐにこうやってふざけてくる。
連絡先だって、俺が言い出しにくいから、わざわざ理由を付けて聞いてくれたんだろう?
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萩原なちち