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🌙瑠海🎧@ひまがく
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「キララちゃんの執着がどんどん重くなってる……あの『迷ってる間に葵ちゃんが苦しむのは貴大くんのせい』って言葉、本当に狡猾だよね。自分が加害者である自覚が完全に欠けてるのがゾッとする。そんな中で葵ちゃんが『私のことは大丈夫だから従っちゃダメ』って最後の力を振り絞って叫んだシーン、めっちゃ泣けた。スマホを踏み潰さず、ブロックもしなかった貴大くんの選択、本当に良かった。でもこの先どうなるんだろう……キララちゃんの目は完全にギャルギャルしてたし、続きが気になって仕方ないです🥀」
「今すぐ、葵ちゃんの連絡先をブロックして? そして……私の前で、葵ちゃんのスマホを思い切り踏み潰して?」キララの言葉が、じわじわと耳から脳の奥へと染み込んでいく。
あまりに冷徹で、理不尽で、悪意に満ちた選択肢。
俺を見上げるキララの瞳には、一片の迷いも、罪悪感も存在しなかった。ただ純粋な「欲望」と、俺を自分のものにするという圧倒的な「確信」だけが、その綺麗なガラス玉のような瞳の奥に蠢(うごめ)いている。
「……ブロックして、スマホを踏み潰せ……?」
自分の声が、自分のものではないみたいに遠く聞こえる。
「そうだよ? 簡単でしょ?」
キララは首を小首を傾げ、まるで『おやつの時間を少し遅らせる』とでも言うような軽やかさで微笑んだ。
「貴大くんの手で、葵ちゃんとの繋がりを完全に断ち切るの。そうしたら、葵ちゃんの心臓を止めるプログラムは途中で停止させてあげる。ね? 命が助かるんだから、葵ちゃんにとっても嬉しいことでしょ?」
「そんなの……っ、できるわけないだろ!!」
俺の叫び声が、誰もいない静まり返った廊下に虚しくこだまする。
葵は、俺の幼馴染だ。
くだらない雑談で笑い合い、落ち込んだ時には当たり前のように隣にいてくれた、俺の日常そのものだ。
その連絡先を自分の手で消し去り、彼女の大切なスマホを目の前で踏みにじるなんて——そんな辱めと拒絶を、俺の手で葵に与えろというのか。
「あ……あ……たか、ひろ……くん……」
背後から、途切れ途切れの声が聞こえる。
振り返ると、葵は廊下の床に両肘をつき、呼吸もままならない様子で胸元を激しく上下させていた。
「助け……て……胸が……熱く……て……っ」
顔色はすでに土気色に変色し、額からはダラダラと脂汗が流れている。
床に転がった彼女のスマホ画面。そこで刻まれる赤い数字は、もはや無情なスピードでカウントダウンを続けていた。
『あと 01:15』
『あと 01:14』
『あと 01:13』
「あ……あぁ……っ!」
一秒ごとに、葵の命が削られていく。
一秒ごとに、葵の身体が恐怖で壊れていく。
「ねえ、貴大くん。あと一分しかないよ?」
キララが、俺の制服の袖をキュッと細い指先でつまんできた。
その小さく華奢な手のひらから伝わってくるのは、ゾッとするほど冷ややかな温度。
「迷ってる間にも、葵ちゃんの心不全プログラムはどんどん進行しちゃう。このままだと……葵ちゃん、目の前で泡を吹いて倒れちゃうよ? 貴大くんのせいで」
「俺の……せい……!?」
「そうだよ。貴大くんが今すぐ決断しないから、葵ちゃんが苦しんでるの。……可哀想だと思わないの?」
耳元で囁かれる甘い毒。
脳ミソが麻痺していく感覚がした。
選択肢なんて、最初から与えられていないのだ。断れば葵が死ぬ。従えば、俺は葵を裏切り、キララの奴隷になる。
指先が、ガタガタと激しく震える。
俺はポケットの中で握りしめていた自分のスマホを取り出した。
画面を点灯させる。LINEの画面。友達一覧。
一番上に表示されている『一ノ瀬 葵』の名前。
「そう……偉いよ、貴大くん」
キララが嬉しそうに、うっとりと目を細めて俺の顔を覗き込んでくる。
その吐息が、俺の頬に触れる。
「葵ちゃんをブロックして……それから、床のスマホを踏んで? 早く」
俺の親指が、画面上の『ブロック』のボタンの上で静止する。
たった一回、画面をタップするだけだ。
それで葵の命が助かるなら——。
だが、画面に触れようとしたその瞬間。
「……ダメ……っ……たかひろ君……!」
床に倒れていた葵が、最後の力を振り絞るようにして、叫んだ。
「ダメ……っ! そんなの……絶対……従っちゃダメ……っ! 私は……大丈夫……だから……っ!!」
「葵……!?」
葵は涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げ、必死に俺を見つめていた。
呼吸も途切れ途切れで、体は今にも崩れ落ちそうなのに、その瞳だけは力強く、俺を引き留めようとしていた。
「そんなの……たかひろ君じゃない……! この女の……思い通りになっちゃ……ダメ……っ!!」
「葵ちゃん、うるさいな」
キララが冷ややかな視線を葵に向け、スマホの画面をサッと一撫でしようとした。
「生意気だから、やっぱり今すぐ——」
「やめろぉぉぉぉっ!!!」
俺は叫びながら、己のスマホを握りしめ、キララと葵の間に身体を割り込ませた。
頭の中で、何かがぶちりと切れる音がした。
恐怖も、混乱も、全てを塗りつぶすような怒りと焦燥。
俺は自分のスマホ画面の『ブロック』を——タップしなかった。
代わりに、俺が選択した『行動』は——。