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北の山では相変わらずドワーフたちが鉄を掘り出しては積み上げ、街へ卸すものをインゴットへ加工している。
だがここ最近少し変わったことがあり、採掘場が東の方に出来た新しい坑道へと変わったこと。そして作られたインゴットの一部においては年若いドワーフのトマスが、同じ村内に作られた専用の鍛冶場でツルハシやスコップ、あるいは街に卸す金物などを作るようになっていた。
それは同じドワーフの村人から見ても不思議で、どうしてそういう加工が出来るのか分からないのだ。
トマスはまだ子供だ。村の大人も出来ないから教えることももちろんない。何故できるのかと聞いたところ、出来ちゃうからという何とも答えになってない返事が返ってきた。
少年の姉であるリエは、街に降りた時に世話になった鍛冶屋の男に聞いてみたところ、「それはスキルが発現したからだ」という聞き慣れない言葉を聞かされてさらには、そのうち分かるようになると、半ば無理矢理に納得させられた。
スウォードの街にもスキルの使い手はいる。
巨人の血に目覚めた男に、剣士の男。そしてすんごいエルフという有名人にどこぞの鍛治職人。さらに言えばすんごいエルフについては、魔術の行使も広く知られている。それは風を操ったとか、巨きな鳥を喚びだして乗っていたとか。
それらはこれまで平和なだけのこの街では見られなかったものだ。
だが街の人たちは凄いなと驚くも素直に受け入れていた。
季節は夏。スウォードの東にある街道を、てくてくと歩く人影がひとつ。広い耕作地帯に旅人ひとりで青空を楽しみ草の薫りに安らぎながら歩く。
のうさぎさえバテて外に出てこないほどに暑いのに馬も馬車も使わずおおきなカバンを背負って頭にはツバの広い帽子。
背丈は小柄で初期のミーナくらい。グレーのローブは魔術士っぽいということで買ったものだが、さすがに暑いらしくフードは脱いで前は開けている。
この先にはスウォードの街があるという事を知っている歩き方で、目的のためこうしてひたすらに目指して歩いているのだ。
農夫のおじさんがそんな旅人を見つけて声を掛ける。
「おや、珍しいなぁ。お嬢さん、どこへ行くんだい?」
声をかけられて、お嬢さんと呼ばれた旅人は答える。
「この先にあるスウォードって街っすよー。ちょっと目的があって……馬にも乗れないというのはツラいけど仕方ないっすよねー」
おじさんは目を丸くして
「そうかいそうかい。お嬢さんは知っているんだねぇ。でもここはまだ遠い。わしの馬に乗っていくといい」
そう言っておじさんは自分の馬を呼んでやった。
「ありがとうございますっすよー。でもそうするとおじさんの脚が──という心配はいらないヤツっすね。スウォードの街の馬、遠慮なく借りて行くっすよ」
そう言って旅人は馬にまたがる。別に技術的に馬に乗れないわけでもないし、もと住んでいた所でも馬は所有して乗っていた。
「街に着いたら済まないが街の外で馬を放置してくれると助かる。勝手にここに来てくれるからの」
「分かりました。ありがとうございますっすよ──通してくださって」
おじさんは笑みを深めて見送った。