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「さっきの彼……まさかあの中原秋也先生の甥だったなんて……。まだ信じられないわ」
突然、少女みたいに両手を胸元で組み、ほぅと息を吐く。
うーん……随分調子のいいことで。
「秋也先生の小説って、読むたびに涙が出ちゃって。あの『雨粒』って作品、沙耶さんあなた知ってる? 恋愛だけじゃなくて人生観まで変えてくるのよ。もう最後まで読んで感動して……」
知ってるけど。私もいいなって思っているので、同調しておいた。
「涼二。ほんと、いい人と知り合ったのねぇ。叔父さんに憧れて同じペンネームにしちゃうなんて。しっかりしていたし……素敵なひとなんでしょうね」
お義母さんは涼二に向き直った。「今度、ぜったいに秋也君を家に連れてきて!」
「え、ああ。うん。でも、最近知り合ったばかりだし、まだ僕も会ったことがなくて……」
「だったら今度ご招待なさい! いい? 失礼のないようにするのよ!」
なんか、めちゃくちゃ機嫌がいい。ここまで豹変するかってくらい上機嫌。帰り際には「沙耶さん、また来るからよろしくね!」とニコニコしながら手を振っていった。
さっき『詩人なんてふざけてる!』って叫んでたひとと同一人物ですか?
玄関が閉まり、ようやく静寂が戻る。
「あのね涼二。秋也って誰? どうして急にお義母さんが家に来て、意味不明なことになってるの? 説明して!」
本来であればこの修羅場の意味も、秋也という人物も知らないであろう沙耶の設定を思い描きながら、私は怒った。これもすべて、私の脚本どおり。
「あ、ごめん。実は――」
諸々を説明させ、これで私も『秋也という人物を今初めて知った』という図を彼に植え付ける。涼二から話を聞いている最中に、彼のスマートフォンにメッセージが入った。
《ボクが余計なこと言ったから、涼二が怒られたんじゃない? ごめんね》
ちらっと見えたのは、天魔がなりすましてくれた秋也からのメッセージだ。
もう、天魔、ナイスタイミングすぎるよ!!
これで私が秋也になりすまし、シナリオについての投稿や小説、簡単な短歌みたいなものはすべてAIに書かせてSNSに投稿し、涼二を感激させているなんて思わないだろう。
理咲と浮気した証拠を集めていることや、秋也に涼二の気持ちを傾け、信頼や尊敬の念を抱かせ、それを愛情とはき違えさせようと目論んでいるなんてことにも、ね。
「さっきの友人からだよ。返信してもいいかな? 母さんが急に電話して迷惑かけちゃったから」
「どうぞ。それよりご飯作っていいかしら?」
「ああうん。お願いします」
ほっとした顔で涼二がリビングのソファーに座り、天魔とメッセージをやり取りし始めた。
そういえば最近、理咲のSNSに涼二の話題が出なくなったな。そろそろ涼二、捨てられるかんじ?
それ、面白すぎるんだけど。明日、天魔に聞こう。
私がキッチンで食事を作っている間、涼二は天魔が扮した秋也とやり取りをしていた。ふふ。このこともネタにして、脚本を書こう。
※
「ほ・ん・と、助かった!」
翌日。エンビルに行って天魔にお礼を言った。赤ワインを持参したので、彼は唇の端を吊り上げ、喜んでいる。
「沙耶が機転を利かせてくれたから、それに乗じたまでだ」
「それはこっちの台詞。あのカタブツのお義母さんまで信じ込ませるあなたの話術がすごすぎるっ」
お礼のワインを差し出しながら、早速昨日の彼の行動を褒めちぎった。
今日は預けたスマートフォンを回収しに彼の下を訪れたのだ。再び私が秋也になるために。
涼二は今日、義母に捕まってマンションへは帰ってこない。秋也への連絡がバンバン入ってきているが、今は忙しいから後で返信する、とだけ入れておいた。
「そういえばこのお店って、他のお客さん来ないの?」
今さらながら、いつ来ても私しか来客がいないので、気になって聞いてみた。
「ああ。この界隈の人間は、エンビルがどういうところか知っているから来ない。でも、時々酔っ払い客が一見で入ってきたりするから、ミーティングする時は基本、貸し切りの札を出しておくんだ」
「へえ」
確かに貸し切りの札をかけてくれていることが多い。
それはそういう意図があったからなのね。エンビルについてもまだまだわからないことが多い。敢えてすべてを知らなくてもいいのかな。
「それより、理咲がそろそろ旦那に見切りをつけたそうにしている。だから協力しようと思っているんだ」
「私もそれ、思ってた。だって話題に出るのが秋也の話ばかりになってきたから」
「沙耶も鋭いな」
「まあね。本格的にあの二人を別れさせるの?」
天魔がワインを飲みながら頷いた。「そのために準備してきたんだ。でも、別れたからって今まで沙耶が受けた屈辱や浮気した事実は消えないから。慰謝料はむしり取る」
「そんなに慰謝料って取れるものなの?」
「厳密に言うと、慰謝料だけじゃない。貢がせて吸い取って、法的にも取る。だからむしり取るってこと」
「なるほど。でもどうやるの?」
「別れさせ屋を使うんだ」
ん?
「えっ、あなたが別れさせ屋じゃないの?」
私のシナリオでは、天魔が別れさせ屋(男)のつもりなんだけど、どういうことなの――?
コメント
1件
ああっ、今回は沙耶の計画が着々と進んでてめっちゃ面白かった…!😳✨ お義母さんの豹変っぷりには笑ったけど、あれも沙耶の脚本通りってのがもう、怖いくらい計算され尽くしてるよね💦 それにしても天魔との連携プレーが完璧すぎて、逆に「このふたり、ほんとに何者!?」って思っちゃったよ! 最後の「別れさせ屋を使う」発言で沙耶が固まるところ、めっちゃ気になる〜!まさか天魔自身が別れさせ屋じゃなかったの!?😱 しかも理咲に涼二が見切られ始めてるって天魔が言ってたのも、今後の展開が気になりすぎる…! 続きめっちゃ楽しみにしてるよ!更新待ってるね🌸✨