テラーノベル
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「今すぐ、葵ちゃんの連絡先をブロックして? そして……私の前で、葵ちゃんのスマホを思い切り踏み潰して?」キララの言葉が、じわじわと耳から脳の奥へと染み込んでいく。
あまりに冷徹で、理不尽で、悪意に満ちた選択肢。
俺を見上げるキララの瞳には、一片の迷いも、罪悪感も存在しなかった。ただ純粋な「欲望」と、俺を自分のものにするという圧倒的な「確信」だけが、その綺麗なガラス玉のような瞳の奥に蠢(うごめ)いている。
「……ブロックして、スマホを踏み潰せ……?」
自分の声が、自分のものではないみたいに遠く聞こえる。
「そうだよ? 簡単でしょ?」
キララは首を小首を傾げ、まるで『おやつの時間を少し遅らせる』とでも言うような軽やかさで微笑んだ。
「貴大くんの手で、葵ちゃんとの繋がりを完全に断ち切るの。そうしたら、葵ちゃんの心臓を止めるプログラムは途中で停止させてあげる。ね? 命が助かるんだから、葵ちゃんにとっても嬉しいことでしょ?」
「そんなの……っ、できるわけないだろ!!」
俺の叫び声が、誰もいない静まり返った廊下に虚しくこだまする。
葵は、俺の幼馴染だ。
くだらない雑談で笑い合い、落ち込んだ時には当たり前のように隣にいてくれた、俺の日常そのものだ。
その連絡先を自分の手で消し去り、彼女の大切なスマホを目の前で踏みにじるなんて——そんな辱めと拒絶を、俺の手で葵に与えろというのか。
「あ……あ……たか、ひろ……くん……」
背後から、途切れ途切れの声が聞こえる。
振り返ると、葵は廊下の床に両肘をつき、呼吸もままならない様子で胸元を激しく上下させていた。
「助け……て……胸が……熱く……て……っ」
顔色はすでに土気色に変色し、額からはダラダラと脂汗が流れている。
床に転がった彼女のスマホ画面。そこで刻まれる赤い数字は、もはや無情なスピードでカウントダウンを続けていた。
『あと 01:15』
『あと 01:14』
『あと 01:13』
「あ……あぁ……っ!」
一秒ごとに、葵の命が削られていく。
一秒ごとに、葵の身体が恐怖で壊れていく。
「ねえ、貴大くん。あと一分しかないよ?」
キララが、俺の制服の袖をキュッと細い指先でつまんできた。
その小さく華奢な手のひらから伝わってくるのは、ゾッとするほど冷ややかな温度。
「迷ってる間にも、葵ちゃんの心不全プログラムはどんどん進行しちゃう。このままだと……葵ちゃん、目の前で泡を吹いて倒れちゃうよ? 貴大くんのせいで」
「俺の……せい……!?」
「そうだよ。貴大くんが今すぐ決断しないから、葵ちゃんが苦しんでるの。……可哀想だと思わないの?」
耳元で囁かれる甘い毒。
脳ミソが麻痺していく感覚がした。
選択肢なんて、最初から与えられていないのだ。断れば葵が死ぬ。従えば、俺は葵を裏切り、キララの奴隷になる。
指先が、ガタガタと激しく震える。
俺はポケットの中で握りしめていた自分のスマホを取り出した。
画面を点灯させる。LINEの画面。友達一覧。
一番上に表示されている『一ノ瀬 葵』の名前。
「そう……偉いよ、貴大くん」
キララが嬉しそうに、うっとりと目を細めて俺の顔を覗き込んでくる。
その吐息が、俺の頬に触れる。
「葵ちゃんをブロックして……それから、床のスマホを踏んで? 早く」
俺の親指が、画面上の『ブロック』のボタンの上で静止する。
たった一回、画面をタップするだけだ。
それで葵の命が助かるなら——。
だが、画面に触れようとしたその瞬間。
「……ダメ……っ……たかひろ君……!」
床に倒れていた葵が、最後の力を振り絞るようにして、叫んだ。
「ダメ……っ! そんなの……絶対……従っちゃダメ……っ! 私は……大丈夫……だから……っ!!」
「葵……!?」
葵は涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げ、必死に俺を見つめていた。
呼吸も途切れ途切れで、体は今にも崩れ落ちそうなのに、その瞳だけは力強く、俺を引き留めようとしていた。
「そんなの……たかひろ君じゃない……! この女の……思い通りになっちゃ……ダメ……っ!!」
「葵ちゃん、うるさいな」
キララが冷ややかな視線を葵に向け、スマホの画面をサッと一撫でしようとした。
「生意気だから、やっぱり今すぐ——」
「やめろぉぉぉぉっ!!!」
俺は叫びながら、己のスマホを握りしめ、キララと葵の間に身体を割り込ませた。
頭の中で、何かがぶちりと切れる音がした。
恐怖も、混乱も、全てを塗りつぶすような怒りと焦燥。
俺は自分のスマホ画面の『ブロック』を——タップしなかった。
代わりに、俺が選択した『行動』は——。
桜咲かな
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#学園
人間🫧🪄/👤💚
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コメント
1件
「キララちゃんの執着がどんどん重くなってる……あの『迷ってる間に葵ちゃんが苦しむのは貴大くんのせい』って言葉、本当に狡猾だよね。自分が加害者である自覚が完全に欠けてるのがゾッとする。そんな中で葵ちゃんが『私のことは大丈夫だから従っちゃダメ』って最後の力を振り絞って叫んだシーン、めっちゃ泣けた。スマホを踏み潰さず、ブロックもしなかった貴大くんの選択、本当に良かった。でもこの先どうなるんだろう……キララちゃんの目は完全にギャルギャルしてたし、続きが気になって仕方ないです🥀」