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5 ◇美代志くん
「私ね、困っている人を見るとなんとなぁ~く、分かるっていうか」
私は話をしながら、彼にお弁当箱と濡れたタオルを差し出した。
「じゃあ、遠慮なくいただきます。
実は腹減って死にそうだったんであなたが天使に見えます」
「私ね、蒼馬由香っていいます」
「これっ、上手いです」
彼は出し巻き卵をほおばりながら、うれしい感想を放ってくれた。
そして少し咀嚼してから……
「僕は月城美代志っていいます」と名前を教えてくれた。
「苗字も名前も、少し珍しいね」
「よく言われます」
「何か、事情があるんだと思うけど……。
もしかして今夜寝る場所って決まってるのかな?」
「恥ずかしいっすけど、このベンチか、あとでその辺うろうろして人目に
付かないベンチに寝る予定です」
「誰か身寄りはいないの? ……っていないのよね。
今はここで寝るとして、この先の予定は何か考えてるの?」
「高校卒業してから、すぐに母親が亡くなって実家の後始末をしてから
こっちに仕事を見つけて出て来たんですけど、派遣で切られてから
家賃も払えなくなって」
「ねっ、お金は後から返してくれたらいいわ。
今夜はとりあえず、この公園のひとつ向こうに走ってる道路沿いを
駅に向かって行くと、ビジネスホテルがあるからそこに泊まれば?」
「えっ……すごく助かるけど、お金返せないかもしれないですよ」
「いいわよ。その時はその時で、私、お金持ちだから。そうしよっ、ねっ?」
「なんか、いろいろモヤモヤするけど背に腹は代えられないっす。
すみません、お世話になります」
「あのね、祖父母が住んでた家なんだけどその空き家をね、私持ってるからそこに
あとで移動すればいいかなと思ってるの。
ただね、たまたま今日は有給とってただけで、私こう見えても会社員だから
少し準備に時間がかかりそうなのよね。
明日、明後日とホテルにいてもらって、明後日迎えに行くからそれまで
ホテルで待っててくれないかな」
「分かりました。何からなにまでありがとうございます」
こんな風にして私と美代志くんの交流が始まった。